彼の者彼とは言い難く
ミクちゃん誕生日おめでとー!!!大好きだよぉーーッ!!!
目を覚ますと、まっさらな天井と蛍光灯が目に入る。
私はこの景色を、この感覚を知っている。
また、大切な人を失った。
「‥‥‥‥」
何か言おうと口を開けば、何と言えばいいのかわからなくて、また口を閉じてしまう。
病衣をまとい、荒れていた髪が後ろで団子で結ばれていた。
そういえば、内田がお団子にしてみてほしいと言っていた。
”「隊長絶対似合いますよ!!」”
”「労力の無駄だ」”
”「とか言って、本当は結べないんじゃ」”
”「‥‥‥」”
”「あ‥‥‥‥図星」”
”「黙れ」”
”「今度教えてあげますよ」”
「‥‥‥‥‥‥」
結局教わらなかったな。まぁ、所詮いらない技能だったというわけだ。
廊下に足音が響く。体重的にジョンソンか。
「お、起きたのか‥‥って、何やってんだ?髪なんかほどいて」
ノックくらいしてほしい。
今団子の結び方を確認してるんだ。
「報告は以上です」
「ご苦労、下がっていいぞ」
「はっ!失礼します!」
今回の作戦は失敗。斜月5人、新兵46人が戦死、そして指揮官が不慮の”事故死”。成果として得られたのは、存在Xの始末程度。私はしっかりと上層部から呼び出しを食らっている。肩の装置と、指揮官の死亡についてを問われるのだろう。すさまじく面倒くさい。
兵の損害はともかく、指揮官について私は何も知らないのだが‥‥‥。
「‥‥‥‥‥」
「どうか、しましたか?」
斜月に聞いたところで、曖昧な返答で誤魔化されるだけだ。
「何でもない。それより、私は本部に行ってくる。留守を頼んだ」
「わかりました。俺達の分まで、お願いします!」
「何を任されたんだ私は?」
「それでは、今度こそ失礼します!」
なんだか、部下が生意気になってきている気がする。まあいい。そんなことよりも、掃除のために銃の手入れを済ませておかなければ。
「此度の作戦で、君の軍事的評価が地に落ちている。どう責任を取ってくれるのかな?君は私がこの地位に居続けるための大事なコマなんだがねぇ」
目の前にいる男は小さい。自分の地位に固執して、気に入らないものはどれだけ優れていようが、自分の下に置くか消してしまうような、典型的な小物だ。
「申し訳ありません、閣下」
「そうだね、まずは謝罪からだ。まぁ、それで許す気にはならないがね。やはり家族じゃなく本人たちを人質に取らなくては駄目み———」
「申し訳ありません閣下。私は既に理解したのです」
「ふむ……?何をだね」
そう、私は理解したのだ。今この状況で、真に大切なものを守りたいのならば。
魔力で物質を再構築。黒塗られた小さな拳銃が私の手に現れ、その銃口は小物の額に向けられた。
「き、貴様!何をやっているかわかっているのか!!」
「わかっていますよ閣下。そして、あなたも理解してください」
「こ、こんなことをして、人質がどうなってもい———」
撃ち抜かれた額は、少しだけ血を吹き出す。
この男は、才はあったが欲に溺れてしまったのだろう。もったいないと言わざる負えない。
死ねば平等とは、この男にこそ理解してもらいたかったな。
「と、いうわけでだ。これを通じて見ているお前たちに通達する」
前にこの男が言っていた通りならば、先程のことも、今のこの言葉も外道どもに通じているのだろう。
「今すぐ人質を解放してこの場にこい。そうすれば、ある程度の地位は保証してやる」
その言葉に反応して、各地に点々と心拍に異常があるものが現れる。
こうすればよかったのだ。最初から、何も考えず、ただ本能のままに殺していればよかった。相手を攻撃する以外のコミュニケーションを持ったからだろうか。まあ、そろそろ15歳になるとはいえ私は中学生なんだ。多少は大目に見てもらおう。
そして‥‥‥‥———
「またお前か」
扉を開いたのは、上層部のどの人間でもなく。
「ジョンソン」
「あ~、まあな。ちょっとした野暮用があるんだ。ついてきてくれねぇか?」
「残念だが、今は私にも用が———」
「すまんが、拒否権はない。幻影とか作って置いておいてくれ」
「ん‥‥‥‥‥」
今日のジョンソンはやけに強引だ。どうしても私を連れていきたいようだ。
「わかった。着いていってやる」
その代わり、置いていく分身は恐ろしいものにしておこう。上層部の皆さんにはぜひ楽しんでもらおう。
