クリス半島の秘話、繁栄するビックス その二
秉核は聖ソーク天体塔の図書館で、ある資料を目にした。
その資料には、前々代の|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》がオークリー大公の小心さを知って激怒したことが記されていた。伝えられるところでは、二人はかつて親友だったが、その後は完全に縁を切り、生涯交わることはなかったという。
これらの前々代|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》の怒りの記録が真実かどうか、二人の間に友情があったかどうかは定かでなく、秉核は保留の態度を取っている。
しかし歴史的な事実として、聖ソークは盟約を顧みずに先手を打ち、クリス半島を強奪した。
しかも半島を占領した後も手を引かず、軍事的常識に反して孤立した部隊を率いて北上を続け、まるで激怒して釈明を求めるかのような様子だった。
結局、先々代の|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》の軍隊は、オークリー大公が急遽組織した連合軍に敗れ、クリス半島へ撤退せざるを得なかった。もちろん、先代のオークリー大公も特段の利益を得ることはなかった。
……
軍事衝突の結果は、次のとおりだ。
半島戦役が終結すると、内部に矛盾を抱えた反オーカー連盟は解散した。
しかし実際には、聖ソークは戦略目標を達成し、オーカーが東部戦線で足場を失うことを阻止していた。
西大陸地中海地域の東部で、独占的な地位を維持することに成功した。
聖ソークは二百年以上にわたり、北方のヘイラ人という脅威に集中するだけでなく、余力をもって大陸の他国の内政に介入し、「国際憲兵」の称号を得ていた。
一方、前代のヒーマン人の盟主だったオークリー大公は、大国の政治の中で、生涯を臆病に過ごすことを余儀なくされた。
……
列車の屋根に座って風に当たりながら、秉核は二百七十年前の戦争を思い、感慨無量になっていた。
後ろへ流れていく田野を眺めながら、銃焰の秉核は、ふと気が変わったように感慨深げに言った。「もしあの時クリス半島がオーカ人に占領されていたら、聖ソークにとって必ずしも悪いことではなかったかもしれない。聖ソークの外部環境は悪化したかもしれないが、国内の問題は圧力のもとで片づいたかもしれない」
……
十一時間後。
列車はビクスに到着した。
ここは海沿いの都市だった。
銃火の焔を帯びた秉核は、窓越しにこの公国の境界線を見た。秉核は列車の天窓を開けて車両の屋根に立ち、この辺境の都市を驚きの目で見渡した。
この国は実に独特で、壮大な城壁が三万平方キロメートルの領土をすっぽりと囲んでいる。
城壁の平均高さは二十メートル、全長は四百キロメートル。
六つの丘陵を貫いて走り、それぞれの丘陵の頂には壮麗な城が築かれている。
これら六つの城が載る丘の頂はひどく平坦で、神賜時代に削られたのだと言われている。
ビックス公国は後にその山体に要塞を築いた。
ビックス公国が外の世界と結ばれている鉄道は、わずか十五路線しかない。
そのうち十二条は山の近くを通っており、つまり山頂の要塞の火力が完全に及ぶ範囲内にある。
残りの三条は、天然の川に架かる橋を渡るものだ。
山と山の間には、長城のような高い壁が築かれている。
この城壁は蒸気暦の始まりに着工され、二百年をかけて完成した。
このやり方には、秉核もビックス公国は実に才能があるとしか言いようがなかった。
壁を築いて国ごと囲んでしまうとは。
……
なぜオーカ帝国がこの公国をこれほど安心していられるのか、秉核はようやく理解した。
この国の国民には、外へ拡張する余地などない。
拡張は利益に駆られた人心が原動力だからだ。
ビックスのこの輝かしい壁は、国境だけでなく、人々の心の中にも築かれているのだった。
ビックス周辺では、壁内の産業と壁外の産業とで市場価格が数倍も違う。
壁内の産業には安心感があり、価値を保てるからだ。
一方、壁外の地域には、どれほど大軍が駐留して安全を確保していても、ビックス人は投資しようとしない。
ビックスの民謡にこう謡われている。
「壁内の寝台一枚を選べど、壁外の家一軒は要らぬ」
ビックスの国民的富の観念は壁外を低く見ている。
だから、たとえ大貴族が壁外で軍事拡張を行い、初期の成果を上げたとしても、その成果は世論では賞賛されても、壁内で現金に換えることはできない。
民衆は壁外への懸念から、壁外で生産し家業を築こうとはしない。大商人や大貴族も同じで、壁外への投資で国民から金を稼ぐことはできず、ビックス大公の外部拡張政策を支持することもできない。
……
歴代のビックス大公の中にも、開拓の心を持つ若者が登用されたことがある。しかし、結局はすべてうやむやに終わった。歴代のビックス大公に、壁を壊す胆力はなかった。
ビックス国内の諸勢力にとって壁を壊すことなど不可能であり、たとえ公爵様が壁を壊そうとしても、それは国民全体の意志に逆らうことだった。
もちろん、今の情勢で壁を壊すことが良い政策とは言えない。
この不穏な大陸の政治情勢の下では、城壁を取り壊し、対外政策を調整することは、隣接する強国に脅威を抱かせることになる。
ビックスは十年と経たずに近隣の強国に侵攻され、併合されてしまうかもしれない。
……
列車が城壁の入り口を通過する時。
分厚い城壁の門を抜けると、目の前に壮大な光景が広がった。
ビックスの領地は整然と区画されていた。
四角い田畑では磨き上げられた蒸気機械が種をまき、各所に設けられた大きな水利システムのコンクリート塔が水路の水量を合理的に配分していた。
この土地には鉄道だけでなく、密集した道路網もあった。
見渡す限り、その道路網の上を蒸気自動車がのんびりと走っている。
平坦で秩序ある平原からは、蒸気と煙が活気にあふれて立ち上っていた。
ここは並外れて繁栄した国だった。
ここは秉核がこれまで見てきた中で、最もよく整備された国だった。
「ここは蒸気時代のユートピアだ」と秉核は言った。




