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帰向  作者: 凛光穂
第四巻 赤子の純を欺くな、謀を弄び信を失い、良き人を測り難し

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信頼を築く その一

 カールは今年十七歳。まだ何にでも好奇心を向ける年頃だった。


 工場の空き地で、秉核(ヘイカク)は長さ三十メートルの水素飛行船を宙に浮かべた。

 二十キログラムのバックパック型無線装置で操る。

 八百メートルの高さからのデモンストレーションだった。


 この王選者の注意は、すっかりこの新奇なものに引きつけられていた。昨日空へ上がった花火についても、カルは簡単に尋ねただけだった。ただのロケット弾の試作品だと知ると、それ以上は問いたださなかった。


 飛行船の性能を確かめた後、カルは軍事貴族らしく、その目は鋭かった。

 この飛行船がカメラを載せた偵察機能や、爆弾投下の攻撃機能を備えていると見抜いたのだった。


 カルは大陸の軍事装備に詳しかった。だがこれまでこのような兵器を聞いたことがなかった。新しく、軍事革命を引き起こしかねないものだと確信した。


 もちろん、大陸の新たな軍事装備が機械制御者と機械師の才能にかかっていることも、カルは知っていた。


 そのため、カルは秉核(ヘイカク)に強い興味を抱いた。


 礼儀正しく賢者を敬う彼は、秉核(ヘイカク)の好みを熱心に尋ね、さらに招待の意を伝えてきた。


 工場の入口で、カルは胸の家紋のバッジを秉核(ヘイカク)に手渡した。

「融鋼の機械制御者よ、今日お会いできて本当に幸運です。この王選が終わった後も、長くお会いできればと願っております」


 カルは招待状を差し出した。秉核(ヘイカク)は微笑んで頷いた。

「機会があれば必ず貴家へ伺います」

 そう答えながら、心の中では「その機会はまずないだろうが」とつぶやいていた。


 群騰・カル(グントウ・カル)を追い払うと、秉核(ヘイカク)はほっと一息ついた。どうやら昨日の花火事件はうまく切り抜けられたようだ。秉核(ヘイカク)は空中飛行艇のパラメーターを心の中で繰り返す。飛行高度八百メートル、積載量六十キロ、基地局との通信範囲内で二十キロの巡航が可能。だが実際には、秉核(ヘイカク)の心には別の数値があった。飛行高度千メートル、通信範囲八十キロ。(注。これは秉核(ヘイカク)の現在の技術基盤で達成可能な数値である)


 秉核(ヘイカク)は化学工場(作業場)から出て、自分の部屋のドアを開けた。またもや比索(ビソ)が、勝手に自分が作った模型を手に取っていじっているところだった。


 これらの模型は秉核(ヘイカク)が退屈しのぎに作った武器の模型で、ガラスケースの中に並べてあった。戦艦の模型、戦車の模型、それに最新式の飛行船の模型まである。まるで前世でフィギュアを集めていた頃のようだ。秉核(ヘイカク)は念入りに封印を貼り、自分の棚に収めていた。

 そして今、両側に機銃を備えたその飛行船模型から、比索は機銃のパーツを一つ取り外した。

 手に取ってじっくり眺めていた。


「トントントン」


 秉核(ヘイカク)はドアを叩き、自分の物を元に戻すよう促す。


 しかし比索は機銃のパーツを模型に戻しただけで、元の位置には戻さなかった。

 軽くため息をついて言う。

「ようやくあの野郎(カル)を送り出したか」


 秉核(ヘイカク)は答えた。

「ああ、もう大丈夫だよ。君たちは大げさすぎるんだ。ほら、何も大したことじゃないだろう!」


 比索は秉核(ヘイカク)を見て言った。

「どうして大袈裟だなんて言えるんだ」


 彼は秉核(ヘイカク)の飛行船モデルを掲げた。

「俺の天才機械技師さん、君がどれほど素晴らしいものを作ったか分かってないのか?」

 大げさな口調だった。


 同時に比索は悔しそうに言う。

「君がこんなものを作るつもりだと知っていたら、オークリー人の審査に対応させたりなんかしなかったのに」


 秉核(ヘイカク)が即席で最初の水素飛行船を作り上げたのは、ついさっきのことだった。だから城透(ジョウトウ)と比索は、秉核(ヘイカク)がカールと一緒に飛行船を飛ばすのを見て、はじめて秉核(ヘイカク)が工場で新しいものを設計していたことを知ったのだ。


 秉核(ヘイカク)が持ち出した空中飛行船は、城透(ジョウトウ)の計画にはなかったものだった。十キロの範囲の地面を空から制御できるこの装置は、城透(ジョウトウ)の計画が求める範囲をはるかに超えている。理性的に言えば、城透(ジョウトウ)の計画が成功する確率をより確実にしたとも言えた。


 しかし城透(ジョウトウ)は、何かを得てはまた失うような、そんな漠然とした心持ちを抱いていた。秉核(ヘイカク)の才能が貴重であればあるほど、この異国の地で城透(ジョウトウ)は、貴重な磁器を手にした給仕人のように、何かを台無しにしてしまうのではないかと常に気を揉んでいた。そのため城透(ジョウトウ)は比索に秉核(ヘイカク)を守るよう命じた。


 秉核(ヘイカク)はそんな比索の笑顔を見て、何も言わなかった。


 秉核(ヘイカク)が黙り込むと、比索は乾いた笑いを浮かべて言った。

「君がこんなに静かだと、どうも落ち着かないな」


 秉核(ヘイカク)が口を開いた。

「無線の制御コードが必要なのか?」


 比索は「やはり君は察しがいい」という笑みを浮かべ、頷きながら言った。

「ああ、各飛行船の無線制御システムには独自の暗号化機能がある。君の設計は本当に天才的だ」


 秉核(ヘイカク)は少し間を置く。

「渡してもいいが、ただし……」


 秉核(ヘイカク)は湖のように静かな瞳で比索を見つめた。

 ゆっくりと問いかけた。

「僕がこうすることを、後で後悔しないだろうか?」


 秉核(ヘイカク)の視線を受け止めた比索の笑顔は少し硬かった。それでも無理に笑みを作って「融鋼(ユウコウ)、君は?」と言った。

 だが、口にした言葉が嗄れていることに気づく。

 特に気まずさは感じていなかったが。


 秉核(ヘイカク)は厳しい表情を笑顔に変えて言った。

「後悔するわけないだろう?よし、コードは君にやる。ただし金は一銭たりとも減らせないぞ」


 比索は胸を叩き、秉核(ヘイカク)を指差して言った。

「てっきり君が渡さないのかと思ったよ。びっくりさせないでくれよ。よし、よし、君の言葉を聞いて安心した。俺は先に行くよ。ああ、そうだ、あのカールのことだけど、君、彼とはあまり近づかない方がいい。彼の君を見る目は露骨な占有欲だぞ。さっきは彼が君を食い物にしそうで心配だったんだ」


 秉核(ヘイカク)はうんざりしたように手を振った。

「早く帰れ。」


 比索は笑いながら部屋の窓から飛び降り、秉核(ヘイカク)が作った飛行船モデルもついでに持ち去っていった。


 十分後。秉核(ヘイカク)は廊下から大量の鋼材を引き出し、部屋の窓を防犯窓に溶接しはじめた。


 すべてを終えると、部屋に座った秉核(ヘイカク)は飾り棚の置物が一つ欠けたスペースを見つめ、ため息をついた。

 作品が消えたことを嘆いているようでもあり、また別の何かを嘆いていた。


 ―――――

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