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奇鬼眼  作者: 駿河留守
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17/25

ボクが鬼

 相葉さんはボクに勇気をくれた希望をくれた安心をくれた。ボクの現状を壊してくれた。彼には貰って救われてばかりだ。最初は本当に殺人犯と恋人になるっていうのが想像していたもの以上の刺激だったからという理由で好きだった。でも、それ以上にあの人は優しくて暖かな人だった。何よりもうれしかったのは今までのボクの生活についてかわいそうだと思ってくれたところだ。

 今までにはなかった言葉。それがすごくうれしかった。

 日が沈みオレンジ色に染まる空を見上げながらボクは家に帰る。

 明日は何の映画を見ようかな。恋愛ものは刺激がなさすぎでおもしろくない。だからと言って完全バトル物のハイウッド映画を恋人とみるようなものじゃないし。でも、恋愛ものは絶対に寝る。根暗な女の子が突然、イケメンの男の子と仲良くなっていろんな苦悩を乗り越えて結ばれるとかありふれ過ぎて面白くない。いろいろ不思議なところがあると思うだよ。まずは根暗な女の子のスペックが高いということと、イケメンの男の子がどうして周りにいる美女たちを差し置いてその根暗な女の子にホレたのか。訳が分からない。

 それに比べてボクの恋愛はどうだい?

 刺激を欲する女の子が殺人犯の弱みを握り付き合っていく。女の子はその過程で女の子は殺人犯の優しさに気付いていつしか好きになってしまった。

「映画ならここで邪魔が入る気がする」

 女の子がボクで殺人犯が相葉さんだ。

 その女の子は家族に縛られて自由がない、殺人犯は借金取りに追われている。邪魔する要素はたくさんある。それに殺人犯だからいつかは警察も相葉さんが犯人であるのをどこかで突き止めて逮捕することだってあり得る。

「そうなったらどうしよう」

 ボクの刺激のある日常が消えていつも通りの日常に戻ってしまう。それだけは嫌だ。

 もしそうなってしまったのならボクも相葉さんの力になろう。相葉さんの力になって警察の追撃の手から守るんだ。ボクを救ってくれたように今度はボクが相葉さんを救うんだ。

 夕日を背に小石を蹴りながら家に到着。

「ただいま~」

 日はすっかり沈んでしまって明かりのついていない真っ暗な家の中に入るのと同時にスマホのバイブレーションが震える。長いから電話だ。画面を見てみると相葉さんだった。それを見るとこんな暗い家の中とは裏腹に僕の心境は太陽みたいに明るくなる。

「はい!どうしたの?」

 電話に出てもしばらく返事がなかった。

「もしもし?どうしたの?」

 するとすごくトーンの低い声で相葉さんが話し出した。

「すまない。明日、いっしょには遊べそうにない」

「・・・・・え?」

 何を言っているのかすぐに理解できなかった。それを聞いた瞬間ブレーカーが落ちたように頭の回転が止まった。

「な、何を言っているの?相葉さんには拒否権なんか存在しないよ」

 ボクの手元には相葉さんが殺人に使った凶器を持っている。これがある限り相葉さんは下手にボクの言うことを逆らうことができない。逆らえば、相葉さんの言う安定的な日常が壊れることになる。

 でも、相葉さんの様子がおかしかった。

「ハハハ。もう、そのお前の言う拒否権以上の強い権力のせいでお前を危険な目に合わせることになる」

「・・・・・どういうことなの?」

「帰りに取り立て屋と鉢合わせた。どこで見ていたのかふたりでいるところを見られた」

 取り立て屋って黒いスーツを着た怖い人を想像する。恐怖というよりも興奮する。殺人犯に合うというほどの物じゃないけど。

「金があるなら借金を返せと言われた。返す金がないのならワタシの彼女、つまりお前に手を出すと言ってきた」

「ボクに手を出すって?」

「要するに売りに出されるってことだ。女であるお前は金になるということだ」

 売春ってわけだ。本当にあるんだ。そんな世界。ボクは処女だからきっと高値で売りさばかれるんだ。きっと、黒い地下都市に連れて行かれて闇市にかけられる。裸にされて金持ちわるいおじさんたちが舐めるようにボクの体を見て品定めをして買うんだ。そして、そこから何をされるのか?想像しただけでぞくぞくする。ボクの知らない現実離れした世界。

「おもしろそうじゃん」

「ちょっと待て!売り飛ばされるかもしれないんだぞ!得体のしれない闇商人に!」

 ボクのことを本気で心配する声だ。

 でも、ボクが求めているのは強い刺激。それが自らの体を傷つける結果に終わったとしてもボクは満足だ。

「確かに怖いよ。そんな闇商人とかに売り飛ばされてもきっといい思いはしない。奴隷みたいに扱われて一生自由が利かなくなるかもしれない」

「そ、そうだな」

 相葉さんはそんな細部まで想像していたわけじゃなさそうだ。

「大丈夫。ボクは大丈夫。でも、相葉さんが大丈夫じゃなさそうだね」

「そうだな。遊んでいる場合があるのならば働けと言われた」

「ダメだよ。そんな取り立て屋の言うことなんか鵜呑みしたら。ボクが許さないよ」

 ボクの最後の一言に相葉さんは怯んだ。

「取り立て屋の人がいるから相葉さんは大変なんだよね」

「い、いや、そもそも借金のせいで大変なんだが、確かにあいつらの理不尽な徴収のせいで苦労している・・・・・」

「だったら、いい方法があるよ」

 僕の顔がにやけているのが分かる。話す声が笑いそうなのを我慢する。僕がとっさに思い付いた方法。ボクの欲求を満たせるし相葉さんも借金の心配をする必要もなくなる。

「明日、集合場所と時間を変えよう。必要事項は後でメールする」

「いやでも」

「拒否権はないよ」

 それだけを言って電話を切った。

「さて、どうしようかな」

 キッチンまで行ってコンロの置いてあった鍋の中身を確認してから三角コーナーに中身ごと流し捨てて新しい水を入れて火をかける。三角コーナーからたつ異臭を掻き消すために芳香剤と消臭剤を大量に置いてごまかしている。それから冷蔵庫に入れていた袋のひとつを取り出してその中身を鍋の中に入れてふたを閉める。

 その作業をしながらボクは考えた。相葉さんがいれば絶対にできることだ。なぜなら、彼は一度あの手で経験していることだからだ。でも、以前みたいに証拠をうまく消すのは簡単じゃない。

「だから、今度は僕も手伝ってあげる」

 簡単な話だよ。

 殺しちゃえばいいんだよ。

 僕らを邪魔するものは全部。

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