表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Witch Squadron  作者: Se-34gu-0
PR
18/19

FILE 18

今回はまだ新しい箒ができてないので日常回ですが、ミナとバレリアの絡みをお楽しみください。

FILE 18「魔女の鍋の大問題」


夕食時。


基地の食堂《魔女の鍋》は、今日も隊員たちの話し声と食器のぶつかり合う音で賑わっていた。


大鍋からは湯気がもうもうと立ち上り、厨房の奥からは香ばしい匂いが漂ってくる。


一日の訓練を終えた隊員たちにとって、ここは数少ない安息の場所だった。


――もっとも。


その安息を毎回かき乱す二人がいる。


「……バレリア?」


席に着いたミナが真剣な表情で呼びかけた。


「なに?」


「大変なことに気づきました……」


その言葉を聞いただけで、周囲の数名が思わず顔をしかめる。嫌な予感しかしない。


「今日のスープ」


「うん」


「すごく美味しい」


バレリアはスプーンで一口すすって頷く。


「確かに、美味しいね」


「美味しいですよね?」


「ああ、美味い昔家で出されたスープより」


「つまり――」


ミナは指でテーブルを軽く叩いた。


「何か特別なものが入ってる!」


近くの席から、ため息交じりの声が漏れる。


「料理なんだから、何か入ってるに決まってるじゃん……」


「そういう意味じゃないんです!」


ミナは勢いよく立ち上がる。


「きっと、秘密の隠し味があるんですよ!私はそう感じました!」


バレリアも腕を組み、真剣な眼差しでスープを見つめる。


「言われてみれば、そうかもしれない」


「でしょ?」


「これは解明しなければならない、そう思いませんか?」


――解明しなくても全然困らない。


周りの誰もが、心の中で同じことを思っていた。


五分後。


二人はスープに険しい表情で向き合い、まるで最高機密を扱う軍事会議のような雰囲気になっていた。


「まず、見える材料から候補を挙げていこう」


ミナが議長のように切り出す。


「ニンジン」


「スープの中にはっきり見えてる」


「タマネギ」


「これも見えてる」


「肉」


「当然見えてる」


「ということは、正体はそれ以外だ」


バレリアも深く頷く。なぜか妙に納得している様子だ。


「つまり、目に見えない何かが隠されている……」


「そういうことです……」


「……なんだか恐ろしいわね」


「実に恐ろしい話だと思います」


隣の席の隊員が、思わず吹き出して肩を震わせる。


そこへ、料理を運んできた店主が声をかける。


「また二人で何か新しい騒ぎを始めたのかい?」


「質問です!」


ミナはすぐさま手を挙げる。


「このスープの秘密の正体は何ですか?」


店主は悩むことなく、あっさりと答えた。


「愛情さ」


一瞬、食堂の一角が静まり返る。


「……なるほどです」


「……なるほど、そういうことか」


二人はますます深刻な表情になる。


「だが、具体的にどういうものかさっぱり見当もつかないわ」


「私も分からないですね」


店主は肩を揺らして笑い、そのまま厨房へ戻っていった。


だがミナの探求心は、これでくじけるようなものではなかった。


「愛情って、一体何グラムくらいの量なんでしょう?」


「……そもそも、計量できる代物なのか?」


「なるほど、それなら科学のさらなる発展が必要ですね!」


二人の話は、どんどん常識の枠を飛び越えた方向へ進んでいく。


十分も経つと、テーブルの上には紙が広げられ、大きな文字でこう書かれていた。


『愛情の重量に関する仮説と考察』


「まず仮説その一」


ミナは指で紙をなぞる。


「愛情は非常に軽い」


「その根拠は?」


「目に見えないからです」


「なるほど、理屈は通っているね」


「次に仮説その二」


「うん、聞こう」


「愛情はとても重いです……」


「その根拠は?」


「失ったり、届かなかったりすると、胸が詰まって苦しくなるから」


バレリアは深く感心したように、何度も頷く。


「……なかなかに深い意見だ」


「絶対そうですよ。私はそう思います」


――全然深くない。単なる感覚論でしかない。


周りの視線が、暖かくも呆れたものに変わる中、厨房から店主の大きな声が飛んできた。


「食べながら寝言を並べてないで、さっさと食べなさい!」


その一言で、食堂中がどっと笑いに包まれる。


ミナは頬を膨らませてむくれる。


「私たちは真面目に、学術的な研究を進めているだけなんですよ!」


「そうだ、世界初の試みだよ!」


「その名も――愛情計量学!」


「……絶対に流行らない学問だな」


誰かがぽつりと呟き、また笑いが起きた。


そんなやり取りをしている間に、二人の皿とスープ皿はいつの間にか綺麗に空になっていた。


「「ごちそうさまでした」」


二人が手を合わせると、店主が再びこちらへやって来て、テーブルの上に小皿を二つ置いた。


中には艶やかなプリンが乗っている。


「おおっ!」


「デザートまで付いてるのかよ!」


二人の瞳が一気に輝きを増す。


「今日は特別な日なんですか?」


ミナが期待に満ちた声で問いかけると、店主は肩をすくめて答える。


「いや、そうじゃない」


「じゃあ、何で?」


「今日一日で一番騒がしかった、二人への罰だよ」


「罰なのに、プリンをくれるんですか?」


「食べ終わったら、追加で食器洗いをお願いするからね!」


二人は瞬時に体を硬直させ、数秒後には声を揃えて叫んだ。


「「プリン、返します!」」


「「まだ口をつけてない今なら、間に合うはずです!」」


食堂中から、今度はもっと大きな笑い声が湧き上がった。


――――


厨房の片隅。


夜の片付けの手が少しだけ緩む。


整備長が無言で工具を拭き、技術主任が書類を閉じる。


いつも通りの静かな時間のはずだった。


料理長がぽつりと言った。


「私たちのご先祖のせいで、あの子たちはずっと貧しい生活だったからね」


一瞬、空気が止まる。


技術主任が顔を上げる。


「……“せい”って言い方は重いな」


整備長も、手を止めたまま小さく息を吐く。


料理長は鍋の火を落としながら続ける。


「事実だよ。あの子たちは、まともに食べられる環境にいなかった」


「今だから悔しいと思える、本当に残念なことだ」


「償いたい」


少し間。


「今ここで初めて、“普通”を覚えてる」


技術主任は視線を落とす。


「それであの騒ぎか」


料理長は苦笑する。


「そう。やっと満たされたから、余計なことを考える余裕が出てる」


整備長が短く言う。


「壊れているわけではない」


料理長はすぐに返す。


「うん。だからいい」


少しだけ間が空く。


厨房の奥で、最後の鍋が静かに冷めていく。


料理長は言う。


「だからさ」


「今の生活を“当たり前”にしたいんだよ」


「取り戻してほしいんだあの子たちに、せめて食事の時はふつうの時間を」


その言葉には、説教も正義感もない。


ただ、淡々とした責任だけがあった。


技術主任は小さく息を吐く。


「……予算は増えないぞ」


料理長は笑う。


「知ってる」


整備長が最後に言う。


「維持する」


料理長は頷く。


「それでいい」


料理長は静かに笑っていた。



今回は少し日常回で、平和なチームの様子を描くのもいいかなと思っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