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ただ咳をする  作者: haremame
廻編 第二章 月下日昇 災禍は来たる
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今こそ月が昇る時 Ⅱ

「⋯⋯⋯わかんない?」



日ノ出がクイナに問いたのは己の父の所在。それに対する返答は否定でも、肯定でもなく、疑問。


人知を超える極大の魔力を生まれて初めて解放し、極度の興奮状態の日ノ出の脳はその意味が解らない。



「そ⋯⋯―――」



そっか、そう応えようとした日ノ出の口を。


父が死んだ悲しみ(憎しみ)が閉ざす。


魔力を扱ったことのない日ノ出が、これから行うのはあまりにも初歩的で稚拙なもの。魔力を凝縮することにより、何かしらの現象を起こすというもの。


魔力を持つものは、最初にその行動をすることで自身の属性を確認し、魔法の修行を行う。クイナも、ギイナも強くなるために幾度となく繰り返し見慣れた動作。だがしかし、大気を飲み込むその魔力の前に。気圧された二人は、その動作に気付くことが出来ない。


瞬間。


クイナの頭部が、激しく燃え盛る。



「クイ⋯⋯!?」



「あなたは知らないの?」



頭部を燃やし、その場に倒れ込むクイナへと声をかけようとしたギイナに日ノ出が言葉を投げかける。お前は私の父の場所を知らないのか、と。


その問いかけに答えようとするよりも尚早く、ギイナは日ノ出の瞳を捉える。鈍く、暗く玉虫色にぬらぬらと輝くその瞳の最奥。泥のように濁りきった怨嗟と憎悪を。


ギイナの背筋に、冷たい氷に触れたときのような凍てつきが奔る。死への恐怖?違う。未知への底しれない不安。人生初めての感情が、ギイナの精神を支配する。



「⋯⋯⋯」



一瞬の、静寂。



「わからないならいいや」



ギイナの視界が、業火に包まれる。だが、不安ゆえにギイナは準備を己の能力でしていた。



「あっぶね!?」



即ち炎への耐性。


一時的、燃焼しない体に変化したギイナは燃え盛る”空間”から脱出。その勢いのままクイナの頭部を切り落とす。それにより脳を再生したクイナも無事戦線に復帰する。



「ねぇあれなに!?」



「魔力の凝縮だろ!速すぎるし読めなさすぎるけど!」



魔力とは、保持者の成したいことを成すために最も扱いやすい力。形も、性質も、全てが保持者によって決められる。



「なんか、もう⋯⋯⋯いいや」



日ノ出が抱いた、”殺意”。それを魔力は、確かに認識する。



「ねえギイナ、あれなんだと思う?」



「私に聞かれてもわからないとしかいいようがないな、ただ魔力の密度が半端じゃないってのはわかるよ⋯⋯⋯!!」



陽炎のごとく、空間を捻じ曲げる。



日ノ出が知っている、最も大きな爆発。


原子核に中性子を衝突させ核分裂を起こし、連鎖反応によって瞬時に巨大なエネルギーを放出させる。


過去日本にて、累計21万人以上を殺害した。

最悪の爆弾。


原子爆弾。


それを認識したクイナの脳内に。


”彼女”の意識が流れ込む。





2029年10月18日9時54分、北京は地図上から姿を消した。



























< ーギイナ目線ー >


「ぐ⋯⋯⋯だぁ゙ッ!いってぇなぁ⋯⋯⋯」



何だ、今の。爆発範囲、焼かれ方、体の感覚的に原爆か?クソが⋯⋯クイナは無事?いや、肉体が再生してはいるが遅すぎる。

傷口が荒いから⋯違う。LVがないのか?確かにLVはいつもより少なかっただろうけど、それでも700はあった。


⋯⋯あ、違うわ。”クイナ”だからだ。


というか、燃え方が変なような⋯⋯⋯。



「焼夷」



煙と土埃でろくに前が見えない中、奥から聞こえてくる言葉。そして、泥のような重い液体。



「っば!?嘘だろ!?」



この感じ、これつまり!


