戦車の設計案 その四
五日目。
擎山が再び工場へ足を踏み入れた。
だが工場に入ると、彼の目に飛び込んできたのは整然とした生産現場だった。合計十台分の車体の外装と構造が同時に工場内に並び、それぞれの機械技師が持ち場で働いている。
――そう、任務が割り当てられてからというもの、誰一人として暇な者はいない。
これが、忙しさと秩序の融合した姿だった。
機械技師としての製造知識はなくとも、軍の高層である擎山にも、この工場の雰囲気が問題に押し潰されてお手上げの状態ではないことは分かった。
むしろ、まさに問題を解決しつつある。
……
擎山は工場の通路で足を緩め、視線を工場全体へ巡らせた。
集中、鋭い視覚、強靭な記憶、聴覚の洞察……この騎士は自らに十数もの知覚強化のバフをかけた。
法脈の開放が過剰だったため、法脈の紋様が肌に浮かび上がり、頬や手の甲には淡金色の線が現れる。
大量の法系元素が形づくる力場が、彼の周りの塵を弾き飛ばしていた。
工場を鋭く見渡すその眼差しは、まさにこの世界のポスターに描かれる騎士の颯爽としたイメージそのものだった。
数十の作業場を回ったすえ、擎山はついにタールの匂いが強烈な部屋で秉核を見つけた。小柄で体中が汚れ、髪はぼさぼさ、元は白かった顔が煤で黒ずんだこの秉核を、擎山は一目では見分けられなかった。
……
第三作業場にて。
秉核はここで石炭化学の実験を行っていた。真っ黒な石炭の山の傍らで、秉核は仮設の金属粉砕機を慎重に起動させ、同時に風化術の魔法も加える。
実験室の棚には、黒から黄色、そして透明へと液体の色が変わっていくガラスフラスコが並んでいた。
秉核はここ数日、石炭と格闘し続けていた。
機械と魔法を駆使し、数十トンの石炭をきわめて微細な粉末に粉砕した(風化術による粉砕効果は地球上の同種のハイテク製品に匹敵し、これは地球上のこの種の工業で最も重要な工程だった)。
粉砕された石炭は特定の圧力釜へ送られ、三百度に加熱されるか、あるいは水素添加などが施される。
内燃機関技術は、現代の機械技師たちを惑わすようなものではない。だが比較的難しく複雑で、ほとんどの機械技師は手を出さない。
中位職業の機械制御者たちが特殊な機械を製造する際、蒸気機関を動力源に使えない場合にのみ、内燃機関の機械に着手する。
……
石炭液化技術は、二十一世紀において無数の技術者の頭を悩ませた技術である。
国家は何兆もの投資をこの技術に投じてきた。だが、それは石炭液化の反応が非常に過酷だという意味ではない。
反応条件はどれも現代工業なら容易に達成可能で、人類は第一次世界大戦の時点でこの技術を開発していた。
国家がこれほど多額の資金を投入する理由は、石炭の使用量が膨大だからだ。
技術によって石炭の転換率を少しでも高め、転換品質を改善できれば、石油輸入の一部を代替できる。
たとえ石炭液化の転換率が0.1%上がるだけでも、それは超がつくほどの重大な技術的ブレイクスルーである。石炭消費量の規模に乗じれば、もたらされる経済効果は計り知れない。
……
しかし今の秉核は石炭の転換率など気にせず、最も技術力を問われる細部にも頓着しない。ただ、自分の戦車を動かせる燃料油ができればそれでいいと思っている。帝国にとって実用的かどうかについては、「俺の知ったことか、ただ合格すればそれでいい」と秉核は吐き捨てるように言った。
秉核は今、ただ合格するためだけに燃料油を作っている。現実の大規模生産における実際のニーズなど、一切考慮していない。
たとえば燃料油の精製という工程では、機械技師だけが使える物質分離術を用いて、合格品の燃料油を分離する必要がある。
分離術を通して燃料油を精製しなければ、内燃機関にはカーボンの堆積が発生し、悲惨な結果を招くだろう。
この一連の複雑な魔法が、この技術を基盤とする内燃機関技術の大規模な普及を妨げている。すでに量産化されている二足機甲を、根本から置き換えることはできない。
帝国の指導者たちが見物したいというのなら、秉核は彼らに見せるための派手な方法を用意した。秉核は三種類の動力システムを設計した。第一はガス発生器、第二は水炭スラリーボイラー、第三は水炭スラリーを加熱・水素添加する多段階工程による、石炭液化後の内燃機関システムである。蒸気機関の構造については、わざわざ作る価値はないと秉核は判断した。
平凡すぎて、審査を通過できないからだ。
……
秉核がぼやく。
「帝国の高官たち、見てくださいよ、私は一気に三つの実験成果を出しましたよ。天才的でしょう?(実は石炭から油への変換とディーゼル車両の技術ツリーだけが価値があるんですが)これを地球上で二十世紀の無能な指導者や、ナノコンピュータ占いを信じる『疑似科学』で大衆を騙す連中に見せたら、科研費を三倍も申請できるだろうに」
ナレーションがぼやく。
「技術審査は、公開条件下で専門家によって行われる。最先端技術は、どれに開発価値があるかが確定する前に、専門家が体系的に調査して評価する。外部の人間は熱狂の度合いで指図するものだ」
「しかしニュースや世論で目立つのは、多くの者がまったく理解もしていないのに理解したふりをして、最先端技術に指図する姿だ。世論の大勢の中で、こうした天下に指図する人々の九十%は、少しも調査していないくせに、技術者の研究に対して無責任に世論の判決を下す勇気がある」
「民衆もそうなら、指導層もそうだ。技術者は予算を取るために、いくつもの案を並べて自分の研究を包装せざるを得ない。社会の九十%の人間は技術界を見下して指図するのが好きで、そのくせ関連技術の基礎知識を学ぶ時間と労力を割くのが本当に面倒なのだから」
……
秉核は確かに擎山をはったりで圧倒した。
その日の午後、擎山は四時間かけて工場をひと巡りすると、電報送受信室へ行き、暗号電報を一通送った。
宛先は、帝国南方陸軍司令部だった。




