それは別れでもう来ない
「この空間に私達以外の生き物っているの?」
「ん?どうして?」
「いや⋯⋯鳥が鳴いてる気がしたからさ。」
「⋯っく、あははははっ!」
「なんで笑うの!?」
失礼なやつだ。でも相変わらず落ち着く。
理由はわかんないままでいいや。
「この空間のテーマは平和、。悔菜、君が考える平和の形がこの空間を変えるんだ。いやぁ良かったよ。あの真っ黒な空間から―――」
スーッと、有菜は大きく息を吸い込む。
「こんな長閑な空間になって!」
「⋯⋯⋯そうだね」
春のような温かな日差しと空気が、全身を包み込む。柔らかい風が吹くたびに、草花も全身を揺らして答える。
「もしここで他の命を感じたのならそれは悔菜が”平和に必要なもの”って、思ったからだろうね」
「そう⋯だね、うん」
私は変わった人だったのだろう。元からそこまで人付き合いが得意だったわけじゃない、それがこの世界に来てから加速して、氷の城のように積み上がっていたのだろう。
そして、目の前にいるこの少女がその城を溶かしてくれたのだろう。
「ん?」
「ありがとう」
「ふふん!どういたしまして!」
じゃあそんないい子ちゃんのために花冠でも造ってあげようかなぁ!
「どんな花がいいかなぁ⋯⋯。こうなんか素敵な意味を持つ花がいいよねぇ」
そんな事を考えていると目の前にポンッと白い花が20本程度出現する。なんて花なのかな?まあいっか!
よし!花冠なんてつくったこと無いけど見様見真似っていうかなんかノリでやってやる!
三十分後
「⋯⋯⋯っ!⋯⋯!?」
「⋯⋯⋯⋯⋯ねえ悔菜」
「で、できた。ついに出来た!」
「悔菜、言っちゃ悪いんだけどさ。花冠作り直したの何回目?」
「え〜っと⋯⋯20回以上だね」
「ついに完成したんだよね、”冠”が」
「うん。できたよ花”冠”」
「悔菜、自分の持っているものをよーく見て」
ん?
「それ虚無僧笠だよね?」
ほんげ?いやいやそんなこと⋯⋯。
バケツのような形になった花と茎、申し訳程度に隙間がある目元。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。スーーーッ。
「私ってこんなに不器用だっけ⋯⋯⋯?」
「虚無僧笠を作れるなら逆に器用なんじゃない?」
「そっかな、そうかも」
「ポジティバーになろう!」
「ポジティバーとは一体⋯?」
後で聞いてみたけど英単語のPositiveを”positiver”にしたらしい。意味があってるのか、そもそも存在するのかどうかすらわからないそうだ。
実在するのかな?
「林檎食べる?なんかつくるよ」
「なんかって、例えば?」
「え〜っと林檎のタルト、アップルパイ、焼き林檎とかあるよ。多分だけど、林檎料理の中でもデザートの作り方は網羅していると思う」
「さっすが、じゃあアップルパイで」
「よっしゃきた!ちょっと待ってな」
アップルパイはすぐに作れる。
なにせ生地はすでに作ってあるのでな!いやーこの世界は魔法があるから保存が楽でね、発酵とかそういうのももうすんごい楽ちん。火魔法もあるから温度の調節ミスることもないし、オーブンも魔法とかでやれるからね。
と い う わ け で !
「悔菜お手製!本気のapple pieの完成だぁ!」
「おぉ〜すっごいネイティブ!」
あのおしゃれな格子状のパイ生地はちょうどいい感じのカリッカリでサックサクで、中の林檎は甘すぎずとろとろ過ぎない丁度いい感じに仕上がっております。
でも!
「まだ完璧じゃない」
「ぬ?」
疑問符を頭に浮かべている有菜を放っておいて、パチンッと指を鳴らす。すると景色が一瞬で変わり、花が咲く野原から、綺麗な白銀の峰々が連なる高原へと移動する。
フリルの付いたおしゃれな透明感あふれるワンピース、頭には麦わら帽子。平民のキャンプからどこぞのご令嬢の秘密のピクニックに早変わり!
