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ただ咳をする  作者: haremame
廻編 第二章 月下日昇 災禍は来たる
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時経ち日が経ち赫は際立つ

生命体”赫”についての報告書


氏名 真黒檜 恭司     作成日 2029年 10月16日


2026年11月4日関東陥落

2027年1月29日東北及び中部陥落

2027年3月13日北海道及び近畿、中国四国陥落

2027年3月25日九州陥落

2027年4月10日沖縄陥落


赫による被害の波は、出現から約2年で日本を飲み込んだ。


2026年12月から始まった18歳以上の健康な国民の徴兵。それによって発掘された英雄”一 想夜”の活躍により、赫の進行を一部抑えられたものの、今ではその功績も無いに等しい状態となっている。片足を失っていて、戦場にいけない。父の仇を取ることも出来ない私は、出来る限りの情報をここに残す。


確認された赫の種類と識別コード:

犬型 識別コード«ハウンド»

高い検知能力を備え群れで行動するため周囲に味方がいない場合は動かないことを推奨する


鳥型 識別コード«ホーク»

高い飛行能力を持って行動するため上空からの奇襲に警戒しながら早期に撃ち落とすことを推奨する


人型 識別コード«ヒューマン»

ハウンドやイーグルよりは危険性が低いが声帯を持ち、素体の声を真似してくるため、いらぬ感情を抱く前に喉と頭を撃ち抜くことを推奨する


書くことしか出来ない私の歯痒いこの気持ちを、英雄達の反撃に役立ててほしい。













遠くで鳴る起床のラッパが鼓膜を震わせるのを感じながら、スポンジを握り泡立たせていく。力を込めすぎないように、しっかりとお皿の汚れを落としていく。


赫が進行を始めてから三年余りが経過した。私がおばあちゃんの家に避難して、3ヶ月位が経ったあと関東地方に人は住めなくなって。更に南に避難して、そしたらパパは軍隊に入って。私も雑用として軍隊の末端に入って仕事をしながら、おばあちゃんに鍛えられる毎日を送っていた。


今年で私は10歳。小学校があるなら私は4年生かな?見た目は変わらないけど、力は昔と比べ物にならない。どれくらいかと言うと、青竹を手の力だけで折れてしまうくらい。


おばあちゃんはやっぱりすごい。そんなおばあちゃんは99歳、

明後日の10月18日に遂に100歳となるそうだ。未だボケなし衰えなし。


軍の誰もおばあちゃんには勝てない。「100歳になるまでは負けないし、死なないわよぉ」なんて頬に手をつきながら笑っているおばあちゃんの足元には30人位の、屈強な男達が転がっていたそうだ。


我が祖母ながら恐ろしい。


そんな具合で、日本が滅んでも生活は続いている。



「日ノ出ちゃん!そっち手が空いたらこっち手伝っておくれ!コイツら加減しねえで犬みたいに食っちまうから配膳が追いつかないんだ!」



「なんだいおばちゃん!あんたらの作る飯がうまくなけりゃこうはなんねえよ!」



「じゃあ不味く作るかい?」



「そりゃ勘弁!」



日本が滅んだあの日、世界は一つになった。人類同士の戦争はなくなり、赫という共通の敵を撃滅するために結託したのだ。


そうすると、世界の良いところが集まった。日本のように和気藹々と、アメリカのようにフランクに、中国のように豪快に。朝6時だと言うのに、食堂はパーティー会場のように騒がしい。


これを呑気だというのなら、そいつは馬鹿だ。これは己を無理やり鼓舞するためなのだ。


日本周辺の国にはすでに人はいない。赫は、活動を始めてから3日で一度死亡し1日後に活動を再開することが最近の調査でわかった。そして水に溶けるということ。


空を飛ぶ赫、ホークが毎日毎日渡ろうと侵略してきて、それを軍が対処。ホークだけならまだいいのだ、奴らの対処は他の種と比べればかなり楽だから。


だが、昨日遂に見つかったのだ。釜山の沖にて、ハウンドの活動停止個体が。波に流されたどり着いたのかどうかは不明だが、赫は着実に進化を続けている。


もうじき海を、水を克服するだろう。


不安が込み上げてくる。だからそれを笑って騒いで空気に溶かす。

私も、その空気に紛れていくのだ。




   

「Hey Ms.Hinode! I heard you beat Kenny recently! Take me on!(ヘイ日ノ出!最近ケニィに勝ったんだって?俺とも勝負しようぜ! )」



