その空虚な手に銃を
「弔銃用意!」
ガシャリと音を鳴らしながら、数多の兵が一斉に銃口を上空へ向ける。
「撃てぇ!!」
それらは号令とともに空気を撃ち出し轟音を鳴らす。
そして揃った動きで再装填し、また号令とともに音を吐き出した。鳴り響いた音は、皆の心境を表しているようで。遠い空に響いたあとそのまま霧散していく。
あれ?なんでここにいるんだっけ?
葬式と言うよりも、旧広島で行われていた慰霊祭のほうが近しいだろうか。白い大きな塔のようなモニュメントの前に置かれた名前の書かれた石。
その周りに白い花を置いていく。
献花、もしくは供花。どっちだろうか。まぁ参加者は全員喪服だし一応葬式なのかな。でもこの会は赫の侵攻により死んだ人たちのものだし、やっぱり慰霊祭か。
どっちだっていいや。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
人混みから離れる。
慰霊祭の会場からは離れた場所にいないとちょっと危ない気がするから。
建物の影に隠れながら、右の手のひらを見る。
やはり、”見える”。
手を通る血管のようなモノが、淡く光っている。
ギイナが言っていたことを鵜呑みにするのならこれが魔力というものなのだろう。今、この体に満ち満ちているもの。望みを叶えるための力、これがあればおばあちゃんを助けることが⋯クイナを殺せたのだろうか。
拳に魔力を集中させるように意識する。
拳は段々と光り、眩く輝く。それが周囲を照らすことはないが、それが魔力というものなのだろうか。
この拳の振りどころは見つけた。人混みから離れた場所。力の加減を間違えても問題がない場所。
別にゆっくり動く必要はない。
足に魔力を込める、ここから右斜の方向に全力で跳べば標的がいる。飛んだら地面に向かって魔力を込めた拳を振ればいい。魔力の初歩的な扱い方なんだろ、そうなんだろ。
約3km離れた城壁の上。
風に靡く髪と、悠然とした立ち姿が。
大好きだけど、大嫌いだ。
「クイナァ!!」
魔力が城壁を叩き、だがその破壊のエネルギーは余ることなく
クイナの体に叩きつけられる。その横に立っていた筋骨隆々の男へも一部魔力を割いたが回避されたことから考えれば、クイナは避けられなかったわけではなく避けなかったのだろう。
なぜ、どうして。
そんな疑問は土煙の中のクイナの姿が語っていた。
「残念だったね日ノ出ちゃん⋯⋯」
グジュグジュと、液体が沸騰するような音を出しながら傷口が膨らみ、傷全体を覆い形が整えられていく。その光景は目を背けたくなるほど痛々しく、とても悍ましい。
「私は分身だから本体と違ってLV切れで死ぬこともないのだよ!はっはっは!」
「⋯⋯⋯おい」
「もう前回のような醜態を晒すことは⋯ってなにバラン?」
「それ言っていいやつなのか?」
「⋯⋯⋯あ、やべ」
何なのだろうなコイツラは。
人の神経を逆撫でするのが、随分と得意のようだ⋯⋯!
「おい、そこの男。バランといったか」
「あ?俺か?⋯⋯⋯⋯あ〜血縁かよ。あぁそうだよ、俺がバランだ」
今すぐにでもここを爆発させたい。
だが、それは出来ない。ここは城壁だ。今は赫がいないからいいが、もし来たときまでに修復が間に合っていなかったら困る。
それに、今の私じゃこの二人に損害無しで勝つのは無理だ。
どうしたって一般人を巻き込む。
「⋯⋯⋯なあ」
私がどうやって奴らを焼くかを思案していると、バランが声をかけてきた。
「お前、腕相撲強ぇか?」
⋯⋯⋯⋯。
「⋯⋯⋯は?」
何を言ってるんだこいつは?
