平和は何時破るるものか
「いやぁ、夜になっちゃったねぇ」
飯の心配しねえで一日過ごしたのは初めてな気がするな。
俺以外全員寝てんのか?あ〜あ、来人まで寝てるよ、油断しきってんじゃねえか。⋯⋯俺もか。
あーそうだ、あのクソジジイがなんかやらかしてねえといいけど。ヤクザのくせしてドンと構えることも出来ねえゴミクズが、所有物である俺達がいなくなって何もしてないわけがない。
⋯⋯⋯クッソ。めんどくせえな。
ここの人たちに迷惑かけるわけにもいかねえ。
早めに帰って、大人しくぶん殴られよう。
差し当たって、誰を起こすべきか。
「殺したい?」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯?
「は?」
殺⋯⋯⋯⋯は?
今喋ったの、クイナだよな?俺達と喋るときの、普通の声色で、今、殺すって⋯⋯。
全員寝てるのかと思った。明かりと飾り付けだけがついた部屋。バランもイティサもギイナも机に突っ伏して眠っている。クイナもその一人だと思っていたのに、違った。
「私達はね、君たち二人にここにいてほしいんだ。飢えていてほしくない、不安でいてほしくない、笑っていてもらいたい」
「そりゃ、俺達も願ってることだな」
「でしょ?だからさ、この世界に住みなよ」
この世界?
「察しついてると思うけど、ここは異世界。私たちは所謂異世界人ってやつだ」
「っは、それは信じられないな⋯⋯」
「そこは信じてもらうしかないなぁ⋯⋯う〜ん。少し夜風に当たろっか」
流れるまま、俺はクイナと夜の草原を散歩することになった。
「すげぇ⋯⋯⋯」
真っ暗な夜空に、星が明るく輝いてる。街じゃ見れない。
日が差してたからおかしいとは思ってたが、俺達昨日までは洞窟にいたよな。それなのにここは明らかに外だし原っぱだ。見える星座の形も、普段の生活じゃ見たことはない。
「そうだろうそうだろう」
夜中から朝になるまでの間に移動することは出来ないわけじゃないだろう。ただ⋯⋯⋯⋯。
「ん?どうかした?」
あの日、あの時。俺は⋯⋯撃ったはずなのに。クイナが生きていること、それが異世界という存在をより強固なものにしている。
信じるしかないな。
だけど、殺してもらうのか?
生かしたまま更生させるってのも⋯⋯⋯⋯いや、無理だな。いつか絶対俺達を取り返しに来る。クソジジイは自分の持ち物を盗られるのを許さない質だ。クイナ達が死ぬことはないだろうけど、来人に危害が及ぶ可能性がある。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯腹括るしかないのか。
「クイナ」
スラリと、クイナは何処からともなく黒い棒を取り出し、それを己の肩に乗せる。
頼もしくも恐ろしい、そんな表情を浮かべたクイナが。
「お任せあれ」
その言葉を発した瞬間、棒は花開き紅く輝く。
そしてクイナの瞳もまた、赤く爛々と輝いていた。
< ークイナ目線ー >
ちょっと煽りすぎちゃったかな?
そんな事を考えたのは廻が眠りに家に戻ったとき。これ私が言わせちゃったのでは?とちょっと後悔していたりしていなかったり。これが将来トラウマにならないといいんだけど。
初めて殺したのは何時だっけ?
私から言わせてもらえばそんな程度だけど、普通違うもんなぁ。
殺しというものは日常から遠く、ずっとずぅ〜っと遠くの話であるべきだ。
争いもそうだけど、私はそういうものに慣れすぎたのかな?
⋯⋯⋯ま、私の場合は慣れてた方のが楽だわな。
なにせ私の日常は、その遠くの話の中にあるんだから。
『ニュースをお伝えします』
『本日未明、東京都世田谷区内のオフィスビルで大量の死体が発見されました』
『被害者は暴力組織五十嵐組であると考えられ、警察は殺人事件として犯人を捜索しています』
『被害者数は39人、死因は刃物で斬られたことによる失血死と見られています』
『現場には、ビル内の人物と争った形跡や犯人のものと思われる足跡が見つかっておりますが、どのような方法で犯行に及んだのかは未だ不明です』
『来週からは夏休みシーズンを控える今日に行われたこの事件』
『社会にどのような影響を与えるのでしょうか』
『次のニュースです』
『先日発生した暴力組織惨殺事件、その犯人を名乗る女が警視庁に現れました』
『女はクイナと名乗り、隅田川で行われる花火大会までに自分を殺すことが出来なければ世界を滅ぼすと主張し、忽然とその場から姿を消しました』
『警察は女の顔写真を公開し、逮捕への協力を仰いでいます』
『えーここで臨時ニュースです』
『先程スクランブル交差点で暴力組織惨殺事件の犯人を名乗る女を発見』
『そして、女を確保しようとした警察官3人が殺害されました』
『警察庁は女を重要指名手配犯に指定し、その足取りを追っています』
『犯人を見つけたらすぐにその場を離れ、警察への通報を』
『ニュースをお伝えします』
『一週間前に発生した暴力組織惨殺事件の犯人であり、警察官連続殺人の犯人でもある特別手配被疑者クイナによって殺害された人物が150人を超えました』
『これに対し警察庁は自衛隊やアメリカ軍へ捜査協力を求めました』
『遂に日本はこの事態の異常さに真摯に向き合う時が来たようです』
『暑さが猛威を振るう中、明日は背筋を凍らすような恐怖をもたらした存在が宣言した破滅の日』
『今日我々は、何を祈ればよいのでしょうか』
「さぁ〜てと。始めよっか悔菜、”物語”を」
赫い津波は、すぐそこに。




