FILE 20
FILE 20 「大人たちの苦悩」
工場長と整備長は、目の前に置かれた試作背部ユニットを静かに見つめていた。
「…… 懐かしいものだ」
「まったくです。レイラがあの作戦から帰らなかった日から、もう随分と時が流れたように感じます」
工場長は装置の表面に残る古い傷を指でなぞり、低い声で続けた。
「皮肉な話だが、あいつが命を賭けて結果を出してくれたからこそ、今ここにいる俺たちは生きていられるんだ」
当時は予算も資材も限られ、軽量化を優先するため、やむを得ず一部に木材を使った。金属の冷たい質感と木の温もりが奇妙に調和したこの代物を見ていると、二人の脳裏にはあの日の笑顔が鮮明によみがえる。
「すごい! とても綺麗だよ!」
太陽のように明るい声が、まるでその場に響いてくるようだ。
「部分的に使った木材の加工も丁寧だけど、硬い金属とのコントラストがすごく私の好みに合うわ!」
記憶が蘇ると同時に、改めて図面や内部構造を読み解くにつれ、二人の眉間には自然と緊張が走った。製作に携わった自分たちですら解読に苦労するほど、難解な理論が詰め込まれていたのだ。
確かに、飛行と機動を支えるAMPとしての基礎性能は破格だった。
だが致命的な欠点がある。この膨大な出力を制御し、安定させるための調整機構が、本体側にほとんど組み込まれていないのだ。
「このまま背負って飛べば、間違いなく魔女もユニットも限界を超えて爆散するだろう」
整備長は深いため息をついた。
「そんな代物を自在に操り、戦い抜いたレイラという魔女は、本当に“化け物” だったんだな」
この長く封印されていた技術を解き明かすことができれば、ディザスター級に対抗する唯一の突破口になるかもしれない。
だが、これほど特異な機構を理解し、再開発に携われる可能性のある魔女は、あまり多くの名前が上がらない。
その内の一人の名前を考えただけで、二人の胸は締めつけられるように痛んだ。
工場長と整備長は、この瞬間改めて思い知らされる。
世界は決して優しくない。
大人たちは時に、何よりも残酷な選択を、自分たちの意志で下さなければならないのだと。
「…… 工場長。」
工場長は喉元まで込み上げる何かをぐっとこらえるように、ゆっくりと上を向いた。
「ああ…… 随分と残酷なことになる。こんな重い役目に付き合わせて、すまないな」
その言葉に、整備長は唇を噛み、深く顔を伏せる。
「覚悟はできています」
短い答えに迷いはなかった。
整備長はすぐに整備班へ招集をかけ、この長らく封印されていたユニットの再解析作業を動かし始めた。
所は変わり、技術主任の執務室。
「やはり、あの部隊しか選択肢はないのか……」
技術主任は胸の奥が締めつけられるような痛みを覚えた。
確かに、今回のユニット再開発に関して、彼女たちほどの適性と実績を備えた部隊は他に存在しない。
だが、心から納得しきれない部分もあった。
あの娘は、この危険な代物に耐えられるのか?そもそも、まともな運用試験を行うことすら可能なのか?
それでも、これが最善の選択であると認めている自分もいる。
自分にできることと言えば、整備長が指摘していた「不可解な設計部分」を徹底的に解き明かし、少しでも安全な形に近づけることだけだ。
そして、あの部隊には――もしかすると突破口になる存在がいる。
「もしかしたら…… あいつなら、何か答えを見つけてくれるかもしれない」
技術主任は痛む胃を抑えながら一人の少女を思い浮かべた。




