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帰向  作者: 凛光穂
第四巻 赤子の純を欺くな、謀を弄び信を失い、良き人を測り難し

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知謀と樹信 その三

 手にした飛行艇が極めて重要だと確信した城透(ジョウトウ)は、秉核(ヘイカク)がまだ予備の飛行艇を持っていないか気にしていた。もし秉核(ヘイカク)にもう一隻あれば、計画全体に大きな変数をもたらしかねなかった。


 ハヴィナの一件ですでに頭を悩ませていた城透(ジョウトウ)は、秉核(ヘイカク)の側でさらなる変数が生じることを望んでいなかった。


 浮冰の比索(フヒョウのビソ)は城透(ジョウトウ)の問いかけにうなずいて答えた。「彼の手元にもう飛行艇はありません。すべての水素ガス缶も運び出されました」


 城透(ジョウトウ)はうなずき、「君が彼を見張り、事変が起きたら、工場から安全に彼を連れ出すように」と命じた。


 比索(ビソ)はうなずいたが、砂盤に示された蘇塔(スータ)の必死の撤退ルートを見て、忍びない気持ちで尋ねた。

「どうしても、ここまでしなければならないのですか?」


 城透(ジョウトウ)は顔を上げ、軽く鼻を鳴らした。「これが政治というものだ、比索世子(ビソセイシ)。貴方は帝国の貴族なのだから、帝国の利益こそ最優先に考えるべきです」


 数時間後、まずオーカ(オーカ)人の船長が慌てて蘇塔(スータ)の駐屯地へやって来た。そして慌ただしい口調で、蘇塔(スータ)の側近騎士長に告げた。「事態が変わりました。オークリー人は各方の使者を軟禁しようとしています。蘇塔殿下(スータでんか)を、この危険な場所から一刻も早く連れ出す必要があります」


 数十キロ離れた場所で、一台の馬車がオークリー宮殿の門前に止まった。布衣をまとったハヴィナが慌ただしく馬車を降り、カールを見つけた。大理石の廊下をよろめくような足取りで歩み、カールと会うと、少女はひどく動揺した様子で衝撃的な情報を伝えた。「オーカ(オーカ)人が蘇塔(スータ)を連れ去ろうとしているようです。何か陰謀を企んでいるかのようだ」


 ハヴィナの言葉には一切の虚偽がなかったが、嘘はときに言葉ではなく表情でつかれるものだ。ハヴィナの過度に慌てた表情と心配は、カールに、オーカ(オーカ)ーの行動を深刻な敵対行為と判断させた。同時に、無意識のうちに、ハヴィナもオーカ(オーカ)ー人に脅迫されている現在の味方(オークリー側)だと判断させた。

 この愛に目をくらませた判断は、間違いなくカールの人生最大の判断ミスだった。


 もともと、美しい女性の口から出る嘘は、信憑性が一段階上がるものだ。しかし今回、ハヴィナはまったく嘘をついていなかった。


 そのためカールは、後で考え直し、騙されたと気づいた後でも、女性の立場に立って彼女のために考え、「あの時は仕方なかったのだろう」「事情を知らなかったに違いない」と思い込んでしまう。潜在意識がハヴィナを弁護するのだ。——これは見た目の世界なのだ。


  ……


 数時間後。機械工場の塔の上に秉核(ヘイカク)が立っていた。


 静かに俯瞰の視点を展開する。全体図の情報は透明になる。

 一人ひとりの行動が視界に現れれば、陰謀もまた随分とつまらなくなる。


 秉核(ヘイカク)は陰謀の過程を理解する必要などなかった。策謀者の目的と、各勢力の心理的な弱点。それだけで状況をほぼ読み解いていた。


 オークリー人の最大の弱点、それは傲慢さだ。その傲慢さのなかには、臆病さも潜む。大国としての地位を失うことへの恐れ。この臆病さが不安を引き起こす。


 普段ならば、理性がまだ傲慢を抑えつけている。だが突発的な状況では、理性は忘れ去られる。行動は完全に感情に駆り立てられる。


 カールは非常に若かった。短時間で物事をあまりに全面的に考えることなど、不可能だ。オーカ(オーカ)人が蘇塔(スータ)を解放したと知ったとき、彼が最初に下した命令は、周辺の部隊にまず人を阻止させることだった。


 だからカールは、この命令を下すとき、下の貴族たちがどのような感情でそれを実行するかを顧みなかった。この感情の隙が、ちょうどオーカ(オーカ)人のスパイに利用される。阻止が殺害に変わる可能性があった。


 オックリー人が殺害に成功しなくてもかまわない。殺害行為に及べば、オーカ(オーカ)人が蘇塔(スータ)の死を補完し、事実として確定させる。

 世界の他の人々が、オーカ(オーカ)人がこのすべてを計画した証拠を見つけられなければ、カールが濡れ衣を着せられることになる。


 屋根の上で、秉核(ヘイカク)は領域を使った。蘇塔(スータ)を乗せた馬車が遠ざかる方向を、観察していた。


 秉核(ヘイカク)は幽かに言った。

「あなたたちの大計画では、何も間違っていなくても、死ななければならない人がいる。これは理にかなっていると思うか?」


 秉核(ヘイカク)は突然、腰から銃を抜き、左側へ乱射した。

 銃口から、眩しい黄色い炎が噴き出す。


 弾丸は左側の煙突を薙ぎ払った。

 ずっとしゃがみ込んでいたフクロウは、不意を突かれ、突然の弾幕に粉砕される。

 金属製の薬莢が銃から排出され、チリンチリンと瓦の上を転がり落ちた。やがて建物の下へ消えていった。

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