人を叩く;『借金』;見た目で人を量る畜生 その三
地面に転がって痛がっていた男は、そんな善良な笑みを浮かべる秉核の心のなかに、人を陥れる複雑な思惑が潜んでいようとは、思ってもみなかった。
彼は百五十リラという言葉を聞いた瞬間、心のなかで金の痛手を感じた。手の激痛による哀れな表情が、すぐに変わった。そして秉核に媚びへつらうように言う。
「坊ちゃま、坊ちゃま、これは、ええと、私は目が節穴で、あなたがプロフェッショナルだとは知りませんでした。どうかおおめに見逃してください」
わずか数十秒のあいだに、大量のおべっかの言葉を並べ立てた。秉核は、このごますり階級の生存術に感嘆せざるを得なかった。
弱い者をいじめ、強者に媚びる――そんな生存術である。
秉核は口調を緩めた。
やや丁寧に(作り笑いを浮かべながら)言う。
「すみませんが、近くの市場まで案内して、宿を探すのを手伝ってくれませんか」
そう言うと、秉核はその男の手を軽く叩いた。微かな光のなかで、傷口は急速に落ち着く。裂けた部分からは大量の肉芽が生え、互いに噛み合って、簡易的な縫合を形成した。──きわめて基礎的な細胞再生術である。小さな傷にしか適さず、内部の筋肉の切断までは修復されない。秉核が行ったこの簡単な処置は、ただ止血を助けるためのものだった。
秉核の現在の法脈体系には、騎士が配下の将兵の士気を鼓舞する演説に使う導心術は組み込まれていない。代わりに、この基礎医牧師の法術が追加されていた。
秉核がその手を見せると、御苑家の私兵の小頭は、いっそう大げさな賛辞で秉核の慈悲を称えた。
秉核は少し気恥ずかしくなった。
今は彼と対立するのも憚られたので、小頭にこう釘を刺す。
「時間を無駄にすれば、その手の鬱血は正規の牧師の適切な処置を受けられず、数日後には腫れ上がるぞ」
案の定、その一言はよく効いた。男はこれ以上時間を無駄にするのを恐れて、すぐに秉核を案内し始めた。
……
四十分後。
市場へ向かう途中、秉核は大勢の馬の隊列に出くわした。その時、空を飛んでいた一羽の鳥が秉核の頭上を一周すると、二百メートル先から近づいてくる馬の隊列めがけて急降下していった。
馬の隊列の先頭にいた女性騎手が、牛皮の腕カバーをはめた腕を上げた。
飼いならされた鷹が軽く鳴く(鷹が飼い主に情報を伝えているのだ)。
その女性の目つきは刃物のように鋭く、前方を見据えていた。
もとより百花のように優雅に見えた顔に、そこはかとない不協和を漂わせている。
まるで白いバラの上に尖った鋼の針が立っているかのようで、摘み取りたいという人の心を、警戒心が押しとどめるかのようだった。
この女性は御苑・綺絢。
本来は従者に行かせるつもりだった。
だが庭園に座っていると、もう一羽の鷹が降りてきて、川岸の釣り針爺さんの家に新しい動きがあると知らせた。
そのため、自ら馬でやってきたのだった。
……
馬隊を連れて三十分、駆けた。
彼女は今、五人の家来たちが、とても従順に、ボロボロの服を着た少年を取り囲んでいるのを見た。
少年はひどく幼く、それでいて色白だった。
この貴族の女性は驚きの表情を見せた。だが秉核の腰に下がった銃、目の前に浮かぶ幾何学のカーソル、光の屈折の歪みを見ると、傲然とした表情を収めた。
綺絢は馬から降り、貴族の女性としての礼儀にのっとって秉核に挨拶した。「御苑の綺絢です。ここでお会いできて嬉しいです」
見慣れた礼儀を前に、秉核はつい習慣で返礼を始めた。
だが途中で、逃亡中の身で貴族の礼儀を使うべきではないと気づく。
しかし礼儀はすでに済ませてしまった。秉核は覚悟を決めて言った。「融鋼。熱く溶けた鋼鉄、という意味です。現在は流浪者です。初めまして、どうぞよろしく」(流浪者とは、特別な事情で家族を離れた貴族を指し、普通は姓や本名を明かさない)
綺絢は、職業者である流浪者を受け入れるときの決まり文句で言った。
「地主として失礼を承知でお尋ねしますが、あなたの旅路はひと休みされるおつもりですか」
(大まかな意味は、ここに留まる意思があるかどうか、つまり地元の家族の雇い入れを受けるか、という社交辞令である。綺絢は一目で、秉核が決して放浪者ではないと見抜いていた。放浪者にこんなに幼い者はいないからだ。)
秉核は実直そうな顔で言った。
「御地でしばらく休ませていただく予定でした。もともとは旅館に行くつもりでしたが、あなたの許可をいただけて、大変光栄に思います」
しかしその時、秉核は綺絢の視線が自分の手首を盗み見ていることに気づいた。秉核は一瞬呆然とし、手を背中に回した。
そして綺絢も視線を収め、顔には貴族らしいにこやかな笑みを浮かべた。
……




