魔性
身体が焼ける音がする。
自分の肉が焦げたにおいもだ。
もう一週間も経つというのに、俺は、あの日のことを忘れられていない。痛みも、息苦しさも、恐怖も、高揚も。
黒い星のような瞳。漆の髪から覗く赤色。
なんつーか、なんだろーなぁぁあ‥‥‥。
熱くなる頬を手で冷やすように、思わず口をふさぐ。それでも隠しきれず、顔に出てしまった感情を下を向いて隠す。
俺、恋してる気がする。
‥‥‥‥‥‥‥‥自分を燃やした奴に恋するとか、俺の女の趣味はどうなってんだ?
相談、するべきかなぁ?
つっても誰に相談すりゃぁいいんだ?
クイナ‥‥は却下だな。クイナに恋愛感情はわかるまい。失礼だが、おそらく事実だろう。普段の言動、素振りから恋人がいたとは思えない。
ギイナは‥‥‥‥う~ん、なぁんか違う気がするな。ギイナはそもそも恋愛について音痴な気がする。試作でも、部下が付き合いたてのカップルみたいな喧嘩をしていた時、「仲悪いのか?」と、本気で首をかしげてたし。
バランは‥‥無理だな。
イティサも、厳しい気がする。
来人に相談するのは違うな。
結果、無理だ!!
「———てな感じで、魔力による身体強化のコツは‥‥っておい廻、聞いてんのか?」
「‥‥えっ!?あぁ、すまん。聞いてる聞いてる」
「なんや最近ボーッとしとるやないか廻」
「兄さん大丈夫?」
「おう、元気いっぱいだ」
今日は初めての魔力についての授業だ。聞いとかなきゃ後々やばそうだ。
筋力アップ、感覚アップなどの身体強化。炎や氷とかの現象を起こす魔法。前者も魔法に分類されるらしいけど、分かりにくいから分けるらしい。
武器とかの硬度も上げられるし、なんなら武器を作ることもできる。
魔力って、つくづく便利だなぁ。
持ってみてわかるけど、ありとあらゆるものが魔力を宿している。それを操ることができれば、人ならざる力を持っているといっても過言じゃない。
「まぁ、魔力は常人にとっちゃあ毒になる。廻も来人も気をつけろ」
「はい!」「おう!」
毒、毒ねぇ‥‥。
日ノ出も、これで苦労したんだろうなぁ‥‥‥。
う~ん、重症だなこりゃ。
俺たちの一日は、5時に起きて筋トレをすることから始まる。担当はバランだ。見た目通りのなかなかにハードなメニューだ。
次に体幹+実践。担当のイティサは搦め手も得意だし、戦闘も基礎がしっかりとしていて学べることが多い。でもやっぱり眼光がすごい。
その次は俺と来人はそれぞれにあった特訓をする。
俺はバランと徒手空拳、来人はクイナと刀術の練習だ。時々二人で手合わせをするが、戦うたびに来人はメキメキと力を上げていってる。最近クイナが”技”を教えてるのもあって、俺はつい焦ってしまう。
だけど、バランとクイナが「うちの弟子のが強ェぞ‥‥‥」的なノリで睨みあうのはやめてほしい。寒気というか悪寒というか‥‥‥死というものを感じる。
そして一日の最後、俺たち二人でギイナとの本気の戦闘。ギイナがこの担当なのは、一番しっかり手加減ができるかららしい。ギイナがいて本当に良かった。さもなくば俺達はここでお陀仏だったかもしれねぇ。
と、いっても。ギイナは手を抜いているとはいえ、本気ならバランとイティサよりも強いのだ。いつもどんなに策を練っても掠り傷一つつけられない。日ノ出はギイナを追い詰めたらしいが、二人の相性はかなり悪いそうだ。
相性の良しあしで倒せる相手かどうかは不明だということは置いておこう。
「今度最終決戦だから二人とも準備しておいてねぇ」
「「‥‥‥え?」」
いつもの日常を終わらせて、飯を食べていざ寝ようとしていた時、クイナは俺たち二人に言った。
