慌てふためく過激さ その三
彼らの思考の重点を道楽者への遠慮に向かわせ、最終的に「触らぬ神に祟りなし」の心理にさせてこそ、秉核は関所を抜け出せるのだ。
表面上は道楽者を装っていたが、秉核の心臓は鼓動を打ち続け、手のひらは汗でびっしょりだった。秉核は賭けに出ていた。
この生まれつき階級制度の厳しい社会で、下級者が上級者に対して抱く畏怖に。
もし階級制度の緩い社会や、制度による責任追及が機能する社会であれば、秉核は決して賭けに出ようとはしなかっただろう。
地球時代の二十一世紀を思い返せば、高級将校を装って派出所で詐欺を働くような、おかしな事例もあった。
目の前の兵士たちが地球の連中のようになるのではないかと、つい心配になってしまった。秉核は今の自分の行動に、まったく自信が持てなかった。
……
案の定、兵士たちの口調は少し和らいだ。
「坊ちゃん、足から血が出ています。まず着替えてください」
秉核の体には多くの傷があった。
筋肉組織は修復されていたが(消しゴム能力)、表皮の損傷はまだ残っていた。
失った血も戻っておらず、白い肌には埃と血痕がべっとりと付いていた。
秉核はさらに理不尽な口調で言った。
「いいや、今すぐだ、始めろ、命令だ、俺を背負え」
ここで一歩も引くわけにはいかなかった。
城門の役人は躊躇し、別の兵士はこっそりと立ち去った。明らかに上司に知らせに行くつもりだ。秉核と話している役人は、完全に時間稼ぎをしていた。
そのとき、秉核は集音術を使った。
百米先の馬の蹄の音を感知した。
秉核は目の前の男を見つめ、冷たく言い放った。「ほう、わざわざ俺様を困らせるとはな。お前ひとりでできると思っているのか、それとも我が波輪家が帝国で勢力を失ったとでも言うのか」
秉核は一歩一歩、話していた兵士の前へ進み出た。
兵士の顔の迷いが、さらに深くなる。
帝国では、権力者が小さな人物の生死を自由にできるのだ。
そして兵士がためらっている間に、秉核は半メートル以内まで接近した。そのとき、馬に乗った伝令兵が五十メートル先の通りの角に現れ、秉核も動き出した。
秉核の拳が目の前の兵士の腹部を直撃し、この戦士職階の兵士の動きを完全に封じた。
手早く彼の腰から拳銃ケースを引き抜くと、城門へ駆け出す。
そして先手を取って拳銃を抜き、警告射撃を素早く連発した。
帝国030式拳銃は、秉核が八歳のころ何度も分解し、何度も手にして遊んだものだった。
このとき、秉核は慣れた手つきで安全装置を外した。
素早く城門の兵士たちに向けて発砲した。
この二十メートルという限られた距離では、秉核には絶対的な制圧力があるという自信があった。
なぜなら、ピストルを構える速度はライフルを構える速度より速いからだ。
城門の兵士たちは不意を突かれた。
薄着で武器も持たない子供に警戒しろなど、考えるはずもなかった。
その油断の一瞬に、城門の数人の兵士はなすすべもなく倒れた。
秉核は心臓や頭部などの急所を狙わなかった。
傷ついて苦しむ者が生み出す混乱は、死者が出るよりも効果的なのだ。
(小口径の弾丸が非致命部位に当たれば、数ヶ月寝込む程度で済む)
……
秉核は弾かれた豹のように、城門へ向かって駆け出した。路上の障害物を飛び越えていく。城壁の上の兵士たちは、混乱する人混みの中を必死に逃げる秉核の姿を一瞬だけ目撃した。
銃声を聞き、急いで兵舎から飛び出して状況をうかがったのだが。
しかし彼らは無意識のうちにそれを見過ごし、代わりにいわゆる大勢の銃を持った凶悪犯を探した。そのため、この一瞬の不注意で秉核は逃げおおせた。
(兵士の第一の心理は、脅威となる者を迅速に処理することにある。兵士たちは、銃を持って関所を突破しようとする者は必ず七~八人の暴徒だと決めてかかっていた。)
後ろから馬で追ってきた伝令の兵士は、遮断しようとしていた目標が城門の前で消えていくのを、目の当たりにした。
この医牧ビルの警備員は唇を震わせた。
叫んで制止する間もなく、城壁の兵士たちがライフルを構えて戦闘準備を整える姿を見た。
そして素早く小旗を振りながら、通信術を使って城壁の責任者に発砲しないよう伝えた。一方は自分たちに向けて撃たせないため、もう一方は外に飛び出した秉核に向けて撃たせないため。




