悪食なる者 Ⅳ
最初に死ぬのは盾役の俺じゃなくちゃいけない。
その身をもって危険を知らせる鉱山のカナリアのように、俺が最初じゃなくちゃいけない。
なのに、悔菜を一番最初に死なせちまった。
ユーサも守れなかった。
カキアすらも守れなかった。
ならせめて⋯。
一番守りたいやつで親友くらいは守りたい。
「行くぜギイナ!フルスロットルだ!」
「まさかそれは⋯⋯」
お、バレちまったか?
んなら。
「速攻沈めるぞぉ!」
フェイント、からのぉ!
「アッパー!」
「ぐっ!?」
剣なんてもうとっくに折れた!
盾なんかもう持ってねえ!
ただ俺は昔から!
「喧嘩に強いんだよバァーーーッカ!!」
「んなこと知ってるよ!」
魔王も武器を捨てて格闘戦に持ち込んできた。
わざわざ合わせてくれてありがとうよ!
殴って、殴って!
カウンターを躱して。
「いいこと教えてやるぜギイナ!」
喧嘩はお利口な子がやるもんじゃねえし、格闘技でもねえ!拳だけじゃなくて。
「っ!?」
「蹴りも使っていいんだぜ」
逆立ち蹴りでガードを解き、足払いで体勢を崩し、即座に背後に回って!
「天井に刺さってこい!」
ボールみてぇにな!
体育館の天井ってボール絶対挟まってるよな。
サッカーボールみたいに頭を蹴り飛ばしたら水風船みたいに弾け飛びやがった。
体はそのままドシャリと倒れ、動かない。
「おい、起きろ」
俺は知ってるぜ。お前が自己再生できるってな。
少し距離を離すと、魔王は案の定頭がない状態で立ち上がってきた。首から再生が始まり、骨が最初に作られ、筋肉、そして肌と再生していく。
「行けるか、相棒」
さっき取ってきた剣をシュウサに渡す。
俺はその剣を取った音しか聞こえなかったが、音だけでわかる。
「気分は?」
「無問題」
「重畳!」
さて、行くか。
時間が来ちまう前に。
「【ミコト】を解いてくれ。ゴルト」
「やなこった」
「私は⋯。君を、もう失いたくない」
スキル【ミコト】。
説明文にはこう書かれている。
魂を燃やして戦いましょうその身が塵となるまで、と。読んだ感じ、使ったら死ぬって感じのスキルなんだろうな。
証拠に、ハイだった俺の気分と体は鉛のように重い。
シュウサには申し訳ないが、あと一撃入れられるかどうかだ。そして、そのための隙ができるかどうか。
その時、俺の耳にはとある音が聞こえてきた。
はっ!
どういうわけか分からねえが。
頼んだぜ。
「シュウサ。俺が殴ったら躊躇わず斬れ。分かったな」
「ああ!」
「よっしゃ行くぞぉ!」
ギイナはすでに武器を使っている。
斬撃から避けて避けて⋯。
知ってるかギイナ?
【ジャストガード】のスキルは、拳でも使える。
青いエフェクトがあたりを包み、ギイナの顔が驚愕に埋め尽くされた時。
同時に俺の胸に刃が貫通した時。
「【樹怨】」
ギイナの体を、骨の刃が穿った。
「がっ!?」
それは樹のように成長し、何事もなかったかのように消えていく。
それが消え去った時。
ギイナの体は斜めに切り裂かれた。
その傷は、もう再生することはなかった。
ああ、終わった。
この戦いも、俺の命も。
体が塵になっていく。もちろん俺のな。
【ミコト】の影響だろう。
シュウサ、どうしたその顔は?
グッチャグチャじゃねえか。
「じゃあな。翔馬」
楽しかったぜ。
< ーシュウサ目線ー >
「待って!待ってくれ!」
塵になっていく桐斗が、親友が。
発した言葉は、初めての声色だった。
あいつはいつも「さようなら」や「じゃあね」と言わない。いつだって「またな」だ。
「再生は、できないなぁ」
ハッとした。
ギイナの声がした。
後ろにいる。
後ろに立っている。
ここまでやっても倒せないのかよ!
「彼は、どんな人だった?」
「え?」
「私にとっての彼は、強くて、優しくて。己が命も躊躇わず私にくれた」
何の話だ?
「魔王討伐おめでとう。少しでもハッピーにするために、最後の餞だ。【姫神の慈悲】」
あたりが淡く発光し、草木が育ちはじめる。
「さようなら”俺”。みんなを、この世界を頼んだよ」
魔王は、柔らかな光となって消えていった。
戦いは終わった。
俺達の、勇者パーティの勝利だ。
なんて⋯⋯。
「⋯⋯喜べるわけがないだろう」
仲間が全員死んで、それが勝利と言えるのか?
言えちゃうんだろうなぁ。
俺はこのまま国に戻れば英雄だ。
お金ももらえるし、豪勢な暮らしもできるだろう。
でも、そんな事を考えられるほど俺は強くない。
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああ゙ぁ゙、あ゙あ゙ぁ゙あああぁぁぁああ゙あ゙ぁ゙!!!!」
叫び、泣いた。
あれほど望んだ勝利は心に虚空を生んだ。
みんなと、みんなと勝利の喜びを分かち合いたかった。
どれだけ泣いただろう。
常に夜の魔界じゃどれくらい泣いたかわからない。
死体を、弔わないと。
そうだ。
いつまでほったらかしにしているんだ。
死体はいずれ腐る。
その前に、綺麗なまま燃やしてあげよう。
埋めてしまうと、魔物になってしまうから。
立ち上がり、周りを見渡す。
広がっていたのは、凄惨たる光景⋯⋯ではなかった。
「⋯?んえ?」
変な声が出てしまった。
ある。
ある。
あるんだ!
何がって?
ユーサの頭だよ!
握りつぶされたはずの頭が、あるんだよ!!
悔菜の傷もない!
カキアの真っ二つの痕もない!
耳を澄ませば、呼吸音が、聞こえる。
心臓の鼓動が聞こえる!
生きている!
どうしていいかあたふたしていると。
「ん、あぁ、うわあああああああっ!⋯えっ!?」
悔菜が、起きた。
「えっと、なんで泣いてるの?」
「えっ?」
気付くとまた泣いていた。
ユーサもカキアもいつの間にか起きていた。
けれど、その場にゴルトはいなかった。
とある音、それはなくなったはずの心臓の音。
【樹怨】
死したものの感情はどこに行くのだろうか。
恨みを形にした刃は、命を脅かし愉悦に浸りて新たな生命を芽吹かせる。




