FILE 011
FILE011「朝日のあたる席」
夜通しの飛行任務を終え、宿舎に帰り着いたのは、ちょうど東の空が白み始めた頃だった。
徹夜の戦闘による心地よい疲労感と、冷たい夜風に晒され続けた体の気だるさを抱えながら、ミナ、バレリア、イズモの3人は、朝食をとるために食堂の扉を押し開けた。
早朝の食堂は、夕方のあの喧騒とはまた違う、どこか穏やかで気怠げな空気が満ちていた。
これから朝の任務へ向かう魔女たちが、静かにスープを啜っている。厨房からは、焼きたてのパンの香ばしい匂いと、新鮮な野菜を刻む小気味よい音が漂っていた。
ミナは温かいスープとパンが載ったトレーを持ったまま、入り口でふと足を止めた。少しだけ、周囲を見渡す。
つい昨日の夕方までは、当たり前のように誰もいない壁際の薄暗い端の席へと向かおうとしていた。
けれど、今は――。「ミナ、何立ち止まってんのよ。お腹ペコペコなんだけど」不意に、後ろからバレリアがミナの肩にぽんと腕を回した。
「あ……」「ほら、窓際の席、めちゃくちゃ朝日が入って気持ちよさそうじゃん。あそこにしようよ」バレリアはそう言って、躊躇うことなくミナの背中をぐいぐいと押して歩き出す。
「ミナさん、パン、すっごく美味しそうですよ! 私、多めに貰っちゃいました」反対側からは、イズモがトレーを大事そうに抱えながら、嬉しそうに小走りで並んできた。
他人の目を気にして萎縮していたはずのミナだったが、左右から伝わる二人の賑やかな気配に、不思議と肩の力が抜けていく。
周囲の魔女たちが「あの孤高のゴーグルの魔女が、新人の二人と……?」と驚いたような視線を送ってくるのが分かったけれど、もう、下を向く必要はなかった。
「……うん。あそこにしよう」ミナは小さく頷き、二人と共に窓際の、一番光が差し込む席へと向かった。
椅子を引いて、3人でテーブルを囲む。
カチャカチャと食器を並べ、誰からともなく「いただきます」と声を合わせた。「んー! 染みるわぁ……! 夜通し飛んだ後の飯は、夕方より美味しく感じるね」バレリアが豪快にスープを飲み干し、ふはぁと息を吐く。
「本当に。上空はあんなに寒かったのに、スープを飲むと、体の中からじんわり温まりますね」イズモがふやけたパンを幸せそうに頬張りながら、目を細めた。ミナもスプーンを口に運んだ。
いつもと同じはずの、少し薄味の野菜スープ。けれど、窓から差し込む眩しい朝日に照らされながら、目の前で笑い合う二人の声を聞きながら食べる食事は、一人で静かに飲み込んでいた時とは比べものにならないほど温かかった。
ふと、昨夜戦ったあの正体不明の「敵」のことや、最後に残った不気味な黒い魔力のことが頭を過る。あれは一体何だったのだろう。
これから、この空に何が起ころうとしているのだろうか。
けれど、ミナは不思議と怖くはなかった。
「ミナ、パン食べないなら私が貰っちゃうけど?」
「あ、ダメですよバレリアさん! ミナ先輩、まだ一口も食べてないじゃないですか!」
「冗談よ、冗談。……ほらミナ、早く食べないと冷めちゃうわよ?」バレリアがニカッと悪戯っぽく笑い、イズモが「もう」と呆れたように笑う。
つられるように、ミナの口元からも、今日一番の柔らかな笑みが零れた。
「……うん、いただきます」正体不明の暗雲がどれだけ空を覆おうとも、私にはもう、隣に並んで飛んでくれる仲間がいる。
差し込む朝の光の中で、ミナは確かな温もりを噛み締めながら、大切な仲間たちと共に、新しい一日を歩み始めていた。




