いわゆる天才 その二
思芬は熱いお茶を注いだ。湯気が立ち上り、通話用の結晶が曇る。思芬が表情を隠すための、ささやかな工夫だった。
思芬は言った。
「まあ、軍隊に入れば、この怠け癖も直るかもしれない」
スコットが言った。
「最悪の事態を想定しておいた方がいい、と忠告しておくよ」
思芬が問い返した。
「どういうことだ。ほかに何か知っているのか」
思芬はカップを置き、本を手に取って通話用の立体投影機を扇いだ。画面に凝結していた水滴が気流に消えていく。思芬は画面をじっと見つめた。
スコットは言った。
「帝国の軍部は試練工場全体を監視し、外部の干渉を遮断している。だから学院は試練の状況をまったく知りません。ですが、陛下が突然この試練に興味を持たれたと聞いています」
思芬は不思議そうに尋ねた。
「陛下がどうして若者の試練に興味を持たれるのですか?」
スコットは言った。
「わかりません。気まぐれかもしれません。ですが、もし彼が試練で成績が悪く、明らかに合格できないものを作ったりしたら、ひどく苦しめられるかもしれません」
思芬は言った。
「彼の機械の才能は悪いのですか?」
スコットが言った。「いいえ、彼の才能は良い。ですが彼は一人で一組です。軍部のほうではキョウザンが彼を監督しています」
思芬はペンを止め、穏やかな口調で言った。
「銃焰と焰石の家族はすでに和解しています。七年前のことは、ただの事故でした」
スコットは言った。彼はただ示唆しただけだったが、七年前のあの事件は思芬の傷跡だった。
「そうか、それなら良かった」
スコットは頃合いを見計らって、この話題を終えた。
思芬は言った。
「ああ、君は心配しすぎだよ」
少し間を置いてから、
スコットが尋ねた。「試練のことを、君はどう思う?」
思芬はため息をついた。
「帝国全体が準備を進めている。北方の戦争は結局避けられないだろう。問題は、ヘイラ人以外の帝国の敵が紛れ込んでくるかどうかだ」
スコットはうなずいた。
「最近、オーカー人の地中海艦隊の航行回数が増えている。だが我々の戦艦は……」
言葉を終えぬうちに、この話題に興味のない思芬が遮った。
「その話はボレン家とすべきだ。彼らが戦艦技術を主管している」
スコットはため息をついた。
「いや、技術の問題じゃない。帝国の旧派は根本的な譲歩をするつもりがない。皇帝陛下も各方面の矛盾を調整しているだけだ」
……
視点は、帝都の縁にある工業地帯へ戻る。
六日目、
工場では金槌の音がカンカンと響く中、秉核は完成した三台目の試作車の鋼板に最後のシンボルを付け加えていた。鎌とハンマーのマークである。秉核は面白半分にこれを採用し、自分の戦車が頑丈で長く使えるようにとの願いを込めた。
このシンボルが装甲板にリベットで固定されると、少し離れて立っていた秉核は眺めながらふと思った。
『ソビエトの、鋼鉄の慈父の偉大な光輝を完成させられなかったサボり工程师たちは、シベリアでジャガイモを掘らされるんだろうな』
最後の装飾が固定された。戦車は正式に完成し、テストできるようになった。傍らの労働者が秉核に尋ねた。
「坊っちゃん、これは何ですか?」
数日間の徹夜で仙気漂う顔の秉核は、無理に笑みを作った。
「このマークは、私と労働人民との深い友情を表しているんだ。うん、分からないだろうし、分からなくても聞くな。さっさと働け、ほかにも車両があるぞ。今日の労働点数が足りないとでも?」
……
三十分後、二キロメートル離れた飛行船の広いゴンドラホールで、擎山と同格の将校が数名、帝国元帥を囲んでいた。
元帥の軍帽は金属製で、青い宝石がついている。
彼らは三号工業地区の様子を遠くから眺めていた。
このとき、この工業地区では機械院の学生たちが三つの実習グループに分かれていた。
それぞれが一つの工場区域と一つのテスト広場を使う。
そして秉核は最後の実習グループだった。飛行船上の元帥が遠望術で観察していたのは、秉核の工場区域の様子である。
工場の門越しに戦車が現れた。轟音を立て、黒煙を噴きながら、秉核がわざと設けた凹凸道路を走行テストする様子が見えた。
髭も髪も灰色の軍人。階級章のない軍服を着ている。背後にいる擎山に尋ねた。
「彼の工場の運営効率は非常に高いのか?」
擎山は答えた。
「はい。第三グループの工場は部品の出入り量が他のグループの六倍です。工場内の大型機械はすべて稼働していると言えます」
……
注。軍方のこの観察チームは、秉核のチームだけを審査するのではなく、各チームを審査して評価を下していた。
もちろん、三つのチームを審査したあと、軍の上層部は最終的に秉核に注目した。将軍たちの目には、この時点で機械工場での秉核の働きだけが軍の要求を満たしていると映ったからだ。
他の学生たちはまだ未熟だった。
例えば璃韻凱斯の第二グループが担当する工場では、確かに協力はしていた。だが、学生がそれぞれ独立して問題を解き、互いに議論するという感じだった。
あなたはあなたの分を、私は私の分をやり、それから答えを照らし合わせるといった具合だ。
第二グループの工場では機械が動いたり止まったりで散発的だった。どちらかと言えば学術研究のようであり、軍の前線で独立した軍需生産を行う様子ではなかった。
他のグループと比べて、秉核が所属する第三グループは、まったく異なる統率力を見せていた。
これは魅力値と混同すべきものではない。
統率力とは作業能力だ。膨大な仕事を小さな塊に細分化し、それぞれを各部門に割り当て、最終的に一つのシステムとして機能させる能力である。
リーダーは時に天才の視点を捨てねばならない。必要なのは普通の人の視点だ。その作業能力を理解したうえで、彼らをシステムに組み込み、力を発揮させる。この工場のグループでは、分割された作業工程のほとんどすべてが他人と交代可能だ。ただ、秉核の総設計・総計画の仕事だけは代替できない。




