悪食なる者 Ⅲ
「おいっ!?シュウサ!?」
おいおいどうしやがった。
シュウサがすっげー動きで魔王の腕を切ったと思ったら倒れちまいやがった。
「ユーサぁ!」
ユーサに合図を出せば転移させてくれる。
俺とシュウサの位置を変え、転移後すぐに後ろに下がる。でも、なぁんか殺気を感じねえな。
「どうした?なんかあったのか」
シュウサの回復のため時間稼ぎたいな。
「まあね。嬉しいことならあったかな」
おっと、ノッてくれるとは。
「はっ。随分と口調が違うじゃねえか。敬語はもういいのか?」
「人間慣れないことはするもんじゃないね」
「刃物を飛ばしてくる人間がいてたまるか」
「君が言うのかい?人の攻撃をさんざん防いだくせに」
「俺の特技はミュートで音ゲークリアなんでな」
「きもっ」
「うるせー」
なんだこれ。不思議な気持ちになるな。なんつーか。
親友と話してるみてえな。
ん?なわきゃねえか。
「で、魔王様はなんか辞世の句は在るのかい?」
「そうだね。言うとすれば」
なんだか悲しげな雰囲気をまとった魔王が口を開く。
「友を呼ぶ 叶わぬ願いと知りながら 空に向け 今際の際に 君の名叫ぶ」
「随分といい詩じゃねえか」
五七五七七。
「でしょ。会心の出来さ」
「季語はねえけどな。そんな詩を歌うやつがなんで魔王なんかやってんだ?」
「私の願いは飢餓のない世界さ。そのために平等な世界を作りたいんだよ」
「殊勝なこった。生きづらくないのか?」
「ないね。私の飢餓のために命を失った親友がいるんだ。そのためなら私は命すら捧げるよ」
ほ〜ん。言うね。
「というか、彼を起こしてくれないかい?話ができないんだけど」
「あ?お前話がしたいのか?」
「そうだよ、ずっと言ってるじゃん。ご飯も用意したのに」
人の仲間を殺したやつが対話を求めんなよ。
まあいいや。
「おーい。シュウサ起きろ〜」
「ん⋯。ムササビッ!?」
「随分と変わった寝起きだなお前」
ムササビて。
「奴さんはどうやらお話をお求めらしいぜ」
「話?」
起き上がったシュウサは多少顔色が悪いが、大丈夫そうだな。
「そうですよ。私はあなた達に大事な話があるんですよ」
そう言った魔王は、残った左手をこちらに差し出し⋯……。
「翔馬さん。私と一緒に世界を滅ぼしませんか?」
特大の爆弾を落っことしてきやがった。
< ーシュウサ目線ー >
「翔馬さん?」
なんで、俺の前世の名前を。そうか、【鑑定】か。何個か工程を挟めば前世の名前を見ることはできる。それで見たのだろう。
「残念だが、その提案に乗ることは出来ない」
勇者として、俺として………この存在はもう放っておけない。
「そうですか。ならしょうがない」
ギイナは両の手を叩いて心地の良い音を鳴らした。
あれ、右手。
いつの間にか再生された右手は、俺の真横を駆け抜け。ユーサの頭を握りつぶした。
「さようなら」
この世界には溢れている、死。
見慣れている、死。
それなのに、味方の死はなにか根本的なものが違う。
一瞬だった。
ギイナの拳をゴルトは防ぎ、その勢いを残したままカウンターを仕掛ける。そのカウンターをギイナは片手でいなし、蹴りをゴルトの腹に叩き込む。俺に向けられた凶刃をカキアがその身を持って防ぎ、2つに別れた物言わぬ屍となる。
そこに残ったのは、俺だけになった。
「はっ!はっ?はっ!?」
息、息息息息息息!
落ち着け、落ち着け!
無理だ!
「辞世の句とか、あります?」
にこやかな笑顔。
ああ、逃げられねえ。
逃げられないなら、せめて一撃。
勇者として…!!
「【明日ヘノ――」
最後の、万が一つもない、億が一もない一縷の望みを駆けて振るった刃は……当然の如く虚しい音を奏で遠い床に刺さる。純白だった城内は暗く、あたりが傷だらけで。まさに魔王城だ。
「さようなら。また会いましょう」
勇者が死ぬのは⋯⋯、魔王城だしな。
「ボケっとしてんじゃねえっ!!!」
「え?」
眼前まで迫ったナイフを、払ったのは親友の拳。
ゴルトは、生きていた。
「辞世の句だっけかぁ!?んなもん詠んでる暇があったらよぉ!」
凄まじい膂力が込められたその拳が、ギイナの左頬を砕く。
「百回死ね」




