神賜時代の遺産 その一
ビックスの海風が吹き抜ける波止場で。
秉核は小さな水兵の服を着て、波止場の柵にまたがっていた。4メートルもある木製の柵も、秉核にとっては階段を一段上がるようなものだった。
そして、そのすぐ傍らには――
蘇塔は柵のそばに立っていた。貴族の品格を損なうような行動は一切取らなかった。ビックス大公家のしつけが行き届いているのだ。
高いところにいた秉核は、埠頭の巨大な物体を目を丸くして見つめていた。
思わず、下で柵にもたれかかり足を組んでいる蘇塔に声をかけた。
「あれは何だ?」
蘇塔は答えた。
「海生の魔鉱獣だよ」
秉核はぽかんとした。
「え?魔鉱獣?」
蘇塔はうなずいた。
「そうだよ。あれ?どこへ行くの?」
蘇塔は、秉核が柵を飛び越え、まるで手綱を切った馬のように、500メートル先で蒸気機械が轟音を立てている区域へ走り出すのを見て、思わず叫んだ。
この光景を目の当たりにした蘇塔は、秉核に向かって声を張り上げた。
秉核は蘇塔の叫び声を聞いても足を緩めなかった。
ただ振り返り、「ちょっと見てくるから、ついて来ないで」と応える。
……
秉核は海岸の賑わう場所へ駆け出した。
轟音を立てて行き交う履帯式の蒸気車両を巧みにかわしながら、目当ての目標へ近づいていく。
海岸線に広がる2ヘクタールの空き地。そこには島のような巨大な亀が横たわっていた。これほどの巨大な海獣は、秉核の知る常識を超えていた。
それは今や小さな山のように海岸線へ引き上げられていた。
巨大な島亀の縁まで来ると、秉核は慣れた手つきでよじ登り、粗い甲羅の上に足を踏み入れた。
「一歩、二歩、三歩……」
秉核は歩きながら、海から引き上げられたばかりの巨獣の大きさを測っていた。
甲羅の直径は120メートル、最も厚い部分で36メートルあった。
表面が粗い岩のように硬化した甲羅の頂上に立っていた。
秉核は心の中でつぶやいた。
「この巨亀は、いったいどんな動力でこんなに厚い甲羅を進化させたんだ?」
傍らで作業していた労働者が、巨大な甲羅の上にぼんやり立つ小さな人影を見つけると、すぐに怒鳴った。
「おい、そこの小僧、降りろよ。邪魔だ、これから爆薬を仕掛けるんだ」
……
20分後。
ゴォゴォゴォ、と蒸気機関車がやって来て、幅広いキャタピラが波止場の防波堤を踏みしめていく。
蒸気車の上部に据えられた超大型ドリル(地球で道路を破壊するあの種類)が、機械腕の動きに合わせて亀の甲羅に穴を開け始めた。
カンカンという金属の衝突音とともに、亀の甲羅にひびが入った。
穴あけ作業が終わると、機械車は甲羅の反対側へ移っていった。
50メートル先。
耳を塞いだ秉核は、小山のような巨亀の甲羅に衝撃ドリルで穴を穿つ機械ドリル車を、好奇心いっぱいに見つめていた。
ドリルで穴が開いても血の匂いはせず、甲羅のひび割れから血が流れ出すこともなかった。
この時、数メートル離れた場所で2人の港湾労働者が雑談していたが、秉核の行動には気づかなかった。
彼らはいつものように冗談を交えつつ、自分たちの船隊が海上で何に遭遇したかを自慢していた。
ある親方風の男が酒瓶を一口あおった後、感慨深げに言った。
「魔鉱亀はどんどん大きくなっている。祖父の時代には、最大の魔鉱獣でも体長100メートルしかなかった。今回のは6隻の船で砲撃して、ようやく甲羅を貫通できた。あと数年したら、また新しい捕獲砲に交換しなければならないだろう」
秉核は、傍らの会話がこの海生の魔鉱獣についての話だと気づいた。
すぐに耳を塞ぐのをやめ、振り返って彼らの話に聞き入った。
秉核はその港湾の親方の前へ走り寄った。
この波止場の親分は、突然飛び出してきた秉核に驚いた。最初は目の前の子供を叱りつけて追い払おうとしたが、秉核の容貌と、粗末な布の服の下に着ている上質な綿絨の服を見て、どこかの御曹司かもしれないと気づいた。
秉核は笑みを浮かべ、言葉を失っている親方に尋ねた。「親方さん、海生魔鉱獣がどんどん大きくなっているということは、大昔はとても小さかったんですか?」轟音の響く騒がしい環境で、秉核は集音術を使い、それでも親方の耳にはっきり届く穏やかな調子で話した。
この作業班長は説明した。
「坊ちゃんの推測どおり、千数百年前には石臼ほどの大きさで、千年前には北海の海岸の埠頭で日光浴をしていました。しかしここ数百年で彼らの体はますます大きくなり、もはや岸に上がることはなく、海に浮かんでいます。春には島のように浮かび上がり、秋には海底に沈んで影も形もなくなります」
これらの話を聞いて、秉核は考え込み始めた。
「あらゆる生命の変化は、必要に応じて変化するものだ」
地球で体積がある程度大きい巨獣は、その大きさゆえに天敵から逃れられるため、防御用の甲羅を進化させない。
過大な防御は動きに響き、餌を探す範囲にも影響するからだ。
しかし人間のような外部からの干渉に直面すると、巨大な体躯は殺されるのを防げず、最も直接的な進化の方向は防御ではなく体躯の縮小となる。
たとえば地球のアフリカゾウは、銃を持った密猟者に遭ってから、わずか数百年で背が低くなり始めた。
海で見られるこの状況は生物学の常識に反しており、非常に奇妙に見える。
秉核が考え込んでいると、そばの現場監督が腰を屈めて秉核に言った。
「坊ちゃん、すぐに爆薬を仕掛けて爆破しますので、いったん現場から離れていただけますか」
……
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