「それで、ここはどこなんだ?」
斜月の基地や、先程いた本部からも遠く離れた一般街。人々は、ほんの少しの不安を胸に押し込めながら暮らしている場所だ。
私達は、その街にある石造りの質素な教会の地下への階段を下りていた。
「雰囲気あるだろ?やっぱり秘密基地ってやつはこういうところがいい」
さっきからずっとこの調子だ。
目的も何も、教えてくれない。
ただ、ずっと言っていることがある。
「見て判断してくれ」
言葉の真意はわからない。
暗い階段。ジョンソンが手に持つ松明がなければ足を踏み外してしまいそうだ。どこかから水音もする。ここが南極という、人類を拒絶する極地であるということが嘘のようだ。
「ついたぞ」
階段を降り切った先、鉄と木で作られた重厚な扉。先程から感じていたことだが、ファンタジーの建造物が現実にやってきたかのようだ。
「おう、きたぞ」
「おせぇよジョンソン、俺をいつまで待たせる気だ」
「文句言うんじゃねぇ!」
「ケニィもいるのか。本当にどこなんだここは」
扉の奥の雰囲気は、先程までとはがらりと変わっていた。
石の壁はどこに行ったのやら、青く澄んだ氷の壁。
その内側には僅かながら植物が育っていた、花も咲いている。
「ここは俺の研究場所だ」
「ケニィの?」
「おう。俺は軍に入る前は植物学者だったんだ。今はここで、南極でも育つ植物を探してる」
「凄まじいな」
南極に存在するのはただ純白の大地のみ。そこに命を生み出したのだ。
「見直したぞケニィ」
「ありがとな」
「それで、要件はこれのことなのか?」
私がそう聞くと、二人は難しい顔をしながら下を向いた。
何かを恐れ、躊躇うように。
「一応言っておくぞ日ノ出」
「?」
「俺は、あの時の選択に後悔はない」
力強い、まっすぐな青い瞳。
その奥に宿る、ゆらゆらと漂う熱い炎。
それの正体を聞こうと口を開くよりなお早く。
{あなたはだぁれ?}
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?」
いつの間にか足元にいた、全身が赤い流動体でできた猫が、私に話しかけてきていた。
”内田”の声で。
「ケニィ、一つ聞きたいことがある」
「‥‥‥なんだ」
衝動的だ。ただ訓練の成果が出てしまっただけだ。
私の右拳は、ケニィの鳩尾を的確に打ち抜いていた。
「私に、どうしてほしい?」
ジョンソンも、赫も、その場を動こうとしない。ジョンソンはこちらをまっすぐと見ていて、赫はその場に座っていた。
「‥‥‥‥俺はッ‥‥何かを望んで日ノ出をここに呼んだんじゃない!ただ……ただ判断してほしかったんだ」
ケニィは立ち上がり、そっと赫を抱き上げた。
手が溶ける。そんな私の心配とは裏腹に、ケニィの手は溶けることなく、赫も抵抗はしなかった。
「話しかけられたからわかるだろうが、こいつには知恵がある。ヒューマンとは違って、こいつは自分で考えて言葉を話すんだ。そいつは‥‥‥‥‥内田か?」
赫は、こちらの表情を伺うように首を傾けた。
{僕は、あなたを知らない。でも‥‥‥———}
ケニィの腕から飛び降りて、赫は私の前に座った。
{僕の主は、あなたのような気がするの。だから、名前を教えてくれない?}
その言葉で察した。
「そうか。私の名前は日ノ出、一日ノ出だ」
目の前の生き物は、内田ではない。
{日ノ出‥‥‥いい名前だね}
「ありがと。君の名前はなんていうのかな?」
{僕に名前はないよ。よかったら、主がつけてくれない?}
「いつ主になったんだ私」
この生き物は、赫でもないし、存在Xでもない。内田でもない、ただの生き物だ。
だけど‥‥‥‥
「ん〜‥‥‥よしっ。お前の名前は、ルージュだ!」
{ルージュ、ルージュ!僕の名前はルージュ!}
嬉しそうに跳ね回るルージュは、あの煩わしい眼鏡と重なってしまう。
{っ!主ぃ、どうしたの?}
抱きしめた身体から感じる体温はなく、冷えた死の気配が渦巻いていた。
大切な人の仇、でもなぜだろう。
「ケニィ、ジョンソン」
ルージュを連れてきた二人に‥‥‥‥‥‥
「ありがとぉ‥‥‥!!」
これしか言えない。
忘れているかもしれないですけど、内田も日ノ出と同じ14歳。声変わりも迎えてないので、まだまだかわいらしい幼い声ですね。




