ワタシとデート
ケータイで時間を確認する。午前10時55分。少女、山田が指定した集合時間は5分前にメールに記載されていた。ショッピングセンターにやって来た。オープンしたばかりの頃は最寄りの駅から無料の送迎バスが出ていたことがあるくらい大きな施設だ。その食品売り場にほど近いところに集合とのことがメールに記載されていた。
ワタシはほぼいつもと同じ服装であるジャージに革ジャンという異色の組み合わせだと我ながら思う。しかし、妙なのは今日少女、山田とワタシはデートをするのだ。殺人犯として身を潜めるワタシとその殺人犯の弱みを握る少女、山田が恋人としてデートするのだ。告白と思われるメールも来ている。
何度考えてもあの少女は謎だ。怖くないのか?人をふたりも殺している相手にどうしてここまでするのか理解に苦しんだ。ワタシだったらその場で通報する。関われば、ワタシ自身が危険でもあるしなんせワタシの求める安定的な生活から程遠い。そんな人物には関わらないのがベストだ。しかし、彼女はワタシといることを楽しんでいる。世界中探してもそうそう見つかるものでもない殺人犯の彼氏。
「考えていることが理解できない」
「なんの?」
「わぁ!」
いきなり背後に現れた声に驚き振り返る。
「ちょっと!デートなんだからそれなりにいい格好してきてよ!」
少女、山田はセーラー服ではなく私服であった。白のコートに赤いチャックのスカート。足は黒のストッキングで防寒されているもののラインの細い足をしっかりと見せている。そして見慣れた紺のマフラーを巻いている。ほんのり化粧をしているところを見ると完全にデート態勢だ。
「し、仕方ないだろ。ワタシはこういうラフな格好の方がいいんだ」
中学生の子供だと思っていたが格好がそれなりにいい格好をすれば大人の女性だ。元々、見た目のスペックは高い方だ。そんな子が本気を出して私服を選んできて、しかもデートだと言われた急に意識してしまう。
「まぁ、相葉さんがそう言うならいいんだけど・・・・・なんか釣り合わない」
「別にいいだろ!」
「デートって言うのは男の人が先導していくものだと思うんだよね」
「それは男の方がデートに誘った場合に限るだろ!そもそも、ワタシとお前は本当に恋人同士なのか!」
「そうだよ」
即答されてドキッとさせられる。
「どうしてだ。お前は怖くないのか?」
相手は殺人犯だぞって答えられるわけがない。周りには目が多すぎる。その目がワタシが殺人犯ではないかと疑いを掛ける目ではないかと思うと身が刻まれる思いだ。
「怖いよ」
「はぁ?」
少女、山田は何かを考えながら軽くそう答えた。
「うん。やっぱり、その格好はNG!ということでデートの目的が決まりました」
「まさか、未計画でこのデートを仕込んだのかよ」
「そうだけど?」
この少女は細かいことを気にしないタイプなのだろうか。だから、ワタシが殺人犯でも気にしないとでも。いや、細かいことを気にしないのならこのジャージに革ジャンという格好も気にしないだろう。
「今日はまず、相葉さんのその格好をどうにしよう。というわけで服屋さんに行こう!」
「おいおい、ワタシは服なんて買う気なんかないぞ」
そもそも、ワタシの服装は基本ジャージでそれ以外に服は持っていない。夏になればジャージにTシャツという格好になるだけで基本的に変わらない。
「買いなさい」
「い、いやだから」
「言ったでしょ。相葉さんには拒否権は存在しないって。あなたはボクの手足なんだから」
その時に見せた不気味な眼。目を細めて睨むように見つめる瞳はワタシを突き刺す。鬼のような眼差し。
「わ、分かった」
「どうせ、今の相葉さんはたくさんお金があるでしょ」
「え?」
「だって、あれだけのことをしてお金がないなんてないよね?」
また、このぞっと悪寒のする少女、山田のオーラ。その視線にワタシは震えあがり口答えする気がなくなる。
「だ、大丈夫だ。い、一応デートということは資金のほとんどは男がもつのが基本だという情報は入手している。と言ってもあれをして手に入れた資金のほとんどは借金返済に充てているからそう多くはない」
「やったのはお金に困ってたからなんだ」
少女、山田もニュースとか見ていたら知っているはずだ。老夫婦が殺されたのは金品を盗むための強盗殺人であることは。
「ここでただ話しててもなんだし早く中に入ろう!」
楽しそうな表情を浮かべてワタシの手を引く。それは普通にデートを楽しむ女の子にしか見えなかった。どれが彼女でどれが彼女ではないのか分からない。今みたいにデートを楽しんだり、ケータイの番号を交換したりするとき見せる輝かしい子供のような笑顔を見せる彼女が少女、山田なのか、それとも奇妙な鬼の眼をもってして殺人犯であるワタシを脅し手駒にすることを罵り笑う彼女が少女、山田なのか。今は結論づけることはできない。
「2階に確かあったはず。安くていい服が置いてある男物の服が置いてあるお店が」
頭の上にオンプマークを浮かべながらエスカレーターで上の階に登る。
「あ!後でアイスとか食べたいな~」
「何を思い出したのかと思えば、ただのおねだりかよ。まぁ、拒否してもワタシが払わないといけないのだろ」
「そのとおりだよ。ボクはあなたの弱みをがっちり握ってる」
まったくだ。しっかり鷲掴みされている。
エスカレーターを上がりきったところでふたりで並ぶと少女、山田はワタシの手を握る。
「ちょ!何を!」
「恋人同士なんだから当たり前でしょ」
「その恋人同士というのはどういうことなんだ?一体、お前はワタシのどこにホレたんだ?」
しばらく、考えてからワタシの耳元まで寄ってきて誰にも聞こえないようにささやく。
「殺人犯だから」
ぞっとする理由だった。
「お、お前そんな理由でワタシと!」
思わず距離を置きたくなったが握られた手は離されなかった。
「ボクね、ずっと縛られて生きてきたんだよ。自由のない何も変化のないつまらない日常。毎日のように同じことの繰り返す日常に飽き飽きしていたんだよ。ボクはあの時、相葉さんの落とした大切なものを見つけたときぞくぞくしたんだよ。それにはボクの経験したことのない非日常のかけらだって。ボクの日常を壊してくれて自由にしてくれた時点でボクの心はあなたに奪われたんだよ」
頬を赤く染めてエヘヘと不器用に笑う姿は清楚そのものだった。殺人犯だからというドス黒い理由で付き合っているのではなく、ただ自らを縛っていたものを解くだけの起爆剤となってくれたことに感謝しているということなのか。そんなつもりであの老夫婦を殺したわけじゃない。ただ、金の欲しさに殺しただけだ。それ以上に理由は存在しない。それでも、そんな悪の行いで救われる変わり者もいるんだな。
「ワタシはその変化のない生活を望んでいるのだが・・・・・お前がその自由を楽しむというならばその手助けをしてやらないでもない」
「・・・・・何照れてるの?」
「照れてない!」
「照れてる~照れてる~」
少女、山田は逃げ出した。ワタシを冷やかしながら。
「その口を閉じろ!ワタシは別に照れてない!」
その時間は不本意ながらワタシにとって楽しい時間となった。犯罪を犯して肩身の狭い思いをしていたワタシに自由を与えてくれたのは彼女だ。自分たちを自由にしてくれたのはお互いさまということなのか。




