赴け汝は戦場へ
「阪政さん!あれッ!」
「あぁ⋯⋯⋯⋯なんてことだ」
人類軍総書記官阪政加貫はその光景を見た時の気持ちを後に語る。
”これが始まりならば、どれほど良かっただろう”。
歴史が動くのは、その時から2ヶ月後。
一瞬だ。
俺が、足に力を入れてこの灰色の大地を蹴れば、ここから砦までは一瞬だ。
だが、それをしたくない。
なんでだろうな。
別にこいつを殺したかったわけじゃない。実際、最初は顔見とことかそんな感じの軽いノリだった。
⋯⋯⋯今回の場合はそれが悪かったんだろうな。
殺すべきかどうか、俺は躊躇ってしまった。その躊躇いがなければ、こいつは誰かを守って犠牲になったと言えた。
だが結果はどうだ?
相手の男は傷が回復していて、戦いの後だとは思えない。千代子自身にも一切の傷がない。これを見て愚かな奴らは何を考える?本当に戦ったのかどうか、そう考える奴らが少なくとも100人単位で出てくる。
俺は、千代子の名誉も何もかも傷つけてしまった。
「よぉ、おっさん」
「お前は⋯⋯」
慌てた様子で出てくる軍服を着た兵士数十人の中で、ひときわ目立つ隊服を着た男。千代子は最初、なんて言ってたかな?
「お前は⋯阪政だっけか?」
「⋯⋯はい。以後、お見知り置きを」
「これ以降覚えておく気はねえよ。こっちに来たのは、千代子を届けに来ただけだ」
阪政に千代子を手渡そうとしたが、鍛えていると言えど千代子は持てないと気付く。取り敢えず、坂政の部下らしき奴らに台車を持ってくるよう伝える。
「⋯⋯⋯貴方が、殺したんですか?」
「馬鹿言うんじゃねえ。よく見やがれ」
俺が抱えてる千代子は傷なんざ負っちゃいねえ。
「こいつは、小癪にも俺の前で老衰で死んだんだ。この俺と戦って傷も負わずに綺麗に死にやがった」
「そうですか」
「随分あっさりしてるんだな。恨み言の一つや二つ、言われると思ってたんだけどな」
「まあ、貴方方二人の顔を見ればわかりますよ。互いのことを尊敬し合っている顔ですから。それに、恨み言は二つどころじゃなく何千とありますよ。彼女は人類にとっての母のような人物でしたから。貴方は⋯⋯いえ、貴方達はこれからこの世界の全員に恨まれることになるんです」
「ハッ⋯⋯⋯かかってこい」
帰ろう。
取り敢えず俺は寝たい。今すぐにでもベッドに倒れ込みたいんだ。
「盛大に弔ってくれ」
「言われずとも」
ゲートを開き、暗く後ろめたい気持ちを引きずったまま、俺は自分の世界に足を踏み入れた。
< ー日ノ出目線ー >
「へ?」
死んだ⋯⋯⋯?おばあちゃんが?
嘘だ。私の、千代子おばあちゃんが死ぬわけない!
嘘だと⋯⋯⋯そう言ってくれ。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「ッ!⋯⋯⋯⋯⋯⋯クソ」
なんで⋯⋯⋯黙るんだ。
阪政さんに罪はない。
この人は私に報告してくれただけなんだ。パパが死んだのも、おばあちゃんが死んだのも。この人は伝えてくれただけなんだ。
でも⋯⋯⋯でも!
「⋯⋯少し、一人にさせてください」
「⋯⋯⋯わかりました」
明日、パパ達のお葬式をするらしい。日狼隊全滅、北京消滅、おばあちゃん死亡。申し訳ないけど北京はどうでもいいや。
他二つがデカすぎる。
あぁ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
明日、どんな顔して葬式に行けばいいかな。
喪服って、持ってたっけ。焼香ってどうやるんだっけ。そもそも日本の、仏教のお葬式かな。日狼隊の中にはヨーロッパの方もいっぱいいたからなぁ。
「阪政さんに聞きに行かなくちゃ。」
関係ないことを考えていることはわかってる。それでもそんな関係ないことを考えているうちは涙が抑えられる。
給仕服は、無いな。土埃だらけだったろうし、サイズもそろそろ限界だったしなぁ。
他に服は⋯⋯あ、パパから貰ったセーター⋯⋯が⋯⋯。
「これでいっか」
早く阪政さんのところに行こう。
なんか、妙に疲れたな。
その様まさに抜け殻の如し。