「なんや、やっぱ僕の出番ないやんけ」
「お前の血の鎧は日ノ出と相性悪いしな。しかも赫喰と見間違える」
「せやけど僕も戦いたい言うとるやろ」
「クイナの二の舞になるぞ」
「これ以上黒くなれるかい!」
「「あっはっはっはっはっは」」
バランとイティサの身長が拳骨ひとつ分くらい伸びたのは言うまでもない。
笑わなくてよかったぁ‥‥‥。
なぜか煙が出ている己の拳に、クイナはフッと息を吹きかける。
「私たちはすこし出しゃばりすぎたからねぇ。老兵は去るのみってね」
「「やいババア」」
机にあった酒瓶を、クイナは全力で振り抜いた。イティサはそれを【業羅鎧】もとい服を変形させて対処。バランは腕で軽くガードした。イティサはそのまま変形させた服で眼球を、バランは貫手で肝臓を狙った。しかし、クイナもそれをやすやすと食らうわけもなく、首を空中へ射出し、身を捩ることで回避した。
それを1秒ほどで実行した三人だが、机をひっくり返されたことに激怒したギイナの鉄拳を避けることは叶わず、敢え無くダウンした。
こと戦闘になるとこの三人の知能は跳ね上がるのだが、いかんせん私生活が終わっている。
「馬鹿どもは置いておいて、私たちがお願いしたいのは二つ」
ギイナは食器を手に持ち、シンクへ運び、洗いながら続けた。
「一つ目は、バランの代わりに戦ってきてほしい。前回の日ノ出の暴走のダメージがとれていない。今戦っても、バランは勝てないだろうから」
「俺も行きてぇんだけどよぉ、肩こりがやばい」
「バランもジジイなんだな」
「よし来人覚えとけよ」
「言ったの兄さんですよ!?」
すまん来人。お前のことは忘れないよ。
「二つ目は、日ノ出の勧誘だ」
「!」
日ノ出の勧誘‥‥‥‥それ、つまりは———!
「日ノ出さんを、僕らの仲間にしたいってことですか?」
「正解だ」
日ノ出を味方に‥‥‥。確かに、日ノ出は条件さえ整えばバランたちと本気で殺しあえる。その条件も、今はほぼないに等しい状態かも。なにせ日ノ出はまだ14か15歳。なにもかも成長途中、成長しきった時の実力は未知数だ。
「というか、ギイナは戦わないのか?」
「私かい?そうだね。基本的に私は手を出さないよ。私が行けば圧勝しちゃうし、クイナはそれを望んでいない。それに、二つ目のお願いを達成するためには、彼女がこちらに興味を持ってもらわないといけない。それに君たちは適任だ」
「僕たちは、良くも悪くも印象がないですからね。そもそも僕は彼女に会ったこともないですし」
まぁ、地獄の元凶に「仲間になろう」、なぁ~んて言われても、響かんわな。
「俺は賛成だ」
日ノ出は敵にいれば恐ろしいが、味方にいれば心強い。
「僕も賛成です。ぜひ手伝わせてください」
「‥‥‥そういってくれると助かるよ。私個人としては、君たちはまだまだひよっこだ。安全なところでゆっくり成長してほしかったんだけど‥‥‥‥‥‥頼んだよ」
ギイナは、洗い終えた食器を干し、俺たちの前にやってきた。
「彼女たちは、君たちよりも人型との戦闘経験が浅い。君たちが勝てるとするならば、狙うべきなのはそこだ。当日、日ノ出の部下たちの相手はクイナがやる。日ノ出は今までバランとの戦闘でしか人と戦っていない。君たちは、まだ相手からすれば未知なんだ」
脳裏によぎるのは、辺りを燃やし尽くす戦女神。
「ま、相手が日ノ出であることを忘れるなよ」
ギイナが最後に言った忠告。
俺はそれが最も心に残っていた。
この拍動は、恐怖や期待とかじゃない。
会いたい。
うわぁ!恋してる気がするぅ!!




