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帰向  作者: 凛光穂
第二巻 機械師の心

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煩わしさ その一

 秉核(ヘイカク)はその一連の言葉を呟きながら、階段を上っていった。

「バランス、コントロール、精度」


 法脈体系の複雑さは、秉核(ヘイカク)の想像をはるかに超えていた。上位職業というものが、ある一族だけで作り出せるものだと秉核(ヘイカク)は決して信じていない。——だからこそ、歴史上の宗教紀元期に巨大な集団組織があったという話を、秉核(ヘイカク)は今では信じている。


 秉核(ヘイカク)個人にとっては、自分に消しゴムの能力があるとはいえ、こなすべき仕事量は明らかに小学校から博士課程までの膨大な量だ。――もちろん、誰にでも夢はある。ましてこの世界で、その夢が自分にしかできないものであればなおさらだ。強い原動力が秉核(ヘイカク)の胸に湧き上がる。


 秉核(ヘイカク)はうつむき加減に歩き、視線はもっぱら足元の階段に向けて、前方を見ていなかった。その視界に、ピンクのスカートと白い膝上ソックス、そして薄紫色のロングブーツが現れる。秉核(ヘイカク)は仕方なく息を吸って頭を上げた。そう、秉核(ヘイカク)は足元を見ただけで、目の前に立ちはだかる者が誰なのか分かったのだ。——自分よりたった一歳年下で、何年も敵対してきた姪である。


 そしてこの姪も秉核(ヘイカク)に遠慮などしない。秉核(ヘイカク)を見つけるとすぐに足を振り上げた。しかしその手はあまりに古すぎて、秉核(ヘイカク)は簡単に身をかわし、軽く手を伸ばして足首をつかみ、そのまま上へ持ち上げる。秉核(ヘイカク)を蹴ろうとした璃韻(リイン)は片足で立っていられなくなり、後ろへ倒れかけたが、足首を秉核(ヘイカク)に掴まれて、かろうじてバランスを保った。


  ……


 少女が足を上げた姿勢と秉核(ヘイカク)の位置のせいで、少しばかり「景色」が見えてしまった。


 秉核(ヘイカク)はちらりと視線を走らせて言った。「安全パンツか、よろしい。我が銃焰(ガンフレイム)家の淑女はこうあるべきだ」

 ――いわゆる姪(妹)というものは、どれほど可愛くても、どう見ても小さな厄介の塊なのだ。


 秉核(ヘイカク)が少女の足首を握った手を軽く前方へ引き、そして放すと、もともと後ろに傾きかけていた少女は前のめりになり、秉核(ヘイカク)の広げた胸に頭をぶつけた。秉核(ヘイカク)はすかさず少女を抱きしめると同時に、手を伸ばして璃韻(リイン)の髪を撫でながら、荘重な口調(これは秉核(ヘイカク)自身がそう思っているだけで、璃韻(リイン)の耳には自慢げに聞こえた)で言った。

「お利口にしてね」


 璃韻(リイン)の怒鳴り声が廊下に響き渡った。秉核(ヘイカク)を瞬時に押しのけると、すぐさま空気砲(炭粉と純酸素の気流が瞬間的に燃焼して生じる気流波)の魔法を秉核(ヘイカク)目がけてぶちかました。

「バカヤロー、離れてよ!」


 しかし秉核(ヘイカク)は素早く跳び上がり、空中で一回転して空気砲を避け、見事に着地した。この格好いい動きは、二十メートル離れた生徒たち全員の注目を集める。もちろん、その格好いい動きのせいで、璃韻(リイン)は一瞬、自分が怒るべきことを忘れた。


 もちろん、それも一瞬だけだった。着地した秉核(ヘイカク)の自信満々な表情を見て、璃韻(リイン)は再び超凶になった。


 彼女のロングスカートが揺れ、周囲二メートルに波紋のような空気の振動が生まれた。

 波紋の正体は、空気中から酸素を抽出したものだ。

 その中心には可燃性の粉塵があった。

 これは六つの空気砲である。


 二メートル以内での空気砲の衝撃は、平手打ち程度でしかない。

 この殺傷力のない魔法は、一部の少女職業者が口論の際によく使うものだ。


  ……


 しかし秉核(ヘイカク)が左手を上げると、腕に巻き付けた機械の輪が瞬時に展開した。カシャッという音とともにレンズが閃き、牙をむいた少女の姿を写し取る。(フィルムは暗室で現像する必要がある)突然の写真撮影に璃韻(リイン)は一瞬呆然とした。——女性は写真撮影に敏感で、一枚の写真のために三十分も化粧をすることがある。これは秉核(ヘイカク)にとって奇妙な現象だったが、積極的に利用することを妨げはしなかった。


 秉核(ヘイカク)は身を翻して廊下へ飛び出した。一秒後、軽やかな気流の音とともに、璃韻(リイン)は空気砲の魔法を解いてすぐに追いかけてきた。「秉核(ヘイカク)、早くフィルムを返しなさい」


 秉核(ヘイカク)は振り返り、手に持ったカメラを高く掲げて微笑んだ。「いいよ、でもお利口さんにしてね。さもないとロス(璃韻(リイン)の父親)のところに送っちゃうから」


 璃韻(リイン)は銀の歯を食いしばった。

「大嘘つき、あなたに私を教育する資格はない」


 秉核(ヘイカク)は微笑みを収め、頭を上げ、顔に傲りを浮かべて言った。

「私は資格がある。家族内の長幼の順序はさておき、今の私は導師に任命された助教だ。そしてあなたはただの普通の学生に過ぎない。そうだ、今の私にはあなたの学業状況を確認する資格もある。最近の課後の解説では毎回あなたを見かけないが、本当にすべて理解できているのか?」


  ……


 璃韻(リイン)は口を尖らせ、瞳にきらめく液体を浮かべていた。この学業の問題こそ、璃韻(リイン)がここへ来た重要な理由だった。最近の授業では確かに秉核(ヘイカク)が課後の解説をしていたが、ずっと意地を張っていた彼女は、気まずくて参加できなかった。


 璃韻(リイン)はすでに形勢が自分に不利だと感じていたが、面子、つまり紙よりも薄いお嬢様の面目のために我慢していた。そして今、秉核(ヘイカク)に学業を詰問され、この上ない悔しさが胸に込み上げてくる。


  ……


 ―――――

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