世代者
「っ!?【セクション】!」
放たれた斬撃は空気を裂き、バランの急所へ的確に飛んでいく。だがそれらは酔拳のようなフラフラとした不可思議な動きで躱された。
「鈍い鈍い!!」
距離があると思っていたが、まだバランの射程範囲か!
大地の根を蹴り、一瞬で肉薄したバランの拳を、体を反らすことで回避する。私の戦闘スタイルはだいたいこんなだけど、今までとはレベルが違うな!
でも避けられるな⋯⋯⋯何でだ?
いや、まぁ⋯⋯ね?私の友達が武器を無くしたときの動きに似ているからなんだよなぁ⋯⋯。地面を操るという新しいパターンがあるからたま~に被弾するけど、今繰り出されている連撃も躱せないわけじゃない。
試してみるか。
私の友達なら必ず防いで必ずカウンターを叩き込んでくるいわゆる狩場、そこにわざと攻撃する。
その狩場、意図的に隙を作っている左の横腹!
「ふっ!」
包丁はそこに吸い込まれる。そんなふうに錯覚してしまう程の隙。だがその錯覚はバランの不敵な笑みで吹き飛ばされる。
「やっと来やがったなぁ?俺の狩場に!」
私の腕を、バランは大きな手で掴む。その手には、絶対に逃さないという強い意志と力が込められて、握られたもう一方の拳にも殺意が込められていた。
だけど残念、それはよく知ってる。
このカウンターは、慌てて避けようとした敵を仕留める技だ。
つまり⋯⋯―――
「あらぁッ!?」
今みたいに、私の顔面スレスレを通り抜けていく。私の友達も、直そうとしても直らないといった癖。予測しちゃうんだって。
そして、それが命取り。
「獲った」
今度こそ、外さない。
逆手に持った包丁、狙うはその首、一択!
「【闘地闘血】」
世界が、変質する。雲一つない晴天、照りつけられた褐色の大地。そして、ローマのコロッセオのような闘技場。
「【地創兵】」
「参ったな⋯⋯これは⋯⋯」
さっきまでとは比べ物にならない量の兵。それも、見るからに装備の質が上がっている。見た目だけじゃなくて、身体能力も上がっているのかな?
そして、今のバランの表情を見れば分かる。
「やっほーゴルト君。いいや、我鹿桐斗君?」
「はじめましてだなぁ、異物ちゃん?」
異物⋯⋯異物ねぇ。
「その言い方はやめてくれるかなゴルト君」
「そりゃこっちのセリフってもんだ。俺は厳密にはそのゴルトとやらとは根本的に違う。俺は2代目、お前らは10代目だ」
2代⋯なんだって?
「なにそれ?」
「は、え、何知らねぇの?」
「え、うん。初耳」
血塗られた(多分)闘技場。筋肉ダルマもゴーレムも目を丸くする。ひゅーっと吹いた風も、そんな場違いな空気を吹き飛ばすためのものだったのだろう。
「「ッ!」」
互いに互いの隙と感じた一瞬、思考が重なったことによる行動の一致。包丁と硬質化した拳が鍔迫りあった。
なんで拳がキーンッて鳴るのかなぁ?本当に怖いよ。
バランの力も上がってるな、私だけが弾かれて空中に放り出される。そこに来るのがゴーレムの追撃ってわけだ。空中で、身を捩って⋯⋯うっしゃ!回避!
「2代目ってどういうことぉ!」
「俺達はッ、死ぬと魂になって、新しく、生まれ変わるんだ!」
会話の最中でさえ、攻防は続く。やっぱし、こいつはとんでもないやつだな。ゴーレムの猛攻で本体の隙潰し、さっきも思ったけど、こいつに物量を与えちゃいけない。
「世代によって、何か違いとかはあるのぉ!?」
「あるぜぇッ!主な違いはなぁ―――!!」
右のストレート、今までの戦いで把握したバランのリーチ、すべて計算にいれた回避。さっきまでと同じ、避けて、また切る!
はずだったのに⋯⋯ッ!!
「ッゥ!?」
頬骨に拳がめり込む。折れ⋯⋯てはない。ただ、痣になったな。魔力で感覚ずらされてたか、そもそも騙されてたか。たぶん後者だな。バランの言葉の続き、分かった気がする!
「「強さが違う!!」」
さっきの言い方的に、前世代にいくほど力が増すのか。ってことは、ギイナは初代とかかな?ま、今は気にしない。今は!
「【大地拍動】」
地震の規模がかわった。バランに近づくほど強くなってる。
「うおおお何がなんでも生き残ってやらぁ!!」
「ハハハッ!その意気だ!」
目の前の雑魚は⋯⋯!ほんとに一旦、無視するッ!!
「女の子の顔に傷つけたんだッ!覚悟しろよぉ!【探知】ッ!」
周囲のゴーレムの数は約150体!そのほとんどは雑兵だ。警戒するべきなのはバランの近くに鎮座している巨大な4体のゴーレム。たぶん精鋭中の精鋭!ゴーレムのリポップには少し時間がある。その間にあの4体を倒すことができれば私の勝ちかぁ!?
「来なよ!ゴーレム共!」
私の挑発に乗ったのかどうかはわからないがゴーレムたちが一斉に飛びかかってくる。
思いっきりの力で地面を砕く。舞う爆風と砂塵によってゴーレムたちが空中で体勢を崩す。瓦礫を蹴り高度を上げ、この闘技場の端から端まで見渡せる位置まで駆け上がる。
「全員、私の視界に入ったな!【セクション】!」
何体いるかはわからない!だから空飛ぶくらいの気持ちで腕を振れ!恥なんて偲んでられるか!
雑兵のゴーレムを殲滅し、精鋭ゴーレムにも浅くはない傷を与えた頃、私は地面に着地する。
周囲のゴーレムも再生しかけている。
さっきの着地で両足がイカれた!
今決めるしかない!
「【コーチェス】!」
「【大地拍⋯⋯―――!!」
視界を面とし、その端から端までを直線で繋いだ斬撃を飛ばすスキル。その斬撃は精鋭ゴーレムの活動を停止させ、バランの右足を切り飛ばした!
体勢を崩しているバラン。
雑兵は復活している。
痛い。左足が千切られた。
でも、この好機は逃さない!
踏み込みたりねぇ⋯!!だけど、殺せる!
マジで次こそ!屠れる!
「【最後の審判】!」
バランの右肩が吹き飛び、同時に闘技場は霧散し陽の光が私達を迎える。周囲のゴーレムもただの土塊に戻っていく。
「あ〜あ、負けちまった。終わり、か」
その顔には後悔も憤りもない。
ただただ懐かしむような感情が読み取れる。
「案外、悲しいもんだな。とうに両手は血で染まってるっつうのに、自分が死ぬのは、この世界を去るっていうのはさみしいんだな。でもまあ、一人じゃねえならいい方か」
頭を、後ろから掴まれる。
「え?」
「じゃあな偽物さん。虎の子は最後まで隠しとくもんだな全く」
まさか精鋭ゴーレムの数は5匹!?
振り向き、抵抗しようとしたが私の頭はあっけなく握りつぶされ、バランは息絶えた。




