俺を構成する物質
⋯⋯⋯暗い。ここ、どこだ?
確かバランとかいう魔族と戦って、【業羅鎧】を全開放したあたりまでは覚えてるんだけど。
「⋯⋯⋯」
う〜ん、この気まずい雰囲気をどのように壊せばいいのか。残念ながら俺には誰かを笑わせるギャグセンスは持ってないんだよな。ちょっと考えてみようかな。
褐色白髪イケメンとかけまして、子猫とときます。どちらも栄養でしょう。う〜ん、座布団−1で。
そう。この暗い空間にいるのは俺だけじゃない。
俺みたいな奴だけどちょっと違う。俺の顔を西洋風にして、肌を焦げた麦色に、左目に一本かかった特徴的な前髪や、綺麗に刈られた後ろ髪は白銀のような髪色。髪の毛と同色の長い睫毛と、瞳孔が猫のように縦長な黄色い瞳。普段はメガネかけて本読んでるインテリチックなヤクザ⋯⋯っていうか俺じゃねえな誰だコイツ。
「あ?」
「生言ってすいません!」
「うおっ!?なんやコイツ。気持ち悪いのぉ」
ワイルドイケメンなヤクザに睨まれる経験は初めてだ⋯。心臓に悪いなコレ。
「シュウサ君、大丈夫?」
「あ、ああ悔菜。ありがとう」
いや〜やっぱり悔菜は優しいなぁ!
ヤクザさんの眼力に負けて思わずジャパニーズ土下座をした俺に悔菜は優しく手を⋯⋯ん?なんかおかしいような。まあいいや。
取り敢えず今は立ち上がらなきゃ。
悔菜の優しさはありがたいけど、自分で立たないと格好がつかないよ⋯⋯な⋯⋯⋯⋯?
!?
「悔菜ぁっ!?」
「うわぁびっくりした!?」
え!?なんで悔菜がここにいるの!?
いやまずそもそもここがどこだか知らないんだけどさぁ!どうなってるんだ、これ。というか、本当にここはどこなんだろ。
「ここは精神世界のようなものです」
悔菜?急に口調が変わったな。
「ここって精神世界なの?」
「そうですよ〜」
精神世界って、現実の世界じゃなくて本当に心の中の世界なんだなぁ。精神的な変容や自己の探求をする場所って、どっかで見たことあるな。
「にしても、なんか悔菜の口調変じゃない?」
「「え?変じゃないよ?」」
⋯⋯。
「「「え?」」」
悔菜が2人ぃい!?
え〜っと、整理すると。悔菜はしっかりと一人のようで、もう一人の悔菜は悔菜のような見た目なだけで悔菜ではないらしい。ちょっと紛らわしいと思ったのは秘密だ。
それと、もう一人のインテリヤクザさんについてもわかった。
彼の名前はディフォム・リ・イティサという名前らしい。
古い魔族で、かなりの実力者らしい。
⋯まあ、なんとなくというか、見たからわかるんだけどさ。
ここに来る前、俺は別の暗い場所にいた。映画館で映画を見ているような不思議な気分。一人称視点の長いようで短い戦闘の映画。恐らく戦っているのは俺の体で、俺の意思じゃない。
そして敵は⋯⋯⋯―――
「ん?どうしたのシュウサ君」
「いや、なんでもないよ」
うん。気にしないようにしよう。
「そろそろ話を進めたいんやけど、ええか?」
「あ、はい!大丈夫です!」
「別に敬語やなくてええで」
「はい!わかりました!」
「話通じんなコイツ」
ただ単純に怖いんです!
もうね、オーラがやばい。すんごいやばい。
「さて、話を進めるに当たって司会を立てたいんやけど⋯⋯」
「あ、それは私がやりましょう!」
「⋯ま、ええか」
いいんだ。
司会は悔菜のそっくりさん⋯なんて呼べばいいんだ?