「ジョンソン、審判を頼む」
「Ah⋯⋯Hinode.What the heck is going on?(あー日ノ出。こりゃどういう状況だ?)」
「日本語⋯⋯いや、いいや。どうなってるも何も⋯見ての通りだ」
私の前には、樽が置かれている。大きめの酒樽だ。
ダークブラウンの中に現れた年輪の模様は美しく、力強い。補強するための黒い金属製の金具が、ゲームの世界のものだと強く感じさせる。
簡単に言えば現実味がないのだ。
私の前に樽があり、樽の奥に屈強な男がいて、樽の左側にこれまた屈強な男がいて。それを囲むように人だかりができていた。
「⋯⋯ワカッタ。ハジメヨウ」
ジョンソンがわざとらしく大きなため息を吐く。
その音で、周囲のざわめきは消え去り静寂が訪れる。
どのみち、私の耳には自分の鼓動しか聞こえていなかったから問題はない。コイツラに対する真っ黒な思いで胸がいっぱいだ。
「両者、タルノ上ニ手ヲ」
よくやってきたことだ。
慣れた動作、周りの見物人だっていつも見た光景。
「戦ろうか⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
握り合う手の大きさも、別に珍しいことではない。
筋肉の量も普段戦う男共と変わらない。
「随分な腕自慢なんだろ?」
「自慢なわけじゃない」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「おばあちゃんの教えがいいだけだ」
「ッ!⋯⋯⋯⋯⋯だろうな」
「力ヲ抜イテ」
なにを言うんだジョンソン、私の手に力が入ってるわけないじゃないか。⋯⋯はぁ、嫌だなぁ。
「ソレデハ―――」
わかっているんだ。私の目の前にいる男は、ズルしておばあちゃんに勝ったわけじゃない。
「ヨーイ―――」
私は⋯⋯⋯。
「ハジメッ!!」
おばあちゃんは言った。
私の強みは筋肉に力が入るまでのラグがほぼ無いこと。所謂筋肉の瞬発力が高いことなのだと。
そしてそれは確かなことであるらしく、鍛え始めてから私はおばあちゃん以外に腕相撲で負けたことはなかった。
どんなに強靭な体を持っている人だろうと、初手は脱力から始まる腕相撲は、私との相性が抜群で相手を瞬殺できた。
瞬殺できない相手はそのまま押し込めば勝つことが出来た。おばあちゃんと戦ったときはまず腕すら動かすことが出来なかったけど⋯⋯。
その点、この男はおばあちゃんに劣る。
「こりゃあ⋯驚いたなぁ⋯⋯!」
瞬殺は出来なかった、だけどもう手の甲が樽につきそうになってんだよ。このままこの状況を貫き通せば勝てる。
⋯⋯⋯ほんとにそうか?
この男はおばあちゃんに勝った男だ。おばあちゃんを殺した男だ。
「おい―――」
「あ゙ぁ⋯⋯?んだよ⋯⋯!こちとら結構必死なんだ―――」
私より弱いはずがない。
「本気でやれよクソ野郎⋯⋯!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯っは」
私の挑発を、鼻で笑った瞬間。
私は、なぜか前に”おばあちゃんの気配を感じた”。
「んなら必死に抗えや」
手から感じる力が⋯⋯!?
「グッ⋯⋯!?」
押し戻される、このままじゃ⋯⋯負ける!
「ぅ⋯⋯ぁぁああああ゙あ゙ぁ゙ぁ、あ゙あ゙あああ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ァァ!!!」
「言っとくがなぁ!俺は千代子にィ!」
魔力を込めれば勝てるか!?いいや違うだろ!
魔力は、”おばあちゃんからもらったものでもパパからもらったもの”でもない!ましてや私一人のものではないッ!!
一瞬の葛藤、それは勝利への道筋を探るためのものであると同時に、勝利への扉を自ら閉じるものでもあった。
思考の海に沈んだ一瞬のうちに、私の手は樽へと叩きつけられていた。
「力で勝ったことはねえよ」
「⋯⋯⋯っ!!」
全力を尽くした。それでも、届かない。崩れ落ちた先にある地面が硬い。視界が歪む。滝のように滴り落ちる汗の中に、涙があることがバレてないだろうか。
「過去400年、俺は千代子より強い人間にあったことはない。それと忠告だ。魔力はしまっとけ、後悔したくないならな」
あらゆる感情が渦巻く私の耳に、その言葉が届くことはなかった。
「今、なんと?」
「私は、軍への所属を希望します」
人類軍元帥室。
赫に抗う者たちを統べる最高位の役職を持つものに与えられる部屋。赫についての資料だけが押し込められた棚。
人間味を全て削ぎ落としたその部屋に、10歳の少女と59歳の男が対面していた。男は机の上で手を組み、少女は周囲に火の粉を散らす。
「それが例の?」
「魔力です」
男、阪政加貫は動揺を表面に出さない。
あくまで冷静な受け答えを装う。
「それで、その力で何ができるんですか?」
「赫を皆殺しにすることです」
瞳は生気を宿しておらず、膨大な憎悪を薪に燃え盛る真っ黒な炎が顔を覗かせる。それは絶望の最中に生まれた希望の種火であり。
「⋯⋯⋯わかった、期待していますよ。日ノ出二等兵」
新たな地獄を生み出す業火でもあった。
普通こんな簡単に決まらないって?
考えてみてください。
・人知を超えた力
・英雄の娘、傑物の孫
・軍の中で最高の身体能力
経験積ませたら今までの誰よりも光る原石を見逃す阪政さんではないんです。
分身についてちょっと説明。
本体と違って確実な死はないが、火傷など傷口の損傷が荒いと再生に時間がかかる。だから前回は戦闘不能になってたわけですね。




