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Witch Squadron  作者: Se-34gu-0
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FILE 016

FILE 016 「想定外の事案について」


前線から帰還した、その翌日。


格納庫で延々と正座させられていたミナとバレリアは、ついに限界を迎えてギブアップした。


「立ってよろしい」整備長から免罪符が出たものの、完全に感覚の消え失せた脚は1ミリも言うことを聞かず、二人は示し合わせたようにその場にぶっ倒れた。


見かねた整備員たちに丸太のように担ぎ上げられ、それぞれの部屋へと運ばれていく。


だが、本当の地獄はここからだった。


運ばれる振動で血流が戻り始めた脚が、尋常ではない激痛と強烈な痺れのサインを脳へと送り始める。


格納庫を去った通路の奥から、やがて少女のものとは思えない、文字通りの絶叫が響き渡った。


◇翌朝、第一部隊の五人は揃って呼び出されていた。


統合作戦技術開発局の会議室には、昨日とはまた質の違う、重苦しい空気が漂っている。技術主任は机の上に山積みにされた報告書を手に取り、目の前に並ぶ魔女たちを鋭い眼光で見回した。


「大体、お前たちのやったことは想像がつく」誰も反論しない。


いや、反論できるわけがなかった。


「不本意だが、ここまでは想定内だ。損傷した機体の部品については、開発中の最新素材を回してやる」それを聞いたミナとバレリアがパッと顔を見合わせ、机の下で小さくガッツポーズを作った。


「喜ぶな」即座に冷徹な声で釘を刺される。


技術主任は手元の報告書をめくった。


ミナ機、全損。


バレリア機、全損。


「うむ」主任としては胃が痛いものの、ここまでは予測の範疇だった。


むしろ、あの二人が五体満足で帰ってきただけ、大人しい方だとさえ言える。


技術主任は次のページを開いた。


セレーネ機、高負荷運用による各部損耗。


「……セレーネ。お前もまた、限界を超えて回したな」


「申し訳ありません。ですが、当時の戦況に鑑み、戦線維持のために必要な措置だったと判断します」きびきびとした動作で深く頭を下げ、真摯に釈明するセレーネ。


非の打ち所がない優等生の対応だ。


そのすぐ隣で、ルナは小さく息を吐いて肩の力を抜いていた。


続く報告書の文字は――ルナ機、軽微な損傷。


(よし、私は怒られない)そう確信したルナは、完全に他人事の顔を決め込み、お説教モードの会議室を楽しげに見物し始めた。


隣の席で主任に睨まれ、借りてきた猫のように小さくなっているミナとバレリアを、面白そうにチラチラと盗み見ている。


彼女は普段からあまり多くを喋るタイプではないが、そのお気楽な視線は「我が道を行く」精神を雄弁に物語っていた。


しかし。


技術主任の手が、次のページをめくったところでピタ、と止まった。数秒の不穏な沈黙が、会議室を支配する。


「……イズモ」その名が呼ばれた瞬間、お気楽だったルナの眉が、ピクリと跳ねた。嫌な予感がしたのだ。


「はい」呼ばれたイズモが小さくなる。


「なぜ、お前の遠隔攻撃ユニットの『数』が増えている?」会議室の空気が、ピキリと音を立てて凍りついた。


イズモは珍しく泳ぐように視線を逸らす。


「あの、それは、ですね……」


「説明しろ」


「私とルナさんが同時に使用した、私の自動制御プログラムとルナさんの遠隔操作プログラムが……その、戦闘中に未知の相互反応を起こして、混ざってしまったみたいで……」


「ふむ」ここまでは理解できる。


技術者としては、むしろ興味深い現象ですらあった。


「その後、もちろんリライト(書き換え)を試みようとしたんですが」


技術主任のペンを回す手が、ピタ、と止まる。


ルナは(おや、これは私に飛び火するやつでは……?)と、内心で冷や汗を流しながら、おそるおそるイズモの横顔をのぞき込んだ。


イズモは、消え入るような声で言った。


「……できませんでした」


「……初期化は」


「できません」


「削除は」


「できません」技術主任は、ゆっくりと眼鏡を外した。


眉間を指で揉みほぐしながら尋ねる。


「……それは、兵器として大丈夫なのか?」イズモはしばらく、どう表現すべきか真剣に悩んだ。


そして、真っ直ぐに主任を見つめて答えた。


「なんだか、なついてくれてて」


「質問に答えろ」間髪入れずに鋭いツッコミが飛ぶ。


「私が、解析したところ私たちが独自に開発したプログラムが影響したように思います」


「お前は、軍で支給されてる自動操作プログラムを使ってないのか?」


「私に合わせてカスタムしてますね。ルナさんが教えてくれたんです」


技術主任は頭を抱えた、各自使いやすいように元々カスタマイズしたものを渡していたはずだ。


「暴走する可能性は!」


「い、危険性は低いと思います!」


「根拠は」


「私以外の人には、絶対に近寄りませんから!」技術主任は、数秒間完全に黙り込んだ。


「とりあえずお前たちが使ったプログラムをこちらに提出しろ・・・。」


ルナは完全に終わったと思った、なぜならイズモのプログラム改造を促したのは自分だったからだ。


そして、これ以上踏み込むと自らの精神衛生が崩壊すると察し、この件について深く考えることを放棄した。


◇それから数日後のことである。


技術主任が、息抜きがてら何気なく窓の外を眺めると。


敷地内の通路を、イズモが歩いていた。そしてその真後ろを、見慣れない2機の遠隔ユニットが、まるで飼い主の後をついて回る子犬のように、ふわふわ、くねくねと嬉しそうに追いかけていた。技術主任は静かに眼鏡を外し、無言のまま、机に思いきり額を叩きつけた。


(FILE 016・完)

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