不死身な私の殺し方 Ⅲ
名も知れぬ賢者︰『魔力とは、人知を超える力。神より賜りしそれは、全てをもう一つ上のステージに連れていくだろう』
別に何かを成したいわけじゃない。
ただ、助けになりたいだけ。
「条件は同じLV、同じ武器、でも私はギフト無し。それでOK?」
「私はいいけど、有菜はそれでいいの?大分私に有利じゃない?」
「ふっ⋯⋯」
有菜は鼻で笑い、そして足を強く地面に叩きつけた。
瞬間溢れ出す身の毛がよだつオーラ。
魔力の放出とでも言うべきか、凄まじい何かを全身から立ち上らせている。
「能力もまともに扱えないいまの悔菜じゃ、私に勝てないよ。」
鋭い眼光が一点に私を貫く、ありのままの私を見透かされているような、煽るような強い思念。
即ち、
「上等!」
期待。
軽くジャンプして、体の感覚を確かめる。さっきまでの倦怠感はどこにいったのやら、体がいつもよりも軽い⋯そんな気がする。
武器の方も大丈夫そう。
この戦いで大事になってくるのはギフトと、
〘緋碧ノ眼光〙
鈍色の緋碧に染まりし盾
隔てる盾は死する者の未来を映し出す
能力:
【緋イ者共】
・〘緋碧ノ眼光〙で遠距離攻撃を防ぐとその攻撃を”緋喰”として支配を乗っ取る
【碧イ者ヘト】
・緋喰を自身に突き刺すことで”碧喰”へと変化させる
・碧喰は【龍血】を宿す
【肉ガ足リヌ】
・〘嬉鬼血華〙と同時に装備することで所持者の種族を”灰炭”に変化させる
・種族灰炭が装備した場合相手の遠距離攻撃を自由に緋喰、碧喰、そして”黎喰”へと変化させる
この”盾”だ。私のバトルスタイルは、よくも悪くも近接特化。
【コーチェス】や【セクション】で斬撃も飛ばせるけど、あれは使うまでに少し溜めがいる。1秒にも満たないほんの僅かなためだけど、私でもそれはわかるし、有菜にわからないわけがない。
そこで使えるのがこの〘緋碧ノ眼光〙だ。
遠距離攻撃を自分の支配下に置く。私じゃ思いつけない攻撃方法なんか、いっぱいあるでしょ!有菜!
そうだよ。あるよ。
それをどう攻略するのか、私は楽しみなんだよ。
「始めるよ!悔菜!」
「うん!」
君に⋯⋯いや、まだいいや。
有菜が、手に赤い刀身の剣を出現させる。その剣は私もまだ良く知らないけど、より明るく輝く現象はよく知ってるよ!
「【赫イ者共】!」
剣の切っ先から放たれる真っ赤な奔流。赤い河川と言われても納得できるその濁流を、大袈裟なくらい横に回避する。
「赫喰⋯⋯!」
勢いをなくした流れのあとから獣は這い上がる。それは地獄からやってくる死者の怨念のようで、目も耳も鼻もない、大きく裂けた口だけを持つ犬のような形をした、溶けた体表を持つ赫い獣。
あれに噛まれちゃいけない。というか直に触れてはいけない。アイツらが撒き散らす体液と言うか粘液に触れたら麻痺、毒、めまい、筋弛緩などさまざまな状態異常で1分間は動けない。あと普通に肉が溶ける。
対抗する方法はほぼない。残念ながら、私は持っていなかった。
だからこそ、ひじょーに癪だが使わせてもらう。
「【殺尽讐たり】」
偽物のスキルをなぁ!
半径1mの全てを斬り裂くこのスキル。だが、赫喰共は御生憎様ほぼ液体だ。1mじゃ体液が届く。だからこそ、無理やり広げる。
スキルには、魔力を注ぐことができる。
本来スキルの殆どは魔力を使うことがないけど、一応魔力を使うスキルもある。シュウサ君の【護ルベキ者】なんかがそれだ。魔力を使うスキルは総じて魔力を使わないスキルよりも強力だ。
そこで誰かが考えた。
「魔力使わないスキルに魔力注いだらどうなるんだろ」ってね。
結果、な〜んにも起きない。
そいつは馬鹿にされて悔しかっただろうよ。私はそいつに会った事がある、死ぬ直前に、一度だけ。そいつは言った。なにも起きないのではない。ただ魔力が”足りない”だけなのだと。
「【魔力過多:――――」
一斉に赫喰が私に喰らいつこうとしてくる。
何の感情もなく、ただ衝動のままに。
だけど!
「殺尽讐たり】!」
その程度で、私を食えると思うなよ!
