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帰向  作者: 凛光穂
第四巻 赤子の純を欺くな、謀を弄び信を失い、良き人を測り難し

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成功の喜びと良心の責務 その一

 列車はゆっくりとヴィクラ地方へ入っていった。


 その間、秉核(ヘイカク)は車両の屋根で風に当たっていた。閉じ込めても秉核(ヘイカク)を抑えることはできない。粘り強く試すうちに、秉核(ヘイカク)はろうそくの燃焼熱を利用し、屋根の天窓のネジを熱膨張と冷収縮で緩めて、ついに天窓を丸ごと開けることに成功した。そして秉核(ヘイカク)は再び屋根の上に立ち、威張っていた。


 オークリーに入ってから、秉核(ヘイカク)はこの街を絶えず観察していた。今の秉核(ヘイカク)の視点は不思議なものだった。車の屋根の上で秉核(ヘイカク)が両手を捧げ持つと、逆さに斜め上方へ伸びる光の円錐が目の前に現れた。その先端はひどく鮮明で、秉核(ヘイカク)の胸を指し示していた。

 しかしよく見ると、その光の円錐は体積が非常に大きいらしく、上方へ向かう尾部は上空で散らばっているために確認できなかった。


 これは秉核(ヘイカク)がこれまでに習得したどの新魔法よりも出力の大きい魔法だった。


 そしてこの時、秉核(ヘイカク)の顔や首、体、四肢には、左右対称に発光する線がびっしりと浮かび上がっていた。これらの線は法脈が高出力で働いている証だ。秉核(ヘイカク)の光の回路は胸の中央を対称の中心とし、その中心はちょうど光の円錐が指し示す位置と重なっていた。


 これほど大規模な法脈の線条が、高出力のまま持続的に光を放っている。法脈のエネルギー供給が非常によく釣り合っているだけでなく、絶妙な安定状態に達している証だ。

 これほどの安定性は、これまで要塞職にしか見られなかった。


 秉核(ヘイカク)のこの垂直上向きの光円錐は領域である。領域は本来、目に見えるものではない。いま外界から光円錐が見えるのは、秉核(ヘイカク)の領域が光線を掌の上に集束させているからだ。


 現在秉核(ヘイカク)が領域を備えているからといって、すでに要塞になったわけではない。

 ちょうど入口の敷居に立ったばかりなのだ。


 砦の伝統を継ぐ家系の若者――砦を目指して挑む青年は、砦になろうとする過程で臨界期を迎える。

 臨界期には、ごく小さな領域現象が現れる。体の一部の法脈が微妙なバランスに達したときの現象だ。

 この時、体のより多くの法脈がバランスに達すれば、領域は拡大していく。


 それが数百メートルにまで拡大したなら、その若者が晴れて真の砦職になったことを祝福していい。


 しかし臨界に達した若者のうち、四分の三以上は、体のより多くの法脈を微妙なバランスに保てず、臨界領域は数十メートルどまりで止まってしまう。


 臨界期が長すぎれば、彼らはこれ以上は進めないと悟り、やがて諦める。

 そして高等狙撃者を目指す方向へ努力を向け、細かなバランスなど気にしなくなる。

 法脈は三十五歳までに性質が決まる。劣った領域のために、中位高等職業者になるのを遅らせるわけにはいかない。


 そして完全に諦めた後、臨界領域はたちまち完全な不均衡へ崩れて消えてしまう。

 だから臨界領域を持つ職業者を、独立した一つの分類と見なすことはできない。彼らは一時的な存在なのだ。


  ……


 秉核(ヘイカク)は、絶え間ない設計と消しゴムでの修正を重ね、ついに臨界領域に到達した。しかも今年、秉核(ヘイカク)はまだ十五歳になっていない。

 大陸中が驚愕するような、極めて若い年齢である。


 ただし秉核(ヘイカク)の法脈は、伝統的な狙撃者を基礎とした要塞ではない。絶え間ない実験の末、機械制御者を基礎として積み上げられたものだ。


 この領域の特徴は非常に奇妙だ。伝統的な要塞の領域は球状で、半径は数百メートル。一方、秉核(ヘイカク)の領域は垂直の柱状で、幅は二十数メートルしかない。

 高さはすでに四百メートルに達している。


 領域が高所からの視点の光を伝えると、秉核(ヘイカク)の掌の光の円錐により、秉核(ヘイカク)は二十キロの範囲を見渡せた。

 二十キロ先も多少は見えるが、解像度は三、四メートルしかない。そこにいる人や動物を見分けることはできない。


 秉核(ヘイカク)はこの時、他の要塞の領域感知がどうなっているかを知らなかった。ただ漠然と、これが領域なのだと理解していた。車両の上にいる秉核(ヘイカク)はひどく興奮していた。だがその興奮を誰にも話せず、胸の内に溜め込んだまま、何かせずにはいられない気持ちでいっぱいだった。


 秉核(ヘイカク)は周囲の農地を見渡した。

 この地方の農業は普惠スよりもはるかに進んでおり、畜産業が非常に盛んだった。


「モー」という低く響く声が、列車の左側から聞こえてきた。大群の牛が列車に沿って走り出し、屋根の上に座る秉核(ヘイカク)をじっと見つめていた。牛たちには、なぜ人が車の上に座っているのか分からなかった。秉核(ヘイカク)は自分を見つめる牛たちを見返し、一瞬呆然とした。そして口元にいたずらっぽい笑みを浮かべる。


 秉核(ヘイカク)はすぐさま身を翻して車内に入った。十秒も経たないうちに、赤いテーブルクロスを引きずりながら屋根へ戻ってくる。屋根の上でそれを振り回すと、揺れる布が牛の群れの注意を引いた。線路脇で草を食んでいた牛たちは一斉に頭を上げ、そろって歩き出し、列車を追いかけてきた。「プハッ」と秉核(ヘイカク)は腹を抱えて爆笑し、ますます力いっぱい赤いテーブルクロスを振り続けた。


 ―――――

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