「お、おう⋯⋯」
「食べよう!ねっ!」
アップルパイを小さく切り分け、一欠片を口にする。うん、思ったよりも美味しくできたな!
「お、美味しい。なにこれ!?すごく美味しい!」
「そうだろうそうだろう!」
ご満足いただけだようで何より!美味しそうに頬張ってるの見てるとさっきまでの血みどろの戦いが嘘みたいだねぇ!
しかし、凄まじい勢いで食べ進めていた有菜が急にその手を止め目を見開き、顔が青ざめていく。
「どうしたの?」
「こんなに食べちゃったけど、カロリー大丈夫かなって⋯⋯」
「女の子の悩みだねぇ。でも大丈夫!このアップルパイはなんとライスペーパーみたいなやつで作ってるから、けっこうボリュームの割にヘルシーだよ!」
「神様ぁ!」
さあどんどんお食べぇ、残りはまだまだあるからねぇ!
「お腹いっぱい⋯⋯。ご馳走様」
「お粗末様でした」
一切変わらないウエストを撫でながら、有菜は二コーッてしている。かわいい。でも次の瞬間、有菜の顔は寂しそうな表情に変わった。
「いいものが食べられたし、いい景色も見れた。お陰様で、覚悟が決まったよ」
「有菜?」
スッと有菜は立ち上がる。この空間は私の空間だ、それなのに勝手に夕暮れ時のように空が暮れなずんでいく。それがどうしようもなく、不思議な感情を掻き立てる。
「私達はここでお別れだ悔菜。もう二度と会うことは⋯⋯っ!?」
言わせない。言わせないよ、絶対。
「何をしようとしてるのかわからないけど、ここで別れることになったとしても!」
ムギュッと、有菜の頬を両手で抑える。
「その真っ赤な瞳を追って何回でも、会いに来るから!何回だって会いに来るから!」
ああやめてよ有菜、そんな⋯⋯そんな感極まったみたいな顔しないでよ。
「ありがとう。悔菜」
「どういたしま⋯⋯してっ!?」
体が、重力に従って突然出来た縦穴へと落ちてゆく。
あの偽物がいた世界に行くみたいな感じがする。
させない!【オッソ】で足元を確保する!でも、下方向にかかる力が強すぎてほんの少しずつしか上れない!
戻れ、まだ何も言ってない!
そうして縦穴の出口を見ると、覗き込むようにこちらを有菜が見ていた。
「ありがとうね悔菜!でも、私に会いに来るなら私の本気くらい押し返してよね!」
落ちる力が更に強くなる、もう上ることすらできず段々と高度が下がっていく。足場の上に膝をつく、ついてしまう!立っていられない!
「有菜ぁ!」
「じゃあね悔菜、どうか私を」
助けに来てね。
縦穴の地面に辿り着き、視界が周りから黒く染まり切る間際に。
泣き笑いの表情の有菜の顔と、頬に落ちた涙は忘れることはないだろう。
「ここは⋯⋯?」
純白の部屋、周りには実験器具というかコンピューターのようなものが置いてあり、
白衣を着た人物達が立っていた。
そのうちの一人、髪をボサボサにした茶色の長髪の女性が話しかけてくる。
「こんにちは!私は夏冬 未来!貴方のお名前は?」
「えっと⋯薙峰 悔菜です。」
私が名乗ると、大きな隈がやどった深緑色の目がとても輝いていた。
花冠を悔菜は作れない。
だけど悔菜はアップルパイを人に与える。
この意味は、それぞれ調べてみたらわかると思います。
ちなみに白い花は浜菊です。
さて、これで第一章が終わりです。
第二章もお楽しみいただけると幸いです。
あ、その前に幕間をどうぞ。




