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Witch Squadron  作者: Se-34gu-0
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FILE 003

量産型飛行ユニット運用計画、凍結。


その報に、統合作戦技術開発局は未曾有の混乱に陥っていた。


理由は単純かつ、致命的。魔女たちの飛行特性が、あまりにも統一できないのだ。


飛行高度、加速感覚、旋回挙動。


規格化された同一装備であるはずなのに、跨る搭乗者によって性能そのものが別物へと変貌してしまう。


「あり得ん……数字が狂っている……」モニターの波形を見つめ、技術主任は頭を抱えていた。


「もう飛行機じゃないだろ、これ……」同僚の技術官が吐き捨てるようにこぼす。


「航空工学の技術も組み込んではいるが、核となる8割は魔術回路だ。そもそも、軍の分類上も『箒』だからな」


鉄と油の匂いが満ちる格納庫には、今日も魔女たちのオカルト染みた不満が飛び交っていた。


「この子、今日の風を怖がってます」

「加速すると後ろが泣いてる感じがするの」

「昨日より空が遠いです……」

「この子、たぶん雷が嫌いなんだと思う」


計測器には映らない「感情」を訴える彼女たちに、若い整備員が壁にもたれて溜息をついた。


「……クソ、誰かあいつらの言葉を翻訳してくれよ」その時、格納庫の喧騒の隙間を縫うように、小さな声が響いた。


「あ、あの……たぶんですけど……」振り返った男たちの視線が、入口の一点に集まる。


そこにいたのは、一人の少女だった。


艶のある黒髪、折れそうなほど細い体。


おどおどとした頼りない表情。しかしその胸元には、統合作戦補助要員の簡易識別章が鈍く光っていた。


「わ、私は、補助解析担当の……イズモ、です……」イズモは周囲の威圧感に縮こまりながらも、言葉を紡いだ。


「えっと……皆さん、多分“系統”が違うんだと思います」格納庫が、冷ややかな沈黙に包まれる。


技術主任が厳しい目で眉をひそめた。


「系統、だと?」


「あっ、す、すみませんでし、た……!」


イズモはびくりと肩を震わせながらも、必死に言葉を繋ぐ。


「えっと……魔女って、その、生まれ育った土地ごとに『飛び方』の基礎が違うんです……」主任は腕を組み、値踏みするような視線を少女に向けた。


「詳しく話せ」喉を鳴らし、イズモは小さく頷いた。


「北方系の方は、吹雪に耐えるために安定性を最重視します」


「海洋系は、海霧の湿度と気まぐれな風流を読む傾向があります」


「砂漠系は、容赦ない熱上昇気流を捕まえるのが得意ですし……」


「山岳系は、切り立った崖での急激な高度変化に適応する能力が高いです」端末を叩いていた記録担当官の手が止まり、呆然と呟いた。


「……データにない個体差の正体は、それなのか……?」


「あとは、それぞれの習得している飛行以外の魔法の種類にもよります。」


少女はさらに小さくなる。


「わ、わたしの国は、その……もっと細かく分かれていて……」


「細かく?」


「そ、それこそ信仰や地域によって変わるんです……魔女の能力も」


格納庫が静まり返った。


技術主任がゆっくりと聞き返す。


「信仰?」少女は恐る恐る頷く。


「昔から、空にも風にも道具にも神様が宿る、っていう考え方があって……」


「だから皆、“空との付き合い方”が違うんです」


若い整備員が遠い目をした


。「……また難しい話が増えたな……」


しかし、少女の瞳は真剣だった。


「例えば、“この子、真っ直ぐ飛びたがってる”っていうのも……」


「多分、進行方向への流れを強く感じる系統なんです」


技術主任の眉がわずかに動く。


「……つまり?」


「えっと……旋回時の感覚負荷を、彼女は“機体の意思”として認識しているんだと思います……」


沈黙。


科学的な理論としては、意味不明だった。


だが。


今までで一番、納得できる説明でもあった。


少女は続ける。


「魔女は、自分に近い“空の形”を探して飛んでるんです」


「だから、合わない装備は……飛べなくはなくても、飛びたくなくなるんです」


技術主任は深く息を吐いた。


「……じゃあ、お前は全部分かるのか?」


少女は慌てて首を振る。


「む、無理です!」


「わ、わたしはただ……自分の国の系統を勉強していただけで……!」


「普通の魔女は、自分の系統しか覚えませんし……!」


「でも、どうしても気になってしまって……」


記録担当官が、手元の端末を確認しながら声を裏返した。


「待て……イズモの国だけ、分類数が異常だぞ!!」


少女は申し訳なさそうに俯いた。


八百万やおよろずの思想が混ざっているので……」


「風神系、山神系、水神系、雷神系、精霊系、器物系……」


若い整備員が力なく笑う。


「終わったな、俺たち」


だが、技術主任だけは黙って少女を見つめていた。


そして、静かに問いかける。


「君は、いくつの系統を知っている?」


少女がびくりと震える。


「よ、四百万、です……」


「時間はあったので……。わ、わたし、強くないから……」


「普通、私の国では強い方なら、十系統くらいは覚えて使い分けます……」


技術主任の目が、鋭く細められた。


「イズモだったな。君は補助解析担当だったか」


「は、はい……」


「今日から、お前を専属にする」


「えっ」


少女の顔色が、一気に青くなる。


「む、無理です!」


「わ、私にそんな大役……!」


「無理じゃない」


技術主任は即答した。


「お前にしか、翻訳できん」


格納庫が、今度こそ完全に静まり返る。


少女は目を丸くした。その言葉に。


その信頼に。


少女は少しだけ困ったように、けれど嬉しそうに笑った。


「……が、頑張ります」後に。


彼女の解析理論は、――“Witch Squadron 感覚適応理論”として正式採用されることになる。


それは、人類が初めて。“魔女の飛び方”を理解しようとした、最初の記録だった。

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