火の雨、モロトフのパン籠。呼び方なんざどうでもいい、ゼリー状の燃料で燃やすから消火しにくくした戦争兵器!



「ナパームとか嘘だろぉぉぉおお!?」



あ、違うこれエレクトロンの方だ。



「どっちだっていいわぁぁ!!」



クソガキめ、もう魔力を液体にしてきやがった。いや固体か。



「だからどっちだっていいわ!」



というかまじで洒落にならん、今ギリギリ避けられてるからいいけど。あれ3000度くらいいくんだっけ?燃えなくても溶けるわ!


魔力切れを狙うのもこの魔力量じゃ無理だろうし、どうすんだよこいつ。多数で狩る奴(レイドボス)強襲(レイド)してくるんじゃない!!



「ぐえっ!?」



クッソツッコむ箇所が多すぎて戦闘に集中しきれない、バカ共のせいだなこりゃ!というか最近戦闘してないのも影響してきてる。


え、まってなにそれ。風?竜巻?でも今ここ燃えてるよ?燃料もあるよ?そんなとこで竜巻なんて起こしたら⋯⋯⋯。



「火災旋風」



「でぇすよねぇぇぇええええ!!」



燃える!燃える!?おかしいおかしい!なんで魔力を得て5分未満の女の子が天変地異を引き起こしてるんですか!?


ああ、やばいやつだ。こいつはマジの化物だ。


だがしかし!


まだまだ、まだまだ!


避けながら、石を拾う。そしてそれをぉ⋯⋯⋯!



「どうやってこれ防ぐんだぁ!見せてくれ、よっ!!」



ぶん投げる!私の予想じゃ、お前はこれを。


カンッと、甲高い音を鳴らしながら。


日ノ出から”少し離れたところで弾かれる”。



「ビンゴッ!」



魔力で防ぎやがった!


それがわかったなら、臆する必要はない!全力最速で⋯⋯突っ込む!!



「教えてやるよビギナー!たしかに魔力障壁は全部防げる!だがなぁ!」



全身に大小、火傷や穴が開く。今気付いたけどこいつビームみたいなのも飛ばしてきてんのか。尚更突っ込むしかねえな!


火龍+氷龍+耐熱赫+耐氷殻+鋼鉄殻!白銀に輝く鎧が、爆発的な熱が、全てを凍てつかす氷が、私の拳を覆う。私の能力フルセットだ。躊躇はいらない、ぶん殴ってやるよレイドボス!



「防いでみろやぁ!!」



全力で振り抜いた拳が、透明な壁に阻まれる。あまりにも興味のない目で私を見るんだなぁ!私に興味ないのかい!



「邪魔」



そんなあっさりとした言葉と一緒に、心臓が貫かれる。そうだなぁ、お前の目的は奥に倒れてるクイナだもんなあ。


痛い、これが土ペロかぁ。立ち上がれねぇや⋯⋯⋯⋯⋯でも、立たなきゃな。



「授業の途中だ」



歩いていく背中に向かって、一言。意識させるだけでいい。



「魔力は使いすぎるとぶっ倒れる⋯⋯ぜ⋯⋯」



真っ暗になる視界の縁に、倒れる日ノ出の姿を見て私は安心して瞼を下ろすのだった。




魔力を消費する量が一番多い行動が魔力障壁です。魔法が3だとすると、障壁は300くらい。


ギイナの能力【餓鬼】(キメラ)。食べた生物の器官を自身に生成する能力。器官がセットできる数に限りはないが、多すぎると反動が来る。今のギイナが安全に使える数は最大で45種類。使う生物の格でかなり数が変動するので、けっこう大変な能力。


因みに今回のギイナの攻撃で日ノ出の魔力量が中間圏半ばから成層圏最低値まで減りました。


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