今こそ月が昇る時 Ⅲ
「バラン、ここホンマに現世か?僕の知ってる世界とちゃうんやけど」
「でもあそこにギイナ倒れてるぜ」
「うわホンマや⋯⋯⋯⋯ミスったな」
「何が?」
「こんなおもろい顔で寝てるんやから写真撮らなあかんやろ」
「確かに」
俺達はギイナに呼ばれ、現世の方に救援に来ていた。
すげえ剣幕で呼ぶもんだから慌ててきてみれば、地面がひび割れ風が吹き荒れ燃え盛るとかいう戦時中でも見ないぞこんな光景。
んで、ギイナのちょっと奥で倒れてんのが件の日ノ出か。
「うわエグ、あれ気絶してなかったら近寄りたくもないんやけど」
「同意だ。ギイナと戦って傷一つ付いてない次点でお手上げだぜ」
それに、そのさらに奥で丸焦げになってんのがクイナだろ?アイツの再生能力でも再生しきれない火力とかなんだよ。
まあクイナだもんな。
「んじゃ、さっさと回収して帰ろう」
「せやな、こんな場所さっさとおさらば⋯⋯⋯したいもんな」
ギイナとクイナを連れ、試作への扉を開き帰ろうとした時。ここに満ちている魔力を押し返すような威圧感を放つ存在が近づいてきていた。
「ひゅ〜。イティサ、ここ今核で汚染されてるよな?」
「せやな」
「んじゃあ俺ちょっと行ってくるわ」
「はあ?」
こんな楽しそうなのが来てるんだ、いかなきゃ損だろ。
「というわけで行ってくる!」
「もうわけわからん⋯⋯⋯ん?というかなんでアイツ日ノ出持ってったんや?」
「よお!あんた名前なんだい!」
「誰だお前は!?」
「軍人に興味はねえよ、そこの婆さんに聞いてんだ」
「あらあら⋯⋯⋯」
頬に手をつき、困ったように笑う。
所作そのものは長く生きた人そのものだ。だが肉体がおかしい。なぁんでそんなムッキムキなんだよ、笑うわ。
「できればその子を離してもらいたいんだけど⋯⋯⋯」
ん?あ、日ノ出連れてきたの忘れてた。
「ほれ、どうぞ」
「お前!それ以上近づくんじゃない!」
銃を向けんなよ⋯⋯。面倒くせえな。
「別に近づいたとこで何もしねえよ、んなことしなくたってお前らごときじゃ相手にならん」
「クッ⋯⋯⋯!貴様!」
「やめなさい阪政さん。あの人の言うとおりですよ」
お、流石婆さん。はい、しっかり返しましたとさ。
「どうも。阪政さん、孫をお願いします。それと、みなさんを下がらせてください」
「しかし!」
おん?邪魔だぞ?っていうか婆さんにとってこいつら足枷にしかならんだろ。
「下がりなさい」
怖。
「⋯⋯⋯分かりました、ご武運を」
「はい、そちらもお元気で」
ん?あれこれ戦う感じの流れか?
あ、軍人待て!ちょっ!?速い速いって!
「さて、やりましょうか」
「あぁ〜マジか。わぁ〜ったよ、やるって。んなに闘気飛ばすなよ」
まあ、俺もやってみたかったしな。
「やるか!」
魔力は無しだ!俺も、俺の肉体だけで戦う!
「婆さん!もう一回聞くぜ、あんたの名前は何だ!」
「一 千代子よ。貴方のお名前は?」
「俺の名前は、バランだ!」
右足を引いて、様子見の右ストレート!
まあ当然、防ぐよな。
片手で掴まれるとは思ってなかったけどな!
「お返し」
「うおっ!?」
左手で俺の拳を掴み、残った右手を戦鎚のごとく千代子は振り下ろす。重力と遠心力、そこにこいつの筋力を加えた打撃はいとも容易く地面を割る!
「すげえな!瓦割りとかやってみろよ!」
「後片付けが面倒だからやらないわよ」
そう言いながら拳を握り直すんじゃねえよ。というかそろそろ俺の手を離せ!
俺の手を掴んでる左手に抱きつくように、千代子の首に足を回す!なんちゃってフランケンシュタイナー!
本来は地面に叩きつけるプロレス技だが、下に向かわせる勢いを今回は横に持っていく!
「ぶっ飛んどけおら!」
かなり遠くまで飛んでったな
手は離れた、というか跡がついてんだけど!
「おかしいだ――」
「よそ見はいけないねえ」
「はっ!?ぶるぇ!?」
嘘だろおい、60mはあったぞ!
某サイヤ人みたいな感じで殴る体制のまま突っ込んできたのか?奥にでかい砂埃が見える、一飛びかよ。
「チッ⋯⋯⋯⋯」
視界がぐらつく、的確に顎狙ってきやがった。
アレの応用するか。
「あら、何て言ったかしら」
「酔拳だよ」
千鳥足、どうやって動くのかわかねえよな?俺も分からねえんだから。普通の酔拳も実際に酒を飲むわけじゃない。酔拳の本質は相手を油断させること、そして!
顔の中心を貫こうとする拳を、地面に倒れ込むようにして躱す。
「?」
「酔拳はなぁ⋯⋯」
鳩尾、肩、首、顎。的確に狙われた攻撃を紙一重で避ける。
酔拳の本質、それは完全な脱力から生まれる予測不可能な回避。その勢いを載せた、鞭のごとく撓り針のように突き刺すカウンター!
前に倒れ込み、腕を伸ばせば地面につくような距離になった時。片足を前に出し、身を乗り出す。体重移動により生み出された勢いを、アッパーに持っていく!
「⋯⋯⋯⋯んだよ、避けられんのかよ」
いやなんで避けられるんだよ。
完璧な不意打ちだったろ。
「若い頃は山に籠もったこともあったからねえ、不意打ちは慣れっこなのよ」
経験の差ってやつかよ。
だがよ、俺だって戦闘経験は積んでんだよ。
「本気でいかせてもらうぜ」
この婆さんは手加減していい相手じゃない。魔力を使うわけじゃぁない。ただ単純に、本気でぶん殴ると言っているんだ。
「若者の模範になるのが老人の務めだからねぇ、かかっておいで」
いや、あのな?
「俺はお前よりも年上だぞ?多分クアドラブルスコア以上は付いてる」
「またまたそんな冗談を⋯⋯⋯」
「(嘘をつかない純粋な瞳)」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
絶句するくらい驚かなくてもいいんじゃない?
大和撫子のムッキムキおばあちゃんがサイヤ人のごとく殴りかかってくる。笑えてくるのは私だけじゃないはず。
前に言ったかどうかわかりませんが、千代子おばあちゃんの見た目は20代くらいです。服装は黒のインナーに一昔前の刑事のコートを羽織って、ジーパンを履いてる。




