知謀と樹信 その三
手にした飛行艇が極めて重要だと確信した城透は、秉核がまだ予備の飛行艇を持っていないか気にしていた。もし秉核にもう一隻あれば、計画全体に大きな変数をもたらしかねなかった。
ハヴィナの一件ですでに頭を悩ませていた城透は、秉核の側でさらなる変数が生じることを望んでいなかった。
浮冰の比索は城透の問いかけにうなずいて答えた。「彼の手元にもう飛行艇はありません。すべての水素ガス缶も運び出されました」
城透はうなずき、「君が彼を見張り、事変が起きたら、工場から安全に彼を連れ出すように」と命じた。
比索はうなずいたが、砂盤に示された蘇塔の必死の撤退ルートを見て、忍びない気持ちで尋ねた。
「どうしても、ここまでしなければならないのですか?」
城透は顔を上げ、軽く鼻を鳴らした。「これが政治というものだ、比索世子。貴方は帝国の貴族なのだから、帝国の利益こそ最優先に考えるべきです」
数時間後、まずオーカ人の船長が慌てて蘇塔の駐屯地へやって来た。そして慌ただしい口調で、蘇塔の側近騎士長に告げた。「事態が変わりました。オークリー人は各方の使者を軟禁しようとしています。蘇塔殿下を、この危険な場所から一刻も早く連れ出す必要があります」
数十キロ離れた場所で、一台の馬車がオークリー宮殿の門前に止まった。布衣をまとったハヴィナが慌ただしく馬車を降り、カールを見つけた。大理石の廊下をよろめくような足取りで歩み、カールと会うと、少女はひどく動揺した様子で衝撃的な情報を伝えた。「オーカ人が蘇塔を連れ去ろうとしているようです。何か陰謀を企んでいるかのようだ」
ハヴィナの言葉には一切の虚偽がなかったが、嘘はときに言葉ではなく表情でつかれるものだ。ハヴィナの過度に慌てた表情と心配は、カールに、オーカーの行動を深刻な敵対行為と判断させた。同時に、無意識のうちに、ハヴィナもオーカー人に脅迫されている現在の味方(オークリー側)だと判断させた。
この愛に目をくらませた判断は、間違いなくカールの人生最大の判断ミスだった。
もともと、美しい女性の口から出る嘘は、信憑性が一段階上がるものだ。しかし今回、ハヴィナはまったく嘘をついていなかった。
そのためカールは、後で考え直し、騙されたと気づいた後でも、女性の立場に立って彼女のために考え、「あの時は仕方なかったのだろう」「事情を知らなかったに違いない」と思い込んでしまう。潜在意識がハヴィナを弁護するのだ。——これは見た目の世界なのだ。
……
数時間後。機械工場の塔の上に秉核が立っていた。
静かに俯瞰の視点を展開する。全体図の情報は透明になる。
一人ひとりの行動が視界に現れれば、陰謀もまた随分とつまらなくなる。
秉核は陰謀の過程を理解する必要などなかった。策謀者の目的と、各勢力の心理的な弱点。それだけで状況をほぼ読み解いていた。
オークリー人の最大の弱点、それは傲慢さだ。その傲慢さのなかには、臆病さも潜む。大国としての地位を失うことへの恐れ。この臆病さが不安を引き起こす。
普段ならば、理性がまだ傲慢を抑えつけている。だが突発的な状況では、理性は忘れ去られる。行動は完全に感情に駆り立てられる。
カールは非常に若かった。短時間で物事をあまりに全面的に考えることなど、不可能だ。オーカ人が蘇塔を解放したと知ったとき、彼が最初に下した命令は、周辺の部隊にまず人を阻止させることだった。
だからカールは、この命令を下すとき、下の貴族たちがどのような感情でそれを実行するかを顧みなかった。この感情の隙が、ちょうどオーカ人のスパイに利用される。阻止が殺害に変わる可能性があった。
オックリー人が殺害に成功しなくてもかまわない。殺害行為に及べば、オーカ人が蘇塔の死を補完し、事実として確定させる。
世界の他の人々が、オーカ人がこのすべてを計画した証拠を見つけられなければ、カールが濡れ衣を着せられることになる。
屋根の上で、秉核は領域を使った。蘇塔を乗せた馬車が遠ざかる方向を、観察していた。
秉核は幽かに言った。
「あなたたちの大計画では、何も間違っていなくても、死ななければならない人がいる。これは理にかなっていると思うか?」
秉核は突然、腰から銃を抜き、左側へ乱射した。
銃口から、眩しい黄色い炎が噴き出す。
弾丸は左側の煙突を薙ぎ払った。
ずっとしゃがみ込んでいたフクロウは、不意を突かれ、突然の弾幕に粉砕される。
金属製の薬莢が銃から排出され、チリンチリンと瓦の上を転がり落ちた。やがて建物の下へ消えていった。




