怒り震えて落日と化す
作戦が発表された当日。
「今回の作戦には君の力が必要不可欠だ、獅子奮迅の活躍を期待しているよ一元帥」
「お任せください閣下、必ずや作戦を成功させてみせます」
あの時の私は少し浮かれていたのかもしれない。
赫という人類の敵がいる、人はみな結束しないと生きてはいけない。人類同士で足を引っ張り合うなんて事はありえない。
人は欲望に忠実な生き物だと、私は忘れてしまっていたのだ。
右肩に白い手袋をつけた閣下の手が置かれた。人の手とは思えない、硬い金属質な手だった。
それに疑問を持ったとき、既に事態は悪い方に進んでいた。
「ッ!?」
身を貫くような痛みが私の右半身に走った。
それはちょうど、閣下の手が置かれた場所を起点としていた。
「先日の議会で、狂犬には首輪が必要だと決まってね。といっても、首にはつけないのだが」
「な、何を⋯⋯⋯」
私の肩からどかされた閣下の左手の手袋の中心には穴が空き、青い光が顔をのぞかせていた。手袋の穴は、内側から何かが突き破ったかのように見えた。そして、それはおそらく正しいのだろう。
肩に空いた軍服の穴からも、弱くはあるが青い光の点滅が見えた。
「君が一般市民に配布した魔力石を使用して作った君専用の監視装置さ。運動や呼吸、更には鼓膜の振動さえも感知する。いやはや、実に素晴らしいものだね」
痛みが脳を支配しようとするのに抗いながら右手に魔力を集中させる。
「それは私達の脳みそに繋がっていてね、何時でも君の動向をチェッ⋯おっと、怖い怖い。その右手の炎は何だい?まさか反抗しようとしているのかい、これは傑作だ」
「どういう意味だ?」
今から焼かれようとしているのに、随分と脳天気なものだ。
そう思っていた。
でも能天気だったのは私だった。
「その監視装置を閲覧できる権利の者が死んだ場合、斜月の隊員の家族が爆発する。この案を出したのは私だ。君が微塵も抵抗しないままだと思うほど私は馬鹿じゃないのでね」
「なに⋯⋯⋯?」
「いい案だろう?実際これで君は私を襲うことは出来ない。試してみるといい。もしかしたら、爆発なんてしないかもしれない。万が一も、あるかもしれない。君の好きにしてみたらいい」
「ッ…………!」
できるはずがないだろう……!!人を、それも仲間の家族が吹き飛ぶ危険性を孕んだ行動を、私がとれるわけがない!!
たがまだだ!先ほど言った私の監視方法に魔力を探知するものは含まれていない、魔法でなら……まだッ!!
「ああそうだ、魔法でなにか伝えようとしても無駄だぞ。南極大陸のありとあらゆる箇所にカメラが仕掛けられ、君の動向を逐一チェックしているからね。不審な動きをしたら即爆破だ、気をつけてくれたまえ」
目の前にいるこの男が、何故笑っているのか。
疑問でしょうがなかった。
だがこのときに私は漠然と理解したのだ。
今、斜月の笑顔を守れるのは私しかいない。
理解したとき、同時に何かを忘れた気がした。
「おい、さっさと船を出せ」
「了解しました」
物体を魔力に変換するときには魔力は必要ないが、その逆の際は必要だ。ほぼほぼ新しく増えた魔力で賄えるが、少し私の魔力も必要になる。
私の魔力量から見れば本当に微々たるものだが、その微々たるもので赫を40は焼ける。その40を犠牲にし、大きな黒い艦隊を海上に作り出した。
人類が南極に逃げて1年、早いようだが遅すぎる。そう思えてしまうくらいにはたくさんの死が積み重なった。
その屍の上に立ち、私達は今。
緑を見に行こうとしていた。
明るい光が、瞼を貫き視神経を弱く刺激する。眠りについていたわけじゃない、思考していないときのようにボーっとしていた。
そして、今も朝ではない。
「隊⋯⋯⋯⋯⋯長⋯⋯⋯⋯」
真っ暗な夜空に、今日も炎が迸る。照らされた鳥は蛇のようにうねる火群に囚われ真っ黒な灰となって海に落ちていく。
オーストラリアから南極まで平均して1〜2週間、長ければ3週間かかる。隊長も一睡もせず、海を泳ぐハウンドを空を飛ぶホークを焼いている。
「お、内田。水飲むか?」
「あぁ、ありがとうなケニィ」
「おうよ、最近お前は酷く疲れてるみたいだしな。この長い船旅ももう終わりに近づいてる」
「あぁ、そうか⋯⋯もう着くのか」
隊長の炎が照らしたのは、暗く、わかりにくく、まだしっかりもしていなかったが確かに陸地の影だった。
安心、とはまた違う。だがそれでも安堵という言葉が似合う。そんな気持ちを鎮めるために、喉に水を流し込む。
でも。
「ウッ!?⋯オェッ!!」
「ッ!?おい大丈夫か!」
体が、体内に異物が入り込むのを拒絶する。どれだけの、何があろうともこの体は水を拒絶する。
体中が渇望している水を、何故かその体は飲むことを許さない。
自分は大丈夫だと、痩せ我慢をしている。
「大⋯丈夫、実は僕船酔いしやすいんだ」
「そ、そうか。あんま⋯⋯無理すんなよ?」
「あぁ、気をつけるよ」
痩せ我慢というのは、ある意味僕の特技かもしれないな。
ケニィからもらった水の入ったペットボトルの口に、ゆっくりと唇を付ける。
「んッ⋯⋯!!」
そして勢いよく無理やり水を胃に注ぐ。
その瞬間、吐き出しそうになる反応を全力で抑え込みながら嚥下する。水を一滴も残さないように、啜るように、目が血走りながらでも飲み込む。
人は3日間水を飲まなければ死ぬ。
僕が水を飲んだのは4日ぶりだ、なんで生きているのかわからない。でも、確実に肉体に異常をきたしている。だから今は、何があっても飲め。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ッ!!!⋯プハァッ!!」
飲んだ、飲みきった。未だ腹がグルグルと吐き出しそうになるのを我慢しながら⋯⋯⋯。
「着いた」
土の大地を、僕らは踏みしめた。
折珠 宜敷閣下
もともと阪政さんの部下だった彼は、確かに優秀な人物だった。だが彼の中にある自らが一番でありたいという欲求は凄まじく、南極への移動の際に乗じて阪政さんを殺害、遺書を偽装しトップとなった。それでも、民衆や軍から支持される日ノ出が気に食わずしかし殺せば人類が滅亡しそもそも殺すことが出来ないため首輪をつけることにした。
日ノ出たちが南極に近い南米ではなくオーストラリアに向かわせたのもこいつ。斜月の精神力と日ノ出の魔力を削ぐため。
斜月強過ぎるんだよ、私の計画に邪魔なの(ガクガク) by閣下
魔力についての方程式と言うか何か。
物質→魔力
質量×密度÷情報量=難易度
(情報量:その物質がその物質になるまでの過程の量、石炭よりもダイヤのほうが多い)
魔力→物質
最大魔力の3%+変換させたい物質の情報量ー難易度
質量(g)、密度(g/cm³)




