我が身織り成す愛しの君へ Ⅰ
「あ〜ここで明確に分岐するのかぁ」
あのクズの頸動脈を切り裂いてはや二年、ついにシュウサ君はギイナと相対した。
その結果は惨敗。聞いていた話から考えてはいたけどフルボッコだね。
この戦い、重要だったのはゴルト君の【ジャストガード】だ。
それがない今のシュウサ君達はギイナの攻撃をろくに防げず瞬殺。
最終的にまたシュウサ君が最後に生き残った。本来ならここで反撃するんだけど。
「これは許せないなぁ」
彼が選んだ選択肢は”逃亡”、彼は逃げた。ギイナからそして勇者の責任から。
私はシュウサ君が好きだ。ある意味Loveに近しい感情を抱いている。
その感情、それは憧れ。私はシュウサ君に焦がれていた。
シュウサ君は輝いていた。
お伽噺のような勇者様。優しくて強い勇者様。
だから私は彼に剣を与えたのだ、彼に輝いてほしかったから。
決してその剣はあのような使い方をするために造ったものではない。
逃げるために、仲間の死体を切り裂いて使うものじゃない。
あれは、困った人のために道を切り拓くときに使うものだ!
「殺気がダダ漏れだぞ」
「っ!」
魔王城の屋根で【探知】を駆使して見てたんだけどな。
「さすが魔王様、強いだけじゃないんですね」
「当たり前だ。これでも私は王だ、この世界を守らなくてはならない」
スラリと剣がこちらに向けられる。
「この世界に何をしにきた、薙峰悔菜!」
「ありゃ、そこまでバレてるとは」
じゃあもう仮面はいらないな。そうだなぁ、素顔も名前もバレちゃったし
もう躊躇う必要はないかな。
「ねえ、魔王様」
一音一音はっきりと発音する。出来る限り言葉だけでこの気持ちを伝えろ。
「貴方の望む世界に⋯⋯」
この溢れんばかりの感情。
「彼は必要?」
すべてを燃やし尽くすこの怒りの炎は、世界を統べる魔王すらも後退りさせた。
彼の人生を一言で表すのなら負け犬といったところだろうか。
責任から惨めったらしく逃げて逃げて、逃げた先で出くわす壁からも逃げてきた。
ギイナに殺されたということにして勇者の道から外れ、冒険者として過ごしている最中
突っかかってきたやつを殺して人の道を外れた。
逃げて外れて堕ちて負けて、私の好きなシュウサ君とは比べるまでもない。
それでも彼はシュウサ・グレイスを名乗っている。
思い出を汚されているような気分だ。
今や金のために人を殺しているようなやつが、かつての栄光にすがっている。
なにが堕ちた勇者だ、なにが元英雄だ!
あの偽物は殺す。
一切の慈悲を無くして、あの偽物は殺さなくちゃいけない。
奴についてを分析しよう。
攻撃面、防御面、そして精神面だ。
全体的にあの偽物はシュウサ君の完全な上位互換だ。だが元がシュウサ君である以上その能力は
シュウサ君に近いものになる。
攻撃面。奴が所持している武器〘未喰〙は順当な〘煌憧刃羅〙の強化版と考えたほうがいい。
属性が闇属性単体になっているが、その分能力の発動が容易になっている。
奴との戦闘が長引くほど奴は負の感情を抱きやすくなり、ゲージが溜まるのが早くなる。
短期決戦で仕留めるのがいいだろうが、それはできない。
次に防御面。奴が【正界】系統のスキルを所持していないとも限らない。
多分持っていないだろうけど、より強いスキルを持っている可能性も考えよう。
最後に精神面。あれは典型的なクズ野郎だ、自分が負けることが許せないタイプ。
なんとしてでも自分のプライドを傷つけたやつは殺しに来るような人間だ。
そしてこれが短期決戦で仕留められない理由になる。
「勇者の呪い⋯ね」
勇者は、敵と認識した存在が生きている限り死なない。そんな呪いだ。
そして奴は負けることが許せない。不屈のひねくれた心が奴を勇者に仕立て上げる。
シュウサ君にはできなかったことだ。
あいつの手はとうに赤く染まっていて、勇者足り得ないはずなのに勇者として
完全にシュウサ君を上回っている。
腹立たしい、実に腹立たしい。
私も、変わってしまった。
生物学上で奴は元仲間だ。その仲間を殺すなんて、昔の私は今の私をひどく罵倒しただろう。
でも申し訳ない。私は変わってしまったのだ。今の私は嬉々としてその仲間を殺す算段を立てている。
私はもう体も心も人ではない。
大きくて広い、白い花が咲く野原。
私はそこで彼を待つ。
彼は私の頬を撫でる柔らかな風とともにやってきた。
武器は、はて。どこにしまっているのやら。まさか丸腰というわけじゃないだろうし。
「何だお前。人⋯⋯じゃ、ねえよな」
「へえ、勘はいいみたいだね」
偽物の人生を見ている限り、私達は同じ転生者であり仲間だが、誰なのかは気にしていない。
顔が真っ黒なマネキンとコイツは旅をしていたのだろう。
だからこそギイナから逃げるときに躊躇なく私の死体を斬り飛ばしたのだろう。
というか逆にそうじゃないと困る。非常に困る。
何が困るって?
怒りが制御できなくなっちゃうからだよ。
腰に佩いた〘シュヴェルト・ワルツ〙を抜く。
それを敵対行動とみなしたのか、偽物は腕を振る。
その手には青い刃を持った両刃の剣を握っていた。
どういうふうに、どこにしまってたのかな?ちょっと興味あります。
「それじゃあ始めようか」
「⋯⋯っへ。かかってこいよ」
言うねえ。
「君には恨みしかないからね。遠慮なくいかしてもらうよ。【コーチェス】」
空間を断つ3つの斬撃が、開戦を告げる狼煙となった。




