非日常は何を持って非とするものか
「ここは⋯⋯⋯」
爽やかな、という言葉は付けられない。それでも何かの気配で目が覚める。寝ぼけた目を擦り、体を起こそうとして見たもの。
「お、起きた」
それは、俺が気絶した原因の女の顔だった。
⋯⋯⋯危ねえもう一回気絶するとこだった。
俺の名前は五十嵐 廻。今年で7歳。好きな食べ物は卵かけご飯ことTKG。嫌いな食べ物は特にない。長所は打たれ強いこと。
なんでこんなこと考えてんだ⋯⋯俺。あーそうだ、俺を気絶させたあの女。クイナが、自己紹介会をするから言う事考えておいてって言ったからだ。
俺の1個下の弟、来人はすでに部屋で待ってるらしい⋯⋯⋯なんにもされてないといいけど。
俺の寝ていたベッドの横には、ご丁寧に少し大きめのパーカーと短パンが置いてあった。触ってみれば、結構良い手触りだ。俺達が前に着ていたのと比べれば⋯⋯比べるのも失礼だな。
白いパーカーに茶色の短パン。それぞれを着て、緑のスリッパを履いて病室みたいな部屋の外に出る。ここは病院なのだろうか。
来るように言われた部屋は2個隣の部屋だっけか?
静かな廊下に、スリッパが地面と衝突する音だけが響く。なんか⋯⋯緊張するな。
来人も部屋で待っているらしい。傷ついてたらあの女をぶっ殺してやる。
そんな事を考えてたら扉の前に着いてしまった。横スライドさせるタイプの木造のドア。
その取っ手に手をかけ、思い切りドアを開ける。何だか開けてはいけないような、そんな気がするのだがそれを無視してでも俺はドアを開けた。そして、轟音が鳴り響いた。
「待ってましたぁ!!」
クラッカーと呼ばれる、なにかめでたいことがあったときに使われる道具が、俺の目の前で使われていた。まずはそれに驚いた。
理解が出来なかった。俺が、俺達が来ただけで”それ”を鳴らすのかと。なにせこちとらそれを見たことはあっても、使われたことはなかったのだ。それに少し感動して涙が出そうになった。出なかったけど。
そしてその涙を引っ込めた原因が、部屋の隅にある。クイナがドアの前で満面の笑みを浮かべていて、その反対側にいる来人もオドオドしながらニヤけている。何だか微笑ましい光景なんだ。
何だけど⋯⋯⋯⋯⋯。
「ア゙ァ゙ー⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ほんま悪かったって言うとるやろ⋯⋯」
「そもそもこんなふざけろなんて私一言も言ってないんだけど」
紐でグルグルに巻かれた褐色マッチョの大男と、細身で背も高い褐色イケメン、そして昨日洞窟内でギイナと呼ばれていた女が”吊し上げられていた”。しかも逆さ吊りで。
もうここがどんな場所なのか、俺には想像できない。
「いやー遂にここまで来たねぇ!廻くんと来人くんに会えて私は嬉しいよ!」
「え〜っと⋯⋯」
「今日は二人の歓迎会?歓迎パーティーだからね!遠慮なく何でも言ってね!」
「あの奥の奴らは何を⋯⋯」
「何か食べたいものはある?林檎料理なら任せて!」
「いやだから奥の奴らは⋯⋯」
「私昔から材料に林檎がないと料理できないんだよねぇ⋯なんでだろ!」
こいつ人の話聞かねえなッ!?お前の料理の話には興味ねえよ!
「に、兄さん」
「どうした来人」
「あの三人に、クイナさんは触れたがらないんだ。だから⋯⋯」
来人はどうやら、少し諦めかけているようだ。全く、駄目だな来人は。
「来人。前にも教えただろ」
吊るされた3人に近づき、紐の結び目を探す。見た目はしっかりしてるみたいだが、この結び方なら簡単にほどけるな⋯⋯これでよし。
人の縛り方と、解き方なら熟知してるからな。こんな拘束じゃ止められねえよ。
こいつらが、何をしたのかは知らねえが。
「人の自由は縛っちゃいけねえんだ」
「「「廻くん⋯⋯⋯」」」
「兄さん⋯⋯」
「俺達がやられてきたからわかるだろ?何もしてないのに縛るなんざやっちゃ―――」
「その男二人は無断で家に入って、私の家の食い物全て食い散らかした挙げ句飲んだくれてたゴミクズどもで、その女はそいつらを焚き付けた奴」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
縄をピンっと手で持って、俺は一言。
「⋯⋯⋯⋯⋯な?」
それしか言えなかった。んだよここ情報量多すぎじゃねえの!?
