誰が世界を壊したか
⋯⋯ん〜〜なぁんか地味にだるいな。
こう⋯⋯⋯なんていうかな、気疲れとでも言うべきか。
記憶、記憶ねえ。
イティサの心臓を食べて、彼のものと思われる記憶を垣間見た。彼の前世がどのようなもので、今世でどう生きてきたか。ダイジェストであらすじを伝えられたような気分だわ。
得られたスキルは3つ。
自身が殺した生物の数だけ、命のストックを得る【此岸華】。
より精密な操作が可能となった【業羅鎧 改】。
そして、血液の操作が可能となる【血ハ黒ク】。
この世界に落とされてから2ヶ月。
イティサの記憶には綺麗に記されていた。
間違いを正せ。勇者を殺せ。ここを出るには”それだけ”だ。
それだけってのが気になるけど、要は変化したシュウサ君を殺さなきゃいけないらしい。変化したシュウサ君というのは、少女に時を止められたあの状態のシュウサ君だろう。
「⋯⋯何がトリガーであの状態になったんだろう」
この世界に落ちて”28年”と1ヶ月が過ぎた頃、仮面を付けた状態でシュウサ君に接触した時点では私の知っている彼とあまり変わらなかった。でも少しパーティの空気が悪かったかな? しかし、その程度だ。
「ん、ありがとう。」
私の手にピャザを乗っけたのは、なんと私。
イレギュラーの私がいることで、この世界には悔菜が二人いることになる。
だが待ってくれ。じゃあいま、私にピャザを持ってきた私は誰なのか。答えはそう、分身だ。
分身に関しては色々わかったことがある。まずもってこの分身は私だけど、私じゃないものだ。もっとわかりやすく言えば、私の思考回路によく似た行動をする人形だ。
見た目はかなりいじれるし、声だったりも変えられるんだけど、何故か性格は変えられないんだよね。だから、ガチムチのおっさんが少女のように恥じらうという謎の行動が見れる。地味に面白い。
そして、いちばん重要なのは自立して行動ができるということだ!いや〜お陰様で観察しながら熱々のピャザが食べられますわ。
え〜っと。私の記憶の中だとそろそろギルドマスターが魔王に襲われたらしいけど。どこらへんにいるのかな?
「【探知】」
んっとね。どこらへんに⋯⋯あ、いた!あれ?っていうかこいつら⋯いや、少し観察してみよう。
マジリハ村から少し離れた村、そこの家屋の屋根に登りそれを見る。
私は魔王の容姿を知らない。瞬殺されたしね。
ただ、伝え聞く限りだと長身黒髪の女性だったはずだ。
飢餓のない、平和な世界を目指した魔王。
旅の間ずっと疑問に思っていたこと。
「や、やめてくれ!!俺達は、もう何持ってねえんだ!」
「いやいやいやあるでしょう。ほら、これ」
「それは!?俺の倉庫の鍵、なんであんたが持ってんだ!」
「さっき、君を助けようとした女性が持ってたんだよ。まあ、もういないけど」
「な⋯⋯俺の妻に何をしたッ!!」
へ〜。少し離れた村で村人の資源やら何やらを強奪していたのか。私達勇者パーティには優しく、他の人達には横暴に振る舞っていたんだ。しかも、あのときギルドで死んだ全員がここにいる。どうしようもないクズですねぇ。
そして、それを見過ごせずに。
「あなたが来たんだ」
「お前⋯⋯⋯」
仮面を付け、同じ屋根に登ってきた何者かを見る。
yシャツに黒のスラックス、首にチョーカーをつけた長身の女性。
顔からは怒りを押さえつけようとしていることがすぐに分かる。
ここまで情報が一致してれば誰だってわかる。
「はじめましてかな?魔王ギイナさん」
魔王はゆっくりと立ち上がる。
あ〜、嫌な予感がする、しかも当たるタイプの嫌な予感が。
前か後ろか!私は後ろを選ぶね!
「うげっ!?」
前だったよ畜生!ん?何が起きてるって?
心臓貫かれたんだよ!二回目だよなんでだよ!
「だけど残念ながら⋯⋯」
刺さった腕を軸に、首に足を巻き付けそのまま!
「おりゃ!」
背負投みたいに地面に叩きつける!頭から落っことしてやったぜ。刺さった腕を引き抜き、距離を取る。
へへへ、さすがの魔王様も意識が落ちたんじゃないか?あ、やばい。クズどもが逃げた。逃さねーぞぉ?というか逃げられると思ってるの?
逃げている奴らに意識を向けたその瞬間、魔王の体から真っ黒な何かが溶け出す。そして、それは⋯⋯―――
「あれぇ、魔王様ってもしかして内なる魔物を飼ってたりします?」
「こっちが本体さバケモノめ」
「どの口が言ってんだよそれ⋯⋯」
魔王の肩に繋がっている、黒い何かは次第に膨れ上がっていた。
裂けた口からは不揃いの鋭利な歯が二段に重なり、人の頭を無理やり縦にのばしたような額に存在する白い瞳が、私をその場に縫い付ける。その体にも無数の目が存在し、所々に牙を覗かせる。
これは⋯⋯⋯楽しそうだな。
と、いうわけで、何をするかは決まってるよなぁ!
「逃げるんだよー!!ヒャッハー!」
「なにぃ!?」
ヤバそうな奴に出会ったときは古今東西四六時中、蛮族だって逃げるんだよ!ヒィヤァッホオォーイ!!
それに、あのクズどもは私が仕留めたいしね。
「じゃあねギイナ!またどっかで!」
「あ、待て!」
右の親指を噛み千切り、ギイナの方向に投げる。投げつけた指は次第に再生し、私を形どっていく。私もこれは狂ってると思うよ。まさか分身する方法がこんなやつとは思いもしなかった。
まぁ、またいつか会うでしょ。その時まで決着はお預けです。
「残り気にするべきのは君たちだけだね」
「だ、誰だお前!」
誰だお前?
「そうだなぁ。強いて言うなら―――」
【錬成】で武器を造りだす。求めるものはなにかって?決まってるでしょ。
「魔王だ」
[武器の錬成が終了しました]
[武器に銘をつけてください]
出来上がった剣はレイピアのように細く、灰色の刀身を持ち合わせた片刃の剣。
「お前の名前は〘シュヴェルト・ワルツ〙だ!」
[登録が完了しました]
創造されし魔王の剣は、悪へ吸い込まれるように牙を向ける。
〘シュヴェルト・ワルツ〙
魔を統べし片刃の剣
その身は悪とて、持つものは正義へ至らん
能力:
・対象が正しさを求めるほど頑強になる
・対象と斬り結ぶと耐久値を回復する
【悪は正義の名のもとに】
所持者の血を刀身に垂らすと、相手の四肢のどれかを斬り裂く
余談ですが、親指を噛みちぎる力はとんでもなく、人にはほぼ無理だとか⋯⋯⋯。




