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ただ咳をする  作者: haremame
廻編 第二章 月下日昇 災禍は来たる
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今こそ月が昇る時 Ⅰ

生命体”赫”についての報告書


氏名 真黒檜 恭司     作成日 2029年 10月21日


2029年10月18日、人々は英雄を失い、傑物を失い、悲劇が作り出した怪物を手に入れた。あの日、何が起こったのか知る人物はいない。知っているのは粉微塵に砕けた大陸の一部のみだろう。













理解が出来なかった。理解したくもなかった。

聞かなかったことにしたかった。


パパの訃報を聞いたときの私の顔は、きっと醜く歪んでいたのだろう。






いつもの毎朝。

朝4時頃に起きて、顔を洗って、歯磨きをして、15kmのランニング。終わったらおばあちゃんとのトレーニング。起床のラッパの40分前に終わらせて、お風呂で汗を流す。おばちゃんたちと一緒にお皿を洗って、朝食を作って配膳する。


朝食をみんなが食べ終わって、皿洗いをして私もおばあちゃんの鍛錬に参加しようとした時、おばあちゃんが向こうから知らない男の人と一緒に歩いてきた。そして私の前で、二人は止まった。


もうその時点で、体が震えて歯がカチカチと音を鳴らしていた。



「はじめまして日ノ出さん、阪政 加貫(さかまさ かぬき)と申します。以後、お見知り置きを」



帽子を取って、阪政さんは深くお辞儀をする。



「は、はじめまして。⋯⋯⋯に、一 日ノ出です。よろしく、お願いします」



ゆっくりとこちらも頭を下げる。


すると水滴が2、3滴ほど地面に零れ落ち、他の地面とは異なる色の模様を造りだす。私の目から落ちたもの、涙ではない。額や頬を伝って落ちた汗。


そのことを認識した瞬間、自分が大量に冷や汗をかいていることに気付いた。



「実は日ノ出さんにお伝えしたいことがありまして⋯⋯⋯」



「や⋯⋯」



やめてくれ。どうか、どうかその先は言わないでくれ。


そう懇願しそうになる口を手で塞いで無理やり黙らせる。聞きたくない。だから耳をふさぎたい。でも耳を塞げばこの口が何かを叫んでしまう。だから耳が塞げない。


それでも、その先を言ってほしくないと私が葛藤しているうちに。





「想夜さんが所属する部隊日狼(にちろう)の全滅を、先ほど確認いたしました」





そう、告げられた。

はっきり言おう。

私の心はこれだけで完全に砕け散った。


これ以上なんていらなかった。





「犯人は特別手配被疑者クイナで、約3年ぶりの出現です」





本当に、何もいらなかったんだ。













「ねえギイナ聞いたぁ?」



「なにを?」



赫喰(ブラッディ)のこと、ここの人たちは赫って呼ぶんだね。別のとこだと禍月(まがつき)とか呼ばれてたのに」



「何が言いたい」



「いやね。おんなじ人でも、認識するものは全然別なんだなぁ〜ってこと」



「お前の命名センスが厨二っぽいからだろ」



「私に言わないでよぉ〜」



龍の逆鱗に触れる。



「ん⋯⋯⋯」



虎の尾を踏む。



「なんだ⋯⋯⋯これ」



古来より人は何かを怒らせることを動物に例えてきた。



「何だって言っても”魔力”しか無いでしょうよ」



現代では、地雷を踏み抜くなんて言うこともある。



「普通現世の人間は魔力持たねえだろ」



何が言いたいかというと、人は恐ろしいものを怒らせた時、偶然起こったことだとしてきた。うっかり龍の逆鱗に触れる。気付かず虎の尾を踏む、地雷を踏み抜く。



「でもこれは魔力以外ありえないでしょ⋯⋯」



クイナとギイナは今、その偶然を踏んでしまった。



クイナが生きてきた年月、ギイナが生きてきた年月。どちらの人生でも見たことのない規格外の魔力量。大陸を、否、地球を覆う魔力の奔流。



「ねえ⋯⋯⋯」



「っ!?」



魔力の主と。



「私のパパは何処?」



眠れる獅子に水ぶっかけて尻を叩いた張本人が。



「おねえちゃん」



「⋯⋯⋯ちょっとわかんないかなぁ?」



今再会する。






ちょっと短いので、魔力について解説しますね。


魔力というものは通常心臓で作られます。魔力量というものは上限が決まっていて、生まれたときから既に決まっています。現世の人間は、そもこれがゼロなんですね。じゃあなんで日ノ出は魔力を使えるのかっていうと、主な理由は”バグ”です。


筋肉おばあちゃんこと千代子。彼女がその発端でした。魔力が心臓じゃなくて全身の筋肉で作られている千代子おばあちゃんは、魔力と肉体が何故か一緒の存在なんです。あと何故か魔力を持ってます。

そのため、魔力0だけどクイナ達からみると魔力すげーって見えるんです。


そしてこれを引き継いだのがパパ、想夜です。こっちは魔力を多少持っていて、それでいて千代子と同じ肉体のハイブリッドです。そんなおばあちゃんとパパの血を引いて生まれた日ノ出ちゃん。これが1のバグです。


2のバグは虎象おじいちゃんで、おじいちゃんが体弱かった原因は魔力が多すぎて、肉体が耐えきれなかったことでした。過ぎた力は己の身を滅ぼすって言っていた誰かの言葉通りに魔力量は異常、肉体は現世の人間。だからおじいちゃんは死にそうになってました。


そしてそのおじいちゃんの魔力は千代子おばあちゃんが隣りにいることでおばあちゃんに移動。おばあちゃん更にムキムキに、その魔力量がパパに移動、パパは肉体が許容値に達せず魔力を扱えない。日ノ出誕生、おばあちゃんのトレーニングで肉体完成。そして魔力が解放されるトリガーを待っていた状態になっていたわけです。


つまり!おばあちゃんとおじいちゃんというバグが日ノ出の魔力を扱える原因です。


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