破壊の領域がその範囲を広げていく。
2m、3m、4m⋯⋯10mの時点で停止する。
「どう崩すんだい?有菜」
「そうだねぇ。魔力切れをまってもいいんだけど、それじゃつまらないしねぇ」
赫喰はもういない。あれで全部じゃないだろうけど、今のでもう意味がないのがわかったはずだ。
「でも小細工もしたくないからなぁ」
そういうと、なにか妙な風が吹く。
手を前に出し、その風をより感じようとした瞬間。
私の手は消え去った。
「こういうのはどうかな悔菜」
有菜が手に持っているのは魔を統べし片刃の剣。
特段能力も持たず、ただ壊れにくいと言うだけのその剣を持ちながら有菜は挑発する。
「魔力過多状態でやり合うのは」
魔力過多状態でやり合う?魔力を失えば気を失う。常に大量の魔力を消費しながら戦う?注ぐ魔力量を誤ったほうが溶けるぞそれ。
そんな馬鹿な提案、断る。
でも私は赫喰みたいに衝動のままに行動しちゃうんだ。
「面白そうだね」
「でしょ」
〘シュヴェルト・ワルツ〙を装備する。
有菜に魔力操作のミスを求めるのはやめておいたほうがいいだろう。見ればわかる、淀みのないスムーズな魔力供給だ。私のただ流してるだけの魔力とは違い、パイプを造ってそこに常に適量の魔力を流し込んでいる。
普通に斬り合い続けてたら絶対に私が先に落ちる。
勝つためには魔力の供給を断つしかない!魔力の供給を断つために狙うべき箇所は一つだけ、魔力を練り上げ全身へ循環させる臓器!
心臓!
「私が心臓を貫くか!私の魔力が尽きるか!チキンレースと洒落込もうぜ!有菜!」
初撃の突きは躱わされた!
カウンターの上段は振り下ろされる前に柄の部分を蹴ってずらす!
「体やらかいねえ!」
「まだ高校生なんだよ!」
肉体年齢はな!
首を狙った斬撃を後ろにステップすることで回避。
腕を狙った切り上げを、有菜は横に回避した。
一瞬訪れる静寂。
【殺尽讐たり】のせいで酸素が薄い。私も向こうもだいぶ息が上がってるな。
攻めるなら、今!
どうやら向こうもそう思ったようで、互いの刃がぶつかり火花を散らす。何回も、何回も!
こんなときにゴルト君の教えが役立つよなぁ!真上から迫る刃に、こちらは切り上げで対抗する。重力がこの世に存在する限り、圧倒的に上から迫る刃が有利だ。だけど、このスキルがあれば!
「ジャスト!」
「しまっ!?」
青い閃光が散り、弾かれた有菜の体が大きくのけぞる。
その隙を、私が見逃すはずないよねぇ!
「【牡羊】!」
チクショー!!
「なに、粘ってんだよぉぉ!」
「そりゃ粘るよなあぁぁ!」
なるほどなぁ!確かに私でもできるんだもんな!
物質の魔力化と、魔力の物質化!
心臓の前に召喚された〘緋碧ノ眼光〙が〘シュヴェルト・ワルツ〙を防ぎ、青い火花を散らす。
まずい、まずいまずい!
ここで決めきれないと流石に魔力が尽きる!
あーもう知るか!
くらえ思いつき!
「がはっ!?」
〘シュヴェルト・ワルツ〙が深く有菜の心臓に突き刺さる。
「なるほど。そりゃあ」
心臓からの魔力供給を断たれた有菜の【殺尽讐たり】の範囲が急速に縮小していく。取り敢えずこのラウンドはもらうよ!
残った魔力の全てをほぼ使い切るくらいの勢いで【殺尽讐たり】にぶち込む!
ギャリギャリと嫌な音を立てながら有菜の領域を蝕んでいく。
おっと有菜、最後の悪あがきで〘シュヴェルト・ワルツ〙を振ろうとしているね?させないよ。
「なぁっ!?」
有菜が振り下ろした手が握っていたのは、片刃の剣ではなく虚空。有菜の顔が驚愕に染まるのと同時に、有菜の【殺尽讐たり】が破られそのまま液化していく。
「早く起きなよ、有菜」
今一つだけ言えること。
私が有利だ。絶対的に。
悔菜さんがしたこと。
1.有菜の上段斬りをパリィ。
2.心臓を貫こうとするも盾に防がれる。
3.盾を魔力化。
4.悪あがきの剣を魔力化。
5.【殺尽讐たり】で削ってラウンド先取。
物体はそれぞれが魔力を保有する。そのため石には石の、土には土の魔力が存在する。そしてそれらを抜き去ると■■■■■へと変化する。だが、その■■■■■すらも魔力へと変換することが可能である。物体から魔力を取り除くのではなく、物体そのものを魔力へと変換するのだ。■■■■■を造りだすよりも魔力への完全変換を行う方が圧倒的な難易度をほこる。
そして、これを応用した魔力の物質化こそが一般的に魔法と呼ばれるものである。
正式名称■■■■■■■■■■■■■、略して魔法である。
魔法は非物質の魔力を物質化させる唯一の方法であり、魔力を物に纏わされるなどの纏魔も魔法という分類となる。だが、纏魔は魔力を物質化させたわけではなく、あくまで魔力が漂う空間を制限しているだけであるため物質化させているわけではない。
魔力は魔力を持つものでしか触れられず、魔法は魔力にのみ影響を与えることが可能である。火魔法と分類されるものも魔力のみを燃やすことしか不可能である。




