ボクの困惑
相葉さんにメールを送った。
今日、デートをしようという内容を送った後にどこに何時集合という細かいことまでしっかり明記した。
頭が焼かれたみたいな感覚に襲われている。時間は早朝だからまだ寝ているかもしれない。だから、集合時間は11時ということにした。一体相葉さんがどんな生活をしているのか知らないけど、もしニートみたいな生活していて生活リズムが夜型とかだったらおはようのモーニングコールをしてから相葉さんが住んでいると思われる団地に行ってみよう。その団地には覚えがある。
さて、ボクは朝日がまだ上がる前の暗い家の廊下にひとり立っている。壊してしまった鏡はそのまま来週の燃えないごみの日に割ってしまったお皿といっしょにゴミとして出せるように玄関の隅にまとめておいてある。
季節は冬だというのにすべての窓を締め切っているせいで家中に立ちこめる熱気が逃げずに残っている。そのおかげで今はすごく過ごしやすい。お湯でもかぶったかのように濡れた体をバスタオルで拭いてそのまま山積みになった洗濯かごに突っ込む。
今のボクは表現しがたい解放感に包まれている。明日からボクは何も気にすることなく自由に遊びに行くことが出来る。きっと、大罪を犯して牢獄に長年入っていた獄人が、罪が晴れて牢獄の外の空気を吸って眩しい日差しを見た時の感覚がきっとこんな感じに違いない。
ただ生きるだけの生活には飽き飽きだよ。
ボクの求めているのは刺激。それがどんな強いものでもボクは構わない。とにかくボクは刺激がほしい。それが誰も経験したことのないような強いものであるのならなおさらだ。
「・・・・・そうだ」
思いついたことをすぐに実行できる喜びをかみしめながらスマホを操作してメールを作成する。
こんなのは普通じゃないよ。普通じゃないというところにボクは惹かれる。そして、相葉さんの存在自体が普通じゃない。惹かれる。だって、あの人は人を殺した犯罪者なんだよ。そんな犯罪者と知っておきながらボクは何をしているんだとバカバカしくなるよ。
メールの内容はこうだ。
『ボクたち付き合わない?恋人になろうよ』
それが女の子の僕としての初めての告白だった。まさか、その相手が殺人犯になるなんてボクは予想しているはずがない。