「⋯⋯まっ、いいさいいさ。二人の歓迎会なのに縛られてるやつがいちゃたまんないしね。残念ながらパーティー用の食べ物は”なぜか”無くなってたし。ボードゲームでもしながらやろうか」
なぜかの部分が強調されていた気がする⋯⋯⋯。
「二人はババ抜きのルールわかる?」
「僕はわかります」
「俺は⋯曖昧だな」
「じゃあやりながら覚えよっか」
大きな円形のテーブルにそれぞれが向かいながらクイナがカードを滑らせていく。カードに傷はなくて、新品同然に見えるが雰囲気で使い込まれてるのがよく分かる。
物を大事にすることはいいことだな。
そんなことを思いながら、説明されたとおりに揃ったカードを前に出す。ババ抜きはカードを揃えて手札を減らしていき、最後にババが残った奴が負けってルールらしい。
よかった。ババを持ってなくて。
「じゃあ、これから自己紹介兼ババ抜きをはじめまーす!拍手っ!」
まばらながらも手を叩く音が聞こえる。見れば来人とギイナしか手を叩いていないらしい。
「手番が回ってきた人から自己紹介しよっか。私の名前はクイナ!年齢は不明!好きな食べ物は林檎です、林檎料理だけは自信があります!」
「こいつに林檎料理以外は作らせるなよ。家がなくなるぞ」
「実際引っ越したことは数え切れんほどやからなぁ⋯⋯」
「全部お前がクイナに作らせたからだぞイティサ」
取り敢えず料理させちゃいけないってのはよくわかった。年齢不明ってのが気になるけどな。
クイナは隣からカードを引き、揃わなかったのか少しだけ不機嫌になる。そして引かれた当の本人は⋯⋯⋯。
「私の名前はギイナ・ミリスだ。年齢は⋯⋯私もわからないな。好きな食べ物は特にない。ただ、甘いものは近づけないでくれ。割と切実に」
「ギイナから半径4から5mに甘いものがあるとこいつはえづくぞ。気をつけろ」
「それ以外はほんまに全部食ってくれる。料理失敗したら取り敢えずこいつに食わせとけばええ。食レポむっちゃ上手やぞ」
「取り敢えずお前らには後で私が食ってきた不味い食べ物トップ3を食わせてやる」
「俺注意しただけだぞぉ!?」
甘い食べ物以外は大丈夫なギイナ、甘い食べ物(林檎料理)しか作れないクイナ。ここの相性は大丈夫なのか?
ギイナが隣からカードを引き⋯⋯お、どうやら揃ったらしい。
⋯⋯⋯⋯何故そこで煽る。
「ちっ⋯⋯。あ〜、僕の名前はディフォム・リ・イティサや。イティサでええ。年齢は⋯ギイナよりは下や。好きな食べ物は⋯⋯そやな、砂肝や」
「酒飲みめ」
「僕は別に酒は好きやない。ついてくるツマミが好きなんや」
クソジジイんとこでイティサさんみたいなのは見たことあるな。褐色銀髪で黒丸サングラス付けてる今のイティサさんには迫力で劣るけど。
カードは⋯揃ったらしい。クイナ以外揃ってるな。⋯⋯⋯いや、まだ二人目だからだろう。というか何故煽るんだ。
「お前らなんで煽るんだよ、もちっと平和にやれよ⋯。俺の名前はバラン・リーナだ。年齢はイティサと一緒だが具体的な数字はわからねえ。好きな食べ物っていうか飲み物は強めの酒だ」
「こっちが本物の酒飲みだな」
「実際私が挑戦してみた林檎で作ったお酒勝手に飲んだしね」
「悪かったっていってるだろぉ!?」
野蛮そうな見た目とは裏腹に普通の人かと思ったら違った。どうやら酒の事となると自制が効かなくなるらしい。酒ってやっぱヤバい奴なんだな。
あ、揃ってる。⋯⋯⋯⋯クイナ、やっぱお前運悪いんじゃねえの?
「え〜っと、五十嵐来人⋯です。年齢は6歳で、好きな食べ物は⋯⋯兄さんの手料理です」
「「「「おぉ〜⋯」」」」
おぉ〜じゃねえよ。なんでそこ揃うんだよ。
「というか俺ほぼ作ったことねえだろ。あったとしても蛇の素揚げと蛙のスープに⋯⋯⋯んだよその目は」
「いやぁ⋯⋯」
その掛ける言葉がないみたいな目やめろよ。俺達にとって肉は高級品だぞ?ほぼ虫だし。
「あの舌先にピリッとくる蛇は美味しかったなぁ⋯」
「そうだな、あれは後でまた捕まえに行こうぜ」
何だっけかあの蛇は、ヤマ⋯ヤマカ⋯⋯わっかんねえや。
まあいいや、来人が俺のを引いたから俺が自己紹介するのか。
「俺の名前は五十嵐廻。年は7。好きな食べ物はTKG。よろしくお願いします」
じゃあ俺が引いて⋯⋯⋯げっ、ババだ。
最終結果、クイナ対俺でクイナが二択外して負けた。アイツは運の女神に見放されてるのだろうか⋯⋯⋯⋯俺達が言えたことじゃないな。
クイナの仲間:
ギイナ
イティサ
バラン
廻 new!
来人 new!
二人とも虐待されながらも生きてきた逞しいストリートチルドレンだよ!毒?効かないねぇ!ゴ◯じゃないけどっ!!⋯⋯⋯いや普通にゴ◯でも効くな?




