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帰向  作者: 凛光穂
第四巻 赤子の純を欺くな、謀を弄び信を失い、良き人を測り難し

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クリス半島の秘話、繁栄するビックス その一

 汽笛の轟音の中。


 汽車の蒸気シリンダーがリズミカルに機関車の車軸を押し、『ドン、ドン、ドン』という次第に速くなる響きとともに出発した。


 今回オーカ(オーカ)帝国がビックス公国へ派遣した列車は全部で六編成、前後の二編成は装甲列車だった。

 装甲列車に搭載された百ミリの正義は、襲い来るいかなる敵をも懲らしめることができた。

 小規模な装甲部隊も例外ではない。


 秉核(ヘイカク)は汽車の屋根に登り、列車の周りに広がる広大な野原と、背後へ徐々に遠ざかっていく都市群を眺めた。脳裏には、オーカ(オーカ)の星塔にある最高図書館で見たあの精密な軍事地図が浮かんだ。


 銃焰(ガンフレイム)秉核(ヘイカク)は、戦略的な視点に立ち始めていた。


  ……


 この時代の軍事技術の大半は、第一次世界大戦期に近い科学技術水準に達していた。

 もちろん化学工業の面では第一次大戦より遅れており、この世界では依然として硝石鉱床に頼って弾薬を製造していた。


 聖ソーク(セイソーク)帝国は西大陸の東部に、数でいえばオーカ(オーカ)ール帝国と同等かそれ以上の装甲部隊を維持していた。


 しかし秉核(ヘイカク)は理解していた。オーカ(オーカ)ール帝国は生産能力の優位を生かしきれていないのだ。オーカ(オーカ)ールの装甲部隊が主に無限軌道式の機械なのに対し、聖ソーク(セイソーク)の装甲は二足歩行型の機甲が主流だった。


 一個装甲旅団の無限軌道車両が砲撃で壊滅しても、オーカ(オーカ)ール帝国なら工場からわずか三ヶ月で補充できた。


 一方、聖ソーク(セイソーク)の二足歩行機甲は、製造から調整までに一年半を要する。


 もし装甲消耗戦になれば、聖ソーク(セイソーク)にはその余裕がない。聖ソーク(セイソーク)だけでなく、西大陸のどの国も、オーカ(オーカ)ールの鋼鉄の奔流に対抗する力はなかった。


  ……


 秉核(ヘイカク)は、将来聖ソーク(セイソーク)帝国がオーカ(オーカ)との軍事衝突に陥った時の結果を、完全に想像できた。それは、一度国力消耗の状態に入れば聖ソーク(セイソーク)は下降線をたどるということだった。


 しかし現時点では、聖ソーク(セイソーク)帝国の戦略はまだ非常に安全だった。


 陸上では、オーカ(オーカ)帝国と聖ソーク(セイソーク)の間にいくつかの国家が巨大な緩衝地帯を形作っており、オーカ(オーカ)帝国は装甲部隊を聖ソーク(セイソーク)の国境線へ展開できない。


 しかし海上にはリスクがあった。オーカ(オーカ)海軍が地中海東岸の海岸線でひとつの港を手に入れ、その港が装甲部隊の兵站補給を支えられるようになれば、聖ソーク(セイソーク)にとっては大問題となる。


 しかし大陸では、二百七十年前に聖ソーク(セイソーク)がこのような危機を経験している。


  ……


「クリス半島」――汽車の屋根で風に吹かれながら、秉核(ヘイカク)はその地名を呟いた。


 二百七十年前。

 オーカ(オーカ)帝国が東大陸で全面崩壊してから十年後、同盟国であるプロイス(プロイス)がオーカ(オーカ)帝国に息をつく機会を与えた。

 その頃の反オーカ(オーカ)連合も戦争で多くの資源を消耗し、次第に躊躇を見せ始めて、連合内部の結束は乱れていた。


 当時、オークリー大公(オークリー)(半年前に死去したばかりの人物)が主導する連合には西大陸の大多数の国が参加しており、聖ソーク(セイソーク)もその一員だった。連合の最終段階で、聖ソーク(セイソーク)は最も早く連合を脱退し、突如クリス半島へ出兵した。

 これが当時の反オーカ(オーカ)連合崩壊の引き金となった。


 現在のオークリーの文書は、聖ソーク(セイソーク)が当時率先して裏切った行為を非常に憤慨して記しており、連盟崩壊の元凶だと考えている。

 ――しかし政治とは、一方の言い分だけを見れば偏りが出るものだ。


  ……


 一方、秉核(ヘイカク)が聖ソーク(セイソーク)天体塔で見た資料には、別の記述があった。秉核(ヘイカク)個人としては、聖ソーク(セイソーク)の資料のほうが真実味があると考えている。


 当時のオーカ(オーカ)帝国はすでに衰退の底にあり、もはやどの方面にも脅威を与えておらず、しかもその抵抗はかなり頑強になっていた。

 そこで当時の連盟は、オーカ(オーカ)を完全に打ち倒すことも分割することもできないと気づいたのだ。


 軍事同盟が、自国と同盟国に共通の脅威を感じさせる目標を失い、しかもすべての同盟国が戦争で利益を得られなくなった時、その軍事同盟はすでに継続の基盤を失っている。


 当時の反オーカ(オーカ)連合はすでに権謀術数が渦巻いており、あとは解体のきっかけが欠けているだけだった。


 前代のオークリー大公(オークリー)は後半生こそ善人だったが、当時は一流の陰謀家であり、自国の国力の状態をよく理解していた。戦争後期、この大公はオーカ(オーカ)を殲滅できないと悟ると、オークリーの戦後利益を画策し始めた。


 当時、オーカ(オーカ)の地中海艦隊がまだ完全に追い出されていなかった頃、オークリー大公(オークリー)は東部戦線の緊張を口実に、クリス半島の防衛兵力を撤収させた。この大公の計画では、ロランド東側に位置するこの戦略的要衝をオーカ(オーカ)に譲り渡すことで、オーカ(オーカ)艦隊の勢力を地中海東部に維持させ、東線で強大化するおそれのある聖ソーク(セイソーク)を牽制しようとした。


 聖ソーク(セイソーク)が牽制されている間は、地中海のオーカ(オーカ)人という脅威が残るため、オークリー大公(オークリー)は中部で盟主の役割を維持し、戦後もその指導的立場を続けられる。


 もしオークリー大公(オークリー)の計画が完成すれば、聖ソーク(セイソーク)には大陸の憲兵として活動する余力はほとんど残らないだろう。


  ……


 ―――――

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