我が身織り成す愛しの君へ Ⅱ
俺ぁあの時の選択を後悔したことはねえ。
あんなバケモノから逃げることのどこが恥だと言うんだ。
みんな殺された。でも俺は生き残った。
それだけでいい。
でも少し、今後悔してるかもしれねえ。
「ちっ!」
見えない斬撃。風を裂く音が聞こえたから良かったが、何だあれ。
【コーチェス】⋯⋯どっかで聞いたことがあるような気がするが、思い出せないならそれまでだ。
「【追い求めし栄光】【堕ちた勇気】【蛮勇の道】」
身体能力を上げるスキルを発動させる。
効果は大体20分程度、その間にアイツを殺す。
弱そうな見た目をしているが油断はしちゃいけねえ。
あいつにはなにか⋯⋯⋯魔王を彷彿とさせるなにかがある。
思い出したらムカついてきたな。
【恨痕】[■■■ーー〛ーー]
撃てる回数は三回。全ブッパで獲りにいってもいいが、そんなんじゃ死なない予感がする。
「【怨恨】!」
青い刀身が黒い靄に覆われていく。それを振り払うように剣を振るうと、黒い斬撃が飛んでいく。【怨恨】の威力は龍の尾すらも切断する威力だ。無視はできないだろ。
「グッ!?」
案の定、女は【怨恨】を手に持つ刀のようなもので弾こうとするが押し込まれている。
アレを防ぐのか、あの女やっぱ只者じゃねえな。
だがよ、そんな斬撃ごときでこっちから意識を外すのは油断し過ぎじゃねえか?
「首、もらうぜ」
後ろに回り込み、首に刃をぶつけて最初に思ったことは、硬すぎるということだ。
別に力を抜いたわけじゃねえ。できうる限りの最大の力で振り抜いた。それなのに食い込んだのは大体3cm、出血も少ない。
しかも⋯⋯⋯―――
「ははは。首を切ったら火花を出す奴がいるとはな」
「初めて会ったのかい?そりゃ光栄だね」
【怨恨】の維持はまだ出来ている。
女は未だ【怨恨】と鍔迫り合いをしている。こいつは首の硬さだけで踏ん張っている状態だ。
それに、よく見たらその火花の理由は単純明快だ。
色やら何やらで誤魔化しているが、切った側の首だけが厚い。
なにか鎧のようなものをつけているのか?
だとしたら残念だが⋯⋯。
「【怨恨】」
ノーモーションでもこの技は撃てるんだ。
「うはははっ!久しぶりに見たぜ、人の首が飛ぶ様はよぉ!」
力が抜けて、だらりと腕が落ちる。
そのまま首を失った胴体が膝から崩れ落ちていく。
「鎧をつければ俺の攻撃を防げると思ったか?【怨恨】はすぐに消えると思ったか?残念だったなぁ、留めるだけなら40秒は維持できるんだよ!」
まだ剣を握り締めている拳を蹴る。剣は赤く染まった花園を滑っていく。
「てめぇの敗因は俺についてもっとよく調べなかったことだ!俺の実力を見誤って勝てるとイキった結果がこのザマだ。来世はもっと賢く生きな。うははははっ!はははははっ!!」
ああ、地味に楽しかったな。もう少し生きてくれればもっと遊べたのによぉ。残念だ。背を向け、歩き出した直後。俺の細胞のすべてが歓喜した。
「敗因?そう、敗因ねぇ⋯⋯」
ああ、いいぞ。すごくいい。ここまでワクワクするやつは初めてだ。
「首を切って死なねえやつに会うのも初めてだ!」
いつの間にか手元に手繰り寄せられていた剣を杖のようにして、体を支えて女は立ち上がろうとする。首の傷が塞がっていく。
「そのまま立たせると思うかぁ?」
腹に蹴りを入れれば、首の傷からは血が拭き出す。さらに前蹴りでも入れておけばかなり吹っ飛ぶだろ。
思った通り、六歩ほど間合いが空いた。
そのまま遠くに転がっていくのかと思いきや、血を流したままになかなかの速度で突いてきた。
だが、首がない状態で突き出された刃は、俺の頬を軽く裂いた程度。そして女の剣は手からスッポ抜け、遠くに飛んでいく。
「どれくらい斬られたらお前は死ぬんだ?興味が湧くなぁ!」
剣がスッポ抜けた状態のままの右手を輪切りにする。
だが、右手もなくした状態で左からのストレートが飛んでくる。
「そんなのに当たるかよ!」
こいつは左手も失いたいのか?お望み通り斬り飛ばしてやるよ。
左腕を斬り、後ろにのけぞった状態の女を足で地面に叩きつける。
「再生しないのか?それとも死んだのか?」
一瞬の沈黙のあと、腕も頭もない状態で女はカポエイラを仕掛けてきた。
「いいなぁお前!最高だ!!」
足だけで巧みに攻撃を仕掛けてきている。
ジャンプして回転を織り交ぜた蹴り、それを剣で受け止める。
なかなかに重い。ただの鉄ならヒビが入るんじゃないか?
