クリス半島の秘話、繁栄するビックス その一
汽笛の轟音の中。
汽車の蒸気シリンダーがリズミカルに機関車の車軸を押し、『ドン、ドン、ドン』という次第に速くなる響きとともに出発した。
今回オーカ帝国がビックス公国へ派遣した列車は全部で六編成、前後の二編成は装甲列車だった。
装甲列車に搭載された百ミリの正義は、襲い来るいかなる敵をも懲らしめることができた。
小規模な装甲部隊も例外ではない。
秉核は汽車の屋根に登り、列車の周りに広がる広大な野原と、背後へ徐々に遠ざかっていく都市群を眺めた。脳裏には、オーカの星塔にある最高図書館で見たあの精密な軍事地図が浮かんだ。
銃焰秉核は、戦略的な視点に立ち始めていた。
……
この時代の軍事技術の大半は、第一次世界大戦期に近い科学技術水準に達していた。
もちろん化学工業の面では第一次大戦より遅れており、この世界では依然として硝石鉱床に頼って弾薬を製造していた。
聖ソーク帝国は西大陸の東部に、数でいえばオーカール帝国と同等かそれ以上の装甲部隊を維持していた。
しかし秉核は理解していた。オーカール帝国は生産能力の優位を生かしきれていないのだ。オーカールの装甲部隊が主に無限軌道式の機械なのに対し、聖ソークの装甲は二足歩行型の機甲が主流だった。
一個装甲旅団の無限軌道車両が砲撃で壊滅しても、オーカール帝国なら工場からわずか三ヶ月で補充できた。
一方、聖ソークの二足歩行機甲は、製造から調整までに一年半を要する。
もし装甲消耗戦になれば、聖ソークにはその余裕がない。聖ソークだけでなく、西大陸のどの国も、オーカールの鋼鉄の奔流に対抗する力はなかった。
……
秉核は、将来聖ソーク帝国がオーカとの軍事衝突に陥った時の結果を、完全に想像できた。それは、一度国力消耗の状態に入れば聖ソークは下降線をたどるということだった。
しかし現時点では、聖ソーク帝国の戦略はまだ非常に安全だった。
陸上では、オーカ帝国と聖ソークの間にいくつかの国家が巨大な緩衝地帯を形作っており、オーカ帝国は装甲部隊を聖ソークの国境線へ展開できない。
しかし海上にはリスクがあった。オーカ海軍が地中海東岸の海岸線でひとつの港を手に入れ、その港が装甲部隊の兵站補給を支えられるようになれば、聖ソークにとっては大問題となる。
しかし大陸では、二百七十年前に聖ソークがこのような危機を経験している。
……
「クリス半島」――汽車の屋根で風に吹かれながら、秉核はその地名を呟いた。
二百七十年前。
オーカ帝国が東大陸で全面崩壊してから十年後、同盟国であるプロイスがオーカ帝国に息をつく機会を与えた。
その頃の反オーカ連合も戦争で多くの資源を消耗し、次第に躊躇を見せ始めて、連合内部の結束は乱れていた。
当時、オークリー大公(半年前に死去したばかりの人物)が主導する連合には西大陸の大多数の国が参加しており、聖ソークもその一員だった。連合の最終段階で、聖ソークは最も早く連合を脱退し、突如クリス半島へ出兵した。
これが当時の反オーカ連合崩壊の引き金となった。
現在のオークリーの文書は、聖ソークが当時率先して裏切った行為を非常に憤慨して記しており、連盟崩壊の元凶だと考えている。
――しかし政治とは、一方の言い分だけを見れば偏りが出るものだ。
……
一方、秉核が聖ソーク天体塔で見た資料には、別の記述があった。秉核個人としては、聖ソークの資料のほうが真実味があると考えている。
当時のオーカ帝国はすでに衰退の底にあり、もはやどの方面にも脅威を与えておらず、しかもその抵抗はかなり頑強になっていた。
そこで当時の連盟は、オーカを完全に打ち倒すことも分割することもできないと気づいたのだ。
軍事同盟が、自国と同盟国に共通の脅威を感じさせる目標を失い、しかもすべての同盟国が戦争で利益を得られなくなった時、その軍事同盟はすでに継続の基盤を失っている。
当時の反オーカ連合はすでに権謀術数が渦巻いており、あとは解体のきっかけが欠けているだけだった。
前代のオークリー大公は後半生こそ善人だったが、当時は一流の陰謀家であり、自国の国力の状態をよく理解していた。戦争後期、この大公はオーカを殲滅できないと悟ると、オークリーの戦後利益を画策し始めた。
当時、オーカの地中海艦隊がまだ完全に追い出されていなかった頃、オークリー大公は東部戦線の緊張を口実に、クリス半島の防衛兵力を撤収させた。この大公の計画では、ロランド東側に位置するこの戦略的要衝をオーカに譲り渡すことで、オーカ艦隊の勢力を地中海東部に維持させ、東線で強大化するおそれのある聖ソークを牽制しようとした。
聖ソークが牽制されている間は、地中海のオーカ人という脅威が残るため、オークリー大公は中部で盟主の役割を維持し、戦後もその指導的立場を続けられる。
もしオークリー大公の計画が完成すれば、聖ソークには大陸の憲兵として活動する余力はほとんど残らないだろう。
……
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