内田苦し煩わし
人類国家ノアの状況についての報告書
氏名 内田 慎太郎 作成日 2033年 8月3日
元帥の魔力により電気系統は赫の侵略前よりも発展しているが、未だ食糧問題のみは解決が難しい。動植物にとって南極というのはあまりに厳しい環境であり、いくら魔力による環境の調整があるといえど調整できる範囲にも限りはある。今現在、旧オーストラリア領の奪還へと軍が踏み切ろうとしているが、個人的に言うならばもう少しだけ慎重に動いた方のがいいと私は考える。
Xも未だ発見されていない中、南極から外に軍を出すのはいい案だとは言えない。
元帥が魔力を扱う回数も減ってきている。
何かあるのではないかと私は愚かにも考えてしまう。
「私は内田に魔力の減少を話した覚えはないんだがな」
何故こいつはこういうところは目敏いのだろうな。
いや、髪を切ったときもこいつは気付いたな
いやいや、そんなことはどうでもいいのだ。
問題はこいつが旧オーストラリア領の奪還に対して賛成的ではないということだ。こいつはノアの中でも中枢の存在だ。”内田の意見が人類の総意”、そう言われるほどに。
「困ったものだな」
私もこいつに対して強く言うことは出来ない。
”何故か”あいつが事務を熟しているのかわからないほど、アイツの立場は上なのだ。私と同等レベルの職についているはずなのに、何故かアイツは前線に出る。
来るなと言うと泣きわめくから来るなとも言えない。
出来るだけ冷たくしていたこともあったが、喜んだからやめた。
つまるところアイツは一度決めたらやり通す質なのだろう。
なんとかして曲げられないだろうか⋯⋯⋯⋯。
「隊長、お茶が入りましたよ」
そんな事を考えていたからだろうか、内田がお盆にお茶を持って入ってきた。そういえば今日は三ヶ月に一度のお茶の日だったな。
「ああ、ありがとう」
「どういたしまして、茶菓子いります?」
「いや、それはいい」
湯呑みを手に取り、ゆっくりと啜るように流し込む。
水のように体を冷やすのではなく、体をゆっくりと温めていく。やはり普通から離れたあとに普通に触れると感動する。ずっとこの感覚を味わっていたい。
だが、そういうわけにもいかないな。
「内田、そこに座れ」
「?わかりました」
私も移動し、客用の机を挟み対面するような形となる。
「報告書を読んだ、やはりお前は今回の奪還作戦には非賛成的なのか?」
「⋯⋯⋯⋯そうですね。今回の作戦には2つほど大きな穴があります」
内田は確信を持ってそう切り出した。
「聞こうか」
「ありがとうございます。第一に、兵の不足です。現在の兵数は約4万、かなり余裕をもって警備に当たれていますがその半数が作戦に赴くとなれば不足する箇所が出てくると考えられます」
「その問題は私がいるから問題ないと―――」
「いいえ、隊長。戦場はいつもの南極ではなく自然豊かなオーストラリアです。彼の地に群生しているユーカリの木の樹皮は油分を多く含み、一度燃えると消えにくく広がりやすいです。これは隊長の魔法と相性が悪いといえるのでは?」
「⋯⋯⋯⋯」
反論ができないな。
徹底的に作戦を潰しに来てる。
「第二に、隊長の魔力についてです」
やはり、2つあると言われた次点で察していたが、それに触れてきたか。
「私の魔力にもなにか問題点があるのか?」
「ええ、これは私の推測ですけど魔力が少なくなってきているのではないかと」
「面白い説だな、ぜひ聞かせてほしい」
何故、疑問を抱くことをやめてはならない。こいつは何故私の魔力について認識しているのか。
「1年1ヶ月9日前から筋トレのメニューの回数が全体的に減り魔法回路開発にかける時間が約一時間ほど伸び、昼休憩時に魔力の制御のために出していた火球10個が2つになりました。魔力で髪が伸びるのを防いでいましたが最近では自分で散髪するようになりました。魔力により水分補給を完全に絶っていましたが段々と水を飲む回数を増やしていき、今では一週間に一度飲むようになりました。体重が約3kg、身長が3cm伸び―――」
「待て、待て、止まれ」
あまりの内容のキモさに思考を一瞬手放してしまった。
「はい?どうしたんですか?まだまだありますよ?」
「まだあるのかよ⋯⋯⋯⋯!」
最初は良かった、だが後半が⋯⋯⋯後半がッ⋯⋯⋯!!
「何故身長と体重を知っている!そしてそれが何故魔力に関係する!」
「身長が伸びた理由は筋トレの時間が減り夜中に休眠をする時間が増えたから、体重が増えた理由は休眠をする時間が増え肉体が健康になったからです。何故魔力に関係するのかといえば絶眠にさいていた魔力を節約しだしたからです」
意外とまともな理由だったッ⋯⋯⋯!!
「そしてお前!答えろ!何故私の身長体重を知っているんだ!誤魔化すな!」
「っく!バレてしまいましたか⋯⋯⋯!」
バレてしまいましたかじゃないんだよ!!
「イスのクッションを取ってみてください」
「イス?何故イスを⋯⋯ってお前まさか!?」
イスのクッション、普通は取れないはずのものが⋯⋯⋯ポンッとあっさり取れた。そしてその裏に⋯⋯数字を表示する液晶がついていた。
「隊長が元帥になった日に取り替えておきまし―――」
「バカヤローッ!!!?」
「ぶべるぁ!!」
私の拳により内田の眼鏡が宙を舞う。
ついでに歯も吹っ飛んでいる気がするが私は知らない。
「しゅ、終始黒字ぃ⋯⋯⋯ガクッ」
「気持ち悪いこと言うなぁお前!というかガクッて口で言うやつ初めて見たぞ!」
気持ち悪い、あまりに気持ち悪い!
というよりも恥ずかしい!!
今ものすごく顔が赤くなっている自信がある!蒸気が出ているのではないかと思ってしまうくらいには顔が赤い自信がある!
今すぐ冷水に顔を突っ込みたい!
誰にもこの顔を見られたくない!
だが無常にも、元帥室の扉はノックされるのだった。
「元帥殿?いませんか?」
男、山田 太郎は整理した資料を上官である日ノ出に渡すために元帥室の扉を叩いた。
だが、元帥室からはドタドタとなにか慌てている音しか鳴らなかった。
(元帥殿⋯⋯なにか問題があったのだろうか、心配だ)
「元帥殿?大丈夫ですか?」
戦場で助けられ、憧れとなった人物からの応答がなく心配になる山田だったが⋯⋯―――
「あぁ、入っていいぞ」
やけに”くぐもった声”で入室を許可された。それに少しだけ、ほんの少しだけ疑問をいだいた山田だったが、あまり気にすることなく扉を開ける。
「失礼しま―――」
そこで山田が目にしたものは。
「フスー、フスー、フスー」
ジェイソンマスクを付けた憧れの元帥殿の姿だった。
「ひゅっ」
山田は衝撃で気を失い、頭を床に強く打ち、短期的な記憶障害が発生。
「山田ぁ!?」
内田の言った問題、兵の不足は加速した。
今回限りのキャラ、山田太郎。
平凡な生まれの彼だが、樺太防衛戦の際に日ノ出に助けてもらったことで。軍に入隊。超エリート集団斜月に1ヶ月後特別編入。どれくらいすごいかと言うと、斜月は某柱と同じ扱い。
ホラーが苦手なことが災いした。




