信頼と恋心
「ウハハハッ!!いいなぁお前!やっぱし最高だ!」
辺りに焦げた臭いが充満している。だが、空中にいる私を捕まえようと地面から伸びる無数の氷の大地がそれらを一蹴する。こいつの前では斜月でさえも塵芥。私にとっても足枷になる。
大地の根を翔けるバランへと照準を合わせるが、込める弾丸がない。しくったな、弾切れだ。
「どうするんだよ!日ノ出ぇ!!」
どうするもこうも―――
「ねえよ」
「は?っておいおいおい!!ちょっと!」
何故バランが驚く?このまま空にいても魔力を消耗し続け、いずれお前が登ってくる。
ならどうするか。
「なんで落っこちてんだよ!」
”自由落下”。
私が進むべき道は下にある。
しかしなバラン、お前に教えてやろう。
あれもこれも、計算内だ。
「なあジョンソン、なんで内田は救出作業に加わんねえんだ?」
「なんでって、そりゃあ⋯⋯あいつが日ノ出の補佐として唯一だからだろ」
「いやな、それはわかるんだけどよ。アイツ銃持ってったよな?
あの戦闘に加わろうとしたらそれこそ足手まといだろ」
「チッチッチ、それが違うんだよな」
「?」
「アイツが持ってった銃は戦闘用じゃねえよ」
「じゃあなん―――」
「”リロード用”だ」
「遠慮なくいくよ隊長さん!」
夜闇の中、日ノ出の首にかけられた青い魔力石は淡く発光している。人間が捉えられる光のほぼ限界、常人には見ることの出来ないその光をぼんやりと見ることができる内田でも、日ノ出の手が、銃が何処にあるかまでは把握しきれない。だが彼は理解している。
把握している必要はない。
ただ彼女を撃てばいい。
おおよそ味方のフォローとは思えない思考をしながら、内田は引き金を引く。特殊な魔力を纏った弾丸を打ち出すために。
形状記憶型魔力弾と名付けられたその弾丸は、日ノ出の魔力で作られたスナイドル銃と反応し、撃ち出される前の弾丸として再構築される。
撃った弾を再度使用可能という、資源の節約を求め試行錯誤している際日ノ出が3発だけ生み出すことの出来た特別な魔力弾。
音もなく光もなく。
直線軌道で打ち出されたその弾丸を。
「いらっしゃい」
日ノ出は横から掻っ攫うように自らの銃に装填する。
互いに連絡もなし、まさに阿吽の呼吸。
軍の同期として長い時を過ごした二人の信頼の弾は。
「おっと⋯⋯⋯こりゃあ、まずいな」
バランの心臓を撃ち抜いた。
グラリ、とバランの体制が崩れるのと同時に根もただの土の塊として落下を開始する。
「俺がお前に一番最初に負けたとき、弾切らしたと思って油断して俺ぁ撃たれたよな」
心臓付近から血の尾を引きながら、バランは落ちていく。
「やっぱ俺は間違えてなかったぜ」
バランの体が地吹雪の中に消えていく。
高所からの落下、物理が宣告する死の極み。
いくら肉体を鍛え上げ魔力で強化しようともその宣告からは逃げられない。だが、日ノ出はバランが死んだとは思えなかった。
(衝突の直前、妙な魔力を感じた。ゲートか何かで逃げたな)
地吹雪が晴れたあと、その疑念は確信へと変わる。
血の跡がない。バランの胸から出た血すらもないことから、根を崩し雹雪を舞い上がらせたのもバランの逃げの算段であったことに日ノ出は思い至る。
やはり食えない男だと、日ノ出は落下したはずの場所を一瞥しながら救出作業へと加わった。
魔力が少なくなっているという不安点からは目を逸らしながら。
「隊長、どうでした僕のフォローは」
「タイミングはもっと遅めでいい、距離が遠すぎると弾が熱を持って術式が崩れる、初回のときそのせいで威力が出なかったのを忘れたのか?」
「褒めてくれたっていいじゃないですか、隊長のケチ」
「黙れ」
褒めれば内田は調子に乗る、それはこいつも理解しているはずなのに何故褒めてもらおうとするのだろうか。
私達が新兵のときに、情感に褒めてもらった次の瞬間赫に頭を溶かされそうになって、泣き喚いていたあの時の内田は何処にいってしまったのやら。
まだあの頃は可愛げがあったものだがな。
「元帥補佐としてはまだ実力が足らない、もっと働け」
「そこで精進しろとかじゃなくて働けっていうのが隊長ですよね」
「文句があるのか?」
「いえいえ、そこが隊長のいいところでもありますから」
「ほざけ、世辞を言っても何も変わらん。救出班に合流するぞ、瓦礫で手間取ってそうだ」
まったくもって面倒くさい、全て吹き飛ばしてしまおうか。そんな気持ちを胸に秘めながら、私は雪の斜面を下っていった。
⋯⋯⋯⋯⋯なんでアイツはついてこないんだ?
「吹き飛ばしちゃ駄目ですよ隊長」
日ノ出は、思ったことを気付かないうちに言葉にしてしまうクセが有る。だけど何故か、隊員のみんなはそれに気付かない。
彼女が小さい頃から一緒に任に当たってきたから僕は知っている。実は彼女が、とんでもない寂しがりやで泣き虫なことを。
僕だけが知っている。
彼女の心はまだまだ幼い少女なのだと。
戦火を用いて戦争を失くす最強の英雄一 日ノ出が戦場に立つときに震えているのを僕だけが知っている。
彼女は自ら作った鎧を脱ぎたがらない。
だけど、その鎧の隙間に気付いていない。
僕はそれを塞ぎたい。
僕は立場として彼女の隣に立ちたいのではない。
相棒として、彼女の隣に立ちたい。
「おい!サボりたいからって立ち止まるんじゃない!」
「すいませーん!!」
斜面下ってるときに一瞬転びそうになって可愛かったですよ。そんなふうに言いそうになってしまう口を固く閉じながら、僕は斜面を下った。
名前:内田 慎太郎
年齢:14歳
概要:阪政さんが日ノ出の精神状態を危惧して、監視役兼補助役として当てられた。最初本人はそれを煩わしく思っていたが、日ノ出の美貌と内面を知り彼女に恋をする。そこからは自身の役目を忘れて彼女の横に立つことを目標に東奔西走。スナイパーとしての実力を磨き、情報を整理し、お茶も入れられる。日ノ出が「気配は気持ち悪いが外したくはない」と言わしめるほど有能な変態。
法に触れてないからセーフと本人はいっているが。日ノ出の髪の毛でぬいぐるみを作ったとき燃やされかけた。その際に日ノ出からもらったミサンガはずっと右足首につけてる
『変態にしすぎてないこれ?』
『だってよ』
『いやいやいや、これでも抑えたんだよ!?もともとは下着泥棒だったし⋯⋯』
『キショ』
『気持ちが悪いねそれは』
『こうなることがわかってたから変えたんだよ⋯⋯』




