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ただ咳をする  作者: haremame
廻編 第二章 月下日昇 災禍は来たる
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だるまさんがころんだ

▓▓▓▓▓(表紙が溶けていて読めない)の手記


出立から2日、そろそろ南極の端に着く。

やはり新兵が足を引っ張っているとしか思えない。

行軍のスケジュールも曖昧すぎて話にならない。


最近体がだるくなってきている気がする。

水を飲む回数も、食べるものの量も、睡眠時間も減っている。


上記の行動時、体が縛られたかのように止まってしまうのだ。

明らかに栄養不足。

肋骨がもう見えるようになってきてしまった。

クッションを入れて誤魔化すのも厳しい。

なんとかならないものだろうか。


まだ僕は隊長の横に立てていない。

まだ、足を止めるわけには


(これ以上は溶けていて読み進めることが出来ない)













「隊長⋯⋯⋯⋯」



南極を歩く際に必要なのはどれだけ目立たず、体力を消費しないかだ。だから、斜月は白い服を着て戦場に立つ。


だが今僕らの身を包むのは緑の軍服。


目立つどころの話じゃない、機能も戦うことを全く想定していない!何故無駄にジャラジャラとした装飾をつける?この見た目だけのゴーグルはなんだ!何故ここまで薄着なんだ?隊長の魔力について考えなかったのか!?



「それに⋯⋯⋯この隊列もだ」



遠い前を歩く隊長と、一塊となった232人。


先頭を歩く隊長とは約150m近く離れている。


カバーにいくには遠すぎる!あれじゃ本当に囮だ!


指揮を執る間抜けが言っていた。



〝「我々人類に魔力などというものはいらんのだこの化物め」〟



斜月全員が心を一つに思った。


腹の底から憎悪と殺意が零れ落ちそうになった。


ぶち殺してやる、完膚なきまでにグチャグチャにしてやる。


だが隊長は僕達を止めた。



〝「そうですか、利用価値を示せず申し訳ありません」〟



あの言葉でみんな察した。

こいつの指示に従えと言われているのだと。


だから指示に従った!


隊長がいなければコイツラの頭なんて吹き飛ばしてやれるのに!


ひどい、ひどすぎる。いま僕ら人類が生きているのが隊長のおかげだと分からないのか?わからないのだろうな。



「⋯⋯ッチ、新兵どもが遅すぎて話にならねえぜ」



「言ってやるなよジョンソン、新兵もこれでも頑張ってんだよ」



「わぁってるよ、でも今この瞬間の異常に気付けないのはやばいだろ」



まったくもって同意だ。


頑張っているのはわかっている、だが血反吐を吐くほどの成果を上げて、鍛えられた精神力でなければここに立つことは許されない。


思ったよりも楽勝だな。


そんなことを口々に言う新兵どもよ、この異常さに気付けないのか?



「静かすぎる」



「だよな」



赫もいない、吹雪いてもいない。

空には雲一つない。


普段であれば飛び上がるほど喜ばしいのに、斜月全員が震え出しそうになる。この近くに、化物がいる気がする。



そんな事を考えていると、前でオレンジ色の信号弾が空高く打ち出された。要警戒、近くに敵の反応あり。そう示す信号弾だ。



「た、隊列を組め!如何なる化物も数には勝てん!」



指揮官を中心に円形に新兵が広がり、その周りに斜月が配置される。


やはりこいつはバカなのだ。


赫は人間の身体能力を優に超え、最低でも60億弱は数がいる。今しがた自分で言った数の暴力の体現ともいえる存在に、正面からぶつかろうとするとは。



「指揮官殿、赫との戦闘で固まることは危険です。物量で勝つことはまず不―――」



「黙らんか!敵よりも貴様の喉元を撃ち抜くぞ!貴様らはエリート集団なのだろう?ならさっさと敵を片付けろこの役立たずどもが!」



どの口がほざいてんだ豚野郎。


そのブクブク太った肉体で赫の体液をどうやって避けると言うんだ答えてみろよ⋯⋯!!


割と本気で口から暴言が飛び出しそうになったが、


上から落ちてくる気配を先に片付けることにした。



「お守りして差し上げろ」



「了解」



まるで雫のように、狩りをする鷲のように空から豚野郎目掛けて

急降下してくるホークの頭をライフルで貫く。


途端に体の輪郭を失い本当の液体となった残骸から、隊員が対赫特殊繊維で編まれた傘で豚野郎を守る。傘に弾かれ地面に落ちた液体は雪を、その下の氷までも溶かす。



「指揮官殿、我々斜月が前に出て気を引きます。どうか一時的に斜月の指揮を執らせていただいてもよろしいでしょうか?」



「⋯⋯⋯⋯しょうがない、許そう」



「心より、感謝致します」



よし、よし!これでさり気なく隊長の方に人員を回す事ができる!



「だが⋯⋯⋯半数は私の護衛だ。指揮官である私が先程のように

襲われ死ぬわけにもいかないからな」



「半⋯⋯数ですか?」



「ああ、嫌なら指揮はこのまま私が執る」



あまりに巫山戯たことを抜かしたせいで、遂に僕の堪忍袋は爆ぜた。



「ふ、ふざける―――」



でも、



『問題ない』



すぐ近くまで迫っていた無数の赫を、炎が舐め取るように消し去っていく。僕達に一切熱を感じさせないように計算された炎の軌道は、見慣れたものだった。



『私が敵を殲滅する、斜月は指揮官殿を守ることに死力を尽くせ』



いつもは恍惚として聞く声と命令。


だが、その内容は意図が掴めぬものだった。



「どういうことですか隊長!流石に理解できません!」



『理解しなくていい、命令通りに動け』



突き放すように冷たい声。



『お前達はそこで大人しくしていろ』



「あっ⋯⋯⋯」



僕の心に、ヒビが入った音がした。


なんで?


どうして?


わからない。


嫌われた?


使えないって思われた?


嫌だ。


嫌われたくない。


絶対に嫌だ!!!



心のなかで渦巻く感情のせいで、よく見ることも考えることも出来なかったけど。



「⋯⋯⋯⋯⋯フッ」



あの豚野郎が、笑っている気がした。






だるまさんがころんだのルール、彼らが動く瞬間をだるまさんは見なくてはいけない。見れないまま時が過ぎれば、だるまさんは深く後悔するだろう。

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