忘却の果て
ああ、私って最低だ。
そう思ったのは、現在進行系で私が何もしていないからだろう。今この瞬間、私が彼に名前を教えてあげれば、彼は忘れなかったはずなのに、私は彼に教えなかった。
少女から話を聞く限り、わからないところは多々あったけど
私はここで彼を放置するしかないということはわかっていた。
私の前で、彼⋯⋯⋯シュウサ・グレイスは呻いている。
「僕も見るのは初めてやけど、えげつないのう」
彼の端正な顔が歪んでいく。きれいな金色の髪は、すべての色を混ぜて作られた黒のような汚れた色へ。目からは希望や喜びの色が抜け落ち、瞳が黒く染まりながら暗い気持ちを宿していく。細くても筋肉質だった体は、山賊のような剛姿へと変貌していく。
「世界の⋯⋯改変」
【ミコト】というイレギュラーに対し、世界が行う処置。
使用者の存在を抹消し、使用者がいなかった世界を再構築する。
今のシュウサ君の姿は、彼の親友であるゴルト君がいなかった世界の姿だ。
彼はもう、シュウサ・グレイスではない。
そんなことを知っているのに、彼に近づいてしまったのは失敗だったな。
「いったぁぁ⋯⋯」
「それで済むお前が僕は羨ましい」
片腕が吹き飛んだ。
いや、斬り飛ばされたと言ったほうがいいかな。
「そっか、もう君の武器なんだね」
私があげた〘煌憧刃羅〙の形が変わってる。
取り敢えず腕を治そう。さっき暴れまわったときに大体は掴んだ。骨を作って、血管を作って、筋肉、そして皮膚の順番で再生していく。
うし、腕は大丈夫だな。
さぁてと⋯⋯。
「【鑑定】」
〘未喰〙
在りし日の力を失った魔剣
人の血で染まろうとその刀身は紺碧に輝く
能力:
【恨痕】〚ーーーーー]ーー〛
・対象への恨みをゲージとし、ゲージを消費することでスキル【怨恨】を使用する
・ゲージが五段階目を超過したとき、【解放】を使用することでO.F(overflow)状態に移行する
O.F状態は五分間しか保てないが、ゲージを消費することなく【怨恨】の使用が可能になる
【怨恨】追尾する闇属性の斬撃を飛ばす
おっと、その表示。もしかしなくても君、やったねぇ。
やっちゃったねぇ⋯⋯。
その剣で、人を殺したな?
「暴れる前に止めたほうがええな。おいお前、頼んだ」
「おいお前、じゃなくて司会とでも呼んでください。【スブシスト】!」
少女が指を鳴らす。そうすると、彼の動きが不自然に止まった。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?いや、ちょっと待って。私もう既に武器作って臨戦態勢に入ってたんですけど。
「さて、では――」
「ちょ、ちょい、ちょいまち?え、なんか今の状態について説明をくださいませんか?」
「まずい!悔菜は状況がわからずに敬語になってしまった!」
「ポ◯モンみたいやな。」
説明中⋯⋯
「なるほどね。彼を処理するに当たって、彼の過去を知るわけだけどその最中に暴れられたら困るから、彼の時間を止めたと」
「そういうことです」
わかっちゃいたけどこの少女強いな。
相手の時止めとかやっちゃだめでしょ普通。
「それで、どうやって過去を知るの?」
「それはね〜、こうやってです!【センメル・クイート】!」
「おや?」
足元がなくなってしまったかのような浮遊感。なぜか上空へと遠ざかっていく少女。なぜか下から吹く風。あれこれ本当に落っこちてね?
「ぎぃぃいいぃやぁああああぁぁぁああ!?」
「うるさい」
「いってらっしゃ~い」
私本当にバンジーとか無理なんだよぉぉぉ!!!
〘未喰〙の刃は【怨恨】を撃つときは刃の水色の部分が黒く染まる。O.F状態だと常に真っ黒。