「悪さするのはその足かぁ!?」
振るう剣を避けようとでもしたのか、女は空中へと避難する。だがなぁ!その程度で躱せると思ってんなら大間違いだ!振り抜いた勢いのまま回転し、剣を横薙ぎではなく下から切り上げる!
その斬撃を躱せずに、女の左足は空を舞う。
空中でバランスを崩したらまともな着地はできやしねえ。
足一本で降りようとしたのか、それとも考えなしだったのか。
右足はぐちゃぐちゃに折れ曲がる。
「どうした?もう終わりなのか?」
もうピクリとも動かない。
んだよ、もっと楽しめると思ったのに。
その時、俺の首元にひやりと冷たいものを感じた。
「【殺尽讐たり】!」
半径1m前後の球状の範囲内を無尽蔵に切り裂き続けるある種の結界。その範囲内にいた何かが、後ろで斬り刻まれる。
「なんだぁ⋯⋯⋯」
後ろに何がいた?女の仲間か?
その答えは、眼の前で起きている現象によって理解させられた。
液化して血液となったなにかは、血の竜巻のように捻れながら再生していく。悍ましいなんてもんじゃない。バケモノだって裸足で逃げ出す!
「敗因が、なんだって?」
女はいまだ、俺の前に立っていた。
コイツは不死身なのか?血液の状態からでも復活できるようなやつを言葉にするなら、俺は不死身以外の言葉を知らない。これは俺の言語能力が低いのか?そんな事考えてる暇はねえ!
「【コーチェス】」
見えない斬撃の連続攻撃!野郎!一番最初のやつから学んでやがる。
足を狙った斬撃をジャンプで避けて、首を狙った斬撃を頭を下げることで対応し、なんとか着地をした瞬間胴を狙う斬撃を受け止める!
「うおおおぉぉ!!」
畜生なんだこれ!重すぎる!【怨恨】と同等かそれ以上に!この技は強い!
「【怨恨】!」
なんとか【コーチェス】とかいう技を捌き切り、一度距離を取る。
【恨痕】[■■■■ー〛ーー]
撃てる回数は4回。ここまできたなら溜めきるか。
恨みを抱くだって?わかったよ、抱いてやろう。
「おい女。ここからはギア上げてくぞ。」
【怨痕】[■■■■■〛■■]
[ゲージが最大値に達しました]
ゲージが5段階目を超えたときに発動できるスキル。
発動条件はなかなかに面倒くさいが、このスキルは発動させるだけの価値がある。
「【解放】」
〘未喰〙から漏れ出した黒い雷が、腕を伝い全身をほとばしる。
雷に侵された部分は罅割れていき、そこから黒い靄が吹き出している。
地味に痛いんだよなぁこれ。
だが⋯⋯。
「この全能感はたまらねぇよなぁ!構えろ!俺がお前に、最初で最後の死をくれてやる!」
彼がキレるのが早いんじゃなくて、彼は些細なことで不満が溜まっていくので、積み上がるのが早いだけです。
それでも堪え性のないことは変わらないんですけど。




