↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰向  作者: 凛光穂
第二巻 機械師の心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/187

現代の工場と兵器供給 その三

 やっとのことで、思いがけない大金を返し終えた。


 しかし、七千リラの利益となると、もはや同級生たちに渡すことはできなかった。正確に言えば、第三グループの生徒たちは秉核(ヘイカク)の丁重すぎる態度に恐れをなし、秉核(ヘイカク)を避けるようになっていた。


 そこで今回、工場を借りるにあたり、秉核(ヘイカク)はこの費用を計算に入れた。そしてそれを分け前として、工場を手伝ってくれる同級生たちに分配した。


 今回、同級生たちを工場の技術者として働かせるにあたり、組長として命じることもできた。

 貴族として招くこともできた。

 前回の試練で得た威信を使って指示することもできた。


 しかし秉核(ヘイカク)は、最も科学的な管理方法は熟練した技術者に利益を分配することだと考えた。

 威信だけでは、人のやる気を常に引き出しておくことはできない。

 工場の生産には、多くの複雑な技術操作と管理手順が絡んでいる。

 労働者や現場の管理者が、常に最高指導者の威信を念じ続けることなどできない。

 威厳ある人物がひとたびいなくなれば、自然と気が緩む。


 秉核(ヘイカク)は、自分に王侯のような威光があるとは考えていなかった。人々が苦労して働きながら、常に自分に報いようと思うほどだとは。


 しかし、制度によって生産者が生産任務を果たすとき、それが自分自身の利益に関わると感じさせることができれば、利益は技術労働者や管理者の勤勉さを引き出す。だから技術労働者に配当を与えることは、秉核(ヘイカク)が考え得る最も科学的な管理制度だった。システム内の各人のやる気を最も確実に保証できる運営方法でもある。


 そして今、秉核(ヘイカク)はあのとき三十二万リラを独り占めする誘惑を抑えられたことを喜んでいる。

 もし当時、封建的な主人のように気ままに取り上げる態度を見せていたら、このクラスメートたちに、自分が彼らへ配当を出せると信じさせることはできなかっただろう。


 この社会の高い階層に身を置くなら、人から信頼される信用は多額の金銭よりも重要である。

 三十二万リラは、今は少し多く見えるかもしれない。

 だが、これからの日々はまだ長い。


  ……


 いくらか近代的な工場管理。

 すべての人が自発的に制度を守る生産システム。

 数千の生産工程が、どれ一つ誤りも制御不能も起こさない生産組織。


 今の秉核(ヘイカク)には、この時代としては非常に大規模な化学加工プラントを作り出す自信と力がある。


 この世界の軍事システムでよく使われる化学技術には、秉核(ヘイカク)ももはや言葉を失っている。


  ……


 火薬推進剤の発展史を、簡単に述べておく。


 一、黒色火薬。硝糖(硝酸カリウムと砂糖の混合物)もロケット推進剤として使える。地球初期の黒色火薬ロケット技術の代表は、コングリーブ・ロケット。全長六十一センチ、最大重量百キロ。三メートルの竹竿に取り付けて発射する(巨大な打ち上げ花火だ)。射程は二、三キロに達したが、近代では急速に淘汰された。第一次世界大戦では、ロケット類の兵器は見られなかった。


 二、第二次世界大戦のころ、有名なカチューシャが使っていたのは無煙火薬。

 ニトロセルロースをエーテルとアルコールに溶かし、適量の安定剤を加えてゲル状にしたものだった。

 当時の帝国軍工廠で生産されていた無煙火薬の製法は、単にニトロセルロースを調製するだけのものだった。

 しかしこの推進薬では、迫撃砲と野砲の優位を覆すにはまだ足りなかった。


 三、つまり過塩素酸アンモニウムとコールタールピッチを組み合わせた推進薬だ。地球で言うところの第一世代複合推進薬である。秉核(ヘイカク)が目指しているのは、まさにこれだった。


 地球の常識ではこれは無茶苦茶だ。この発射薬は推力が強い代わりに大量の白煙を出し、単兵ロケットの隠密性を大きく損なう。しかし秉核(ヘイカク)は、この世界ではロケット弾は遠距離で使われ、途中でリモートコントロールしなければならないため、かえって白煙の軌跡でロケットの飛行位置をはっきりと掴み、正確に操縦できると考えた。

 そこでこの発射薬を選んだのだった。


  ……


 工場内のさまざまな生産任務のうち、最も危険な技術工程は過塩素酸塩の調製である。この化合物は固体燃料の酸化剤である。


 工場では、帝国機械学院から来た若い学生たちが、各職場で生産任務を担ぎ始めた。

 生産の現場では、彼らはいくつかの魔法を使うだけでよい。

 反応釜の制御、圧力の制御、反応速度の制御のために。


 秉核(ヘイカク)は、こうした工場主一族の家伝の術の力も目の当たりにした。たとえば白簾(ハクレン)という少女は、帯電粒子の電磁誘導を利用して反応釜の中の反応物を浮かべ、反応を速めていた。この新しい魔法体系は銃焰(ガンフレイム)家の生産では使われていない。法脈でも、この種の操作は得意ではなかった。


 ここから、一部の上級機械師の一族には専門分野があることが分かる。

 独自の技術的優位を持っているのだ。


 そして今、秉核(ヘイカク)の生産ラインが稼働し始めた。


 この化学反応の制御精度は、前世のハイテク化学工場のシステム制御にも劣らないほどだった。

 もちろん前世の化学工業は、精密な設備と、長期にわたる大規模な基礎実験の蓄積に支えられていた。

 だが今は、機械師の術による観察と制御、そして機械師の総括に頼っている。


  ……


 十五日の生産を経て、最初の誘導ロケット弾が出来上がった。進度が伸びなかった主な原因は、秉核(ヘイカク)自身にある。導引装置の生産に向いているのは秉核(ヘイカク)だけで、秉核(ヘイカク)はこの生産任務の多くの作業をまだ一般人に委ねていなかった。秉核(ヘイカク)が望まなかったからではない。析金術は銃焰(ガンフレイム)家の法脈にしか適していなかったからだ。


 最終的に出来上がったのは、緑色に塗装された軍用ロケット弾頭だった。

 弾頭の先端には簡素な電子遠隔操作システムが組み込まれ、尾翼を調整できた。


 工場でこのロットが生産されると、軍人たちがペンとノートを持って入ってきた。

 二千二百四十個の誘導弾頭に注記を付け、赤い塗料ペンで弾頭に番号を記していく。

 そして一部のサンプルを試験場へ持ち込み、テストを行った。


  ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。