昼食の時間、それは入隊者に与えられる唯一の休憩時間。その時間は一時間、昔なら少ないと思えるが今じゃ長すぎると思えるくらいだ。


そんな時間に私はよく勝負を持ちかけられている。


その理由は単純でとある噂から始まった。

”毎朝千代子師匠と鍛錬してる娘がめっちゃ強いらしい”という内容のものだ。しかもその娘が私であるということもバレた。



「おっ!?ジョンソンが日ノ出ちゃんと勝負するってよ!」



「マジかっ!?」



「やめとけジョンソン恥かくぞ〜」



ワイワイガヤガヤと私と前にたった爽やかな大男ジョンソンの周りを囲むように食堂にいたほぼ全員が集まる。毎日行われているこれは、所謂イベントなのだ。




「Don't cry if you lose, okay?(負けても泣かないでくれよ?)」




「Of course!(もちろん!)」



そして挑戦者は大体アメリカンだ、その御蔭で英語はスラスラ喋れるよ。


食堂にある机を挟み互いが向き合う。深く一礼し、椅子に座る。

机に肘を乗せ、机上で手を結ぶ。力はゆるく、まだ入れない。


つまるところ勝負の内容は腕相撲なのだ。



「じゃあ俺が審判をやろう、それでいいだろ?」



前回挑戦者ケニィが私とジョンソンの手を覆うように掴む。

ゆらゆらと揺らし脱力を促す。



「準備は?」




「Always ok!(いつでも!)」



「どんと来い!」



「OK、レディー⋯⋯⋯」



ジョンソン手汗はやめてくれ。



「GO!」



何故腕相撲で勝負をするのか、それは私が持つアドバンテージにある。目の前にいるジョンソンが持ち上げられる最も重いものを、私が持ち上げることは出来ない。


筋力はジョンソンのほうが圧倒的に上だしね。だけど、瞬発力が違う。筋肉に力が入るまでの速度が、私はおばあちゃんすらも上回る!


その結果が、始まりの合図とほぼ同時に机に手の甲をつけたジョンソンの姿だった。



「⋯⋯Oh my god.(なんてこった)」



「勝者、ミス日ノ出!」



審判のケニィが勝者を告げる声と同時に、歓声が沸き上がる。「勝っちまった」「やっぱり」そんな声も聞こえてくる。


私の勝負はパワーじゃなくて、スピードで決まる。並大抵の人はそれに対応できないから、日ノ出はみんなに勝てるとおばあちゃんは言っていた。だがそのおばあちゃんの手はミリも動かない。

矛盾してるよおばあちゃん。




「Hey Johnson. Since I won, I can ask for something, right?(ねえジョンソン。 私が勝ったからナニカ要求してもいいよね?)」



「⋯⋯⋯Yes,that's fine.(あぁ、いいぜ)」



 

「Study Japanese a little more. I'm having a hard time.(もうちょっと日本語を勉強して。 私が大変だから)」



「Leave it to me!(任せとけ!)」



「Hey.(おい)」



「⋯⋯⋯ゴメン」



「わかればよろしい」



ケニィも私に腕相撲で負けたときから日本語を学んでもらっている。いくら英語に慣れたといえど、常に英語の会話は辛いのだ。


それに、と彼らを見る。


肩を叩き合っているジョンソンとケニィ。そして他のメンツも。

今の軍で優秀なのはやはり日本人よりもアメリカだったり他の国なのだ。


それでも、今この軍で最もエリートなのはパパの部隊。その部隊は常に前線で戦っているから命を落としやすいし、命令は日本語で行われることが多い。


ここにいる人はみんな優秀だ。いつかパパと一緒に戦う日が来るのかもしれない。そんな時、日本語がわからず命令に従えなくて死亡など、そんな悲惨な死に方はしてほしくない。


だったら今、勉強してもらったほうがよっぽどいい。つまりこの要求は彼らのためなのだ。決して私のためだけではない!


そういうことにしておいてくれ。





すまないジョンソン、君に喋らせると手間が倍なんだ⋯⋯⋯。


時が経ち、日ノ出はゴリラと言っても差し支えないほどになりました。見た目は華奢のままですけど、もう彼女はゴリラです。具体的に言うと最初におばあちゃんがやっていたコウモリで寝れる。(おばあちゃんはそれで一日過ごせる)あれこれどっちかって言うとコウモリか?


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