ん〜司会さんでいっか。司会さんが司会をやるようだ。
「それじゃあ、まあ楽にしてください」
そう言われるとなにもなかった場所が貴族の来賓室のような場所に変化していく。
「こんなんじゃ落ち着かんわ。もっと自然溢れる場所にせい」
来賓室から一度暗転を挟み目を開けた瞬間。ザバーッと頭の上から降り注ぐ大量の水。2秒ほど滝行をしたあと、また来賓室に戻る。
「自然は感じれました?」
「せやな。殺意といっしょによぉ感じたわ」
「それは何より」
俺と悔菜巻き込まれただけなんですけど!?
「気ぃ取り直して。話入ろか」
「といってもまあ結果は決まってるんだけどね」
はて、なんのことやら。
「シュウサさんには私から説明しましょう」
お願いします司会さん。
二人が話していることを、司会さんはわかりやすく伝えてくれた。
一、悔菜が神様になるためには進化をしなければいけないということ。
二、進化のためにはどこかの世界を滅ぼさなくちゃいけないこと。
三、悔菜は神として、イティサさんはこの世界の代表として話しているらしい。
なんでもイティサさんはそういう神様だなんだっていう話に詳しいらしいのだ。
ちなみに俺がここにいる理由はイティサさんの体が俺の体だからだそうだ。つまり俺がここにいる必要はない。おかしいな目から塩水が。
「せやから、お前には無理や。この世界で安心して暮らせ」
「それはだめだよ!私は神様にならなくちゃ!」
ここだけ聞くとヤバい奴だな。
「ほう。じゃあ聞くがなんで神なんかになりたいんや?」
「それは⋯あれ、なんでだっけ」
「わからん時点で却下や。しかもお前、あれについて知らんのやろ」
「あれ?⋯⋯⋯あぁ、”あれ”」
「せや。まだお前はこの世界でやり残してることがある。それが終わったら、僕はとやかく言わへん」
「⋯しょうがないなあ」
は、話についていけない。
「あの、あれってなんですか?」
どうやら悔菜は別の世界を滅ぼしに行きたいようだ。
流石に勇者パーティーのリーダーとしてそれを許すわけにもいかない。だから、恐らく悔菜を引き留めている理由になる”あれ”について知りたい。
しかも、その”あれ”がこの世界になにか害を及ぼす物のように聞こえる。あいつが守った世界だ。壊したくない。
「ん〜。せやな。君、【ミコト】についてはどれくらい知っとる?」
「【ミコト】ですか?え〜っと確か、魂を消費して強くなるみたいなのじゃなかったでしたっけ。俺の親友のあいつも、そのスキルを使って魔王を⋯⋯⋯あれ?」
あいつ?
「そうか。その程度の認識やったか。あかんな、トリガーを引いてしまった」
⋯⋯いや、今はいい。
「他にもなにか効果はあるんですか?」
「あるで。その最たる例が、使用者についての記憶が抹消されることやな」
記憶の、抹消?どういうことだ?それが本当なら俺はあいつのことを忘れてるってことになるじゃないか。
「デタラメ言わないでくださいよ」
「残念ながら、デタラメやないで」
え?じゃあ、なんだ。俺は、あいつのことを忘れちまうってのか?う、嘘だね。親友の俺があいつのことを忘れるわけがない。
⋯⋯⋯待て。待て待て待て待て!あいつ?
なんで、あいつ?親友だろ。親友なんだろ!なのに、あいつなのか?おかしい!俺があいつを忘れるわけない!
ずっと一緒にいたはずだ!前世から一緒にいたはずだ!大丈夫だ。覚えてる。ゆっくり思い出していけばいい。
あいつの好きな食べ物は肉全般だ。その中でも鶏肉が好きなんだ。あいつの作る唐揚げはすごく美味しいんだ。それで⋯そうだ!あいつ、彼女に三日でフラレたんだ。そんときあいつは、あいつは。
「▓、そん▓に▓ぇの▓▓」
なんて、言ったんだっけ?
「▓ぁ、洒▓▓いの▓▓に入▓ねえ▓だ!」
やめろ。思い出せ!
「す▓▓ボ▓▓!」
あれ、この顔。
「じ▓▓な。▓馬」
⋯誰だっけ?
【ミコト】というものは、世界観的にいえば魂の消滅。作品的に言えばデータのロスト、もうゴルト君がでてこない証ですね。




