謀る者の謀 その二
その頃。
聖ソーク帝国、
天体塔の最上階にある、皇帝専用の執務室。
ここには厚い羊毛の絨毯が敷かれ、六平方メートルもある大きな机が、ホールの目立つ場所に威厳を放って置かれていた。
机の上の明るく輝く電灯が白熱の光を放ち、角度の関係で、その光は|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》の正面にいる人物を直接照らしていた。
この時、|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》の前に立つ者は、強い光に思わず頭を垂れ、目を細めてしまう。
そのため皇帝の表情を見ることも、心中を推し量ることもできない。
……
光の中。
|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》陛下は、西大陸から届いた資料に目を通していた。
聖ソークは西大陸における百年近くの大陸憲兵であり、ヒーマン人の選帝侯という重大な政治活動を当然ながら見逃すはずがない。
実際、前代のオークリー大公が突然の病死を遂げたことは、|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》をひどく惜しませ、また頭痛の種となった。
前代のオークリー大公はこの二百年の間に聖ソークと一連の同盟条約を結んだ。
双方の関係は元々の不仲から、次第に準軍事同盟へと転じていった。
双方はヘイラ人を封じ込め、プロイスの軍事拡張を抑えるなどの問題で共通の認識を持っていた。
しかし新大公が就任してから、聖ソークとオークリーのこれまで安定していた関係は、突然揺らぎ始めた。
……
皇帝の執務室には、さらに三人の人物がいた。
三人は机の前に直立不動の姿勢で立ち、頭を下げ、恭順の表情で皇帝の裁定を待っていた。
三人の名は、それぞれ許令、瀚丞、北嶼であった。
※注、この三人はそれぞれ憲兵総署、軍情総長、外務部に属する。三つの独立した情報組織である。
非常に無駄で肥大化しているように見える。
しかし帝国にとって、三つの情報部門を養うことはきわめて必要だ。もし一つの組織だけに情報を任せれば、帝国にとって恐ろしい事態となる。その組織は帝国内で制御不能な闇組織と化すだろう。
例を挙げれば、二十世紀の地球――アメリカのFBI長官|ジョン・エドガー・フーヴァー《ジョン・エドガー・フーヴァー》は四十八年間その職に就き、誰も彼を退任させられなかった。在任中、ケネディ大統領は路上で射殺され、事件は未解決のままとなった。
彼が死ぬと、議会の議員たちはすぐにアメリカの情報組織を三つに分割した。
そしてここで、|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》が帝国の三つの情報組織を巧みに統制していることは明らかだった。
各情報機関の長たちも、互いに恐怖による抑止力を形成していた。
……
この時、|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》は三つの資料を手に取り、一通り目を通した。
思わず眉をひそめた。
三つの情報機関が現在集めている情報は、いずれも高度に一致していた。
オークリーの新任大公は傲慢な性格で、祖父が後半生に重ねた対外的な妥協のすべてに不満を抱いていた。この新任大公はオーカにも聖ソークにも敵意を向けていた。
同時に、ヒーマン帝国の各公国に対しても、理解しがたいほど見下した態度を取っていた。
(お嬢様の運命もないのに、お嬢様の気性だけは持っている)
聖ソーク外務省がこの新大公を訪ね、即位を祝った時のこと。新大公は非常に傲慢な態度で、「クリス半島の帰属権」の問題について聖ソーク帝国の皇帝と改めて話し合う必要があると表明した。
……
クリス半島
この地域は、聖ソーク帝国の前々代の皇帝が手に入れたものだった。
二百七十年前。当時の|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》は大陸情勢の変化を見て取り、非常に果断に艦隊を北へ派遣すると、地中海北岸に上陸してこの半島を占領した。
この事件が起きた時、当時の前代オークリー大公も最も若く壮んな時期にあり、反オーカ連盟の指導者として、このような挑戦に対しては、指導者の威信のために聖ソークとの軍事衝突を余儀なくされた。
……
オークリー当局の説明によれば、こうである。
当時、西大陸南東部の強国聖ソークは、連合軍が西線で戦っている隙に乗じ、大陸中部へ勢力を浸透させようとした。
当時のオークリー大公はただちに西線から引き返し、軍勢を率いて聖ソーク軍に痛撃を加え、聖ソーク軍をクリス半島の要塞群へ押し込めた。(結局、聖ソーク軍をクリス半島から追い出すことはできなかった。)
オークリー大公が率いる連合は、聖ソークが大陸中央部へ介入しようとする試みを封じ込めた。
この衝突の後、双方は交渉の席についた。
最終的にオークリーは、条約によって聖ソークのクリス半島占拠を黙認し、聖ソーク帝国との間に一連の貿易条約を結んだ。一方の聖ソークもオークリー大公の権威を認め、クリス半島の駐留軍を五千以下に抑え、装甲部隊の駐留を禁じた。
オークリーと聖ソークの確執は、当時から続くものだった。
両国の対立は多くの面で敵対関係を生んだが、それは現在の利益環境にはそぐわない。
かつて双方の首脳は、この対立が現在の国際環境にそぐわないことを認めていた。
しかし一朝一夕に修復できるものではなく、暗黙の外交によって緩やかに接近するしかなかった。
しかし現在、新たに即位したオークリー大公は、当時の衝突点を直接持ち出してきた。初めから難癖をつけるような態度に、従来の暗黙の了解を続けようとしてきた聖ソークは困惑していた。
当時の条約は、オークリーにとって敗北せずして敗北したに等しいものだった。
もしオークリーの国力が強盛であれば、確かにこの過去の出来事を持ち出し、相手とじっくり話し合うこともできただろう。
しかし今は!
……
|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》は机の上の書類をもう一度目にし、三人の情報部門の長を退出させた。
皇帝はこめかみを揉みながら、机の上の呼び鈴を押した。
同時に、机の上を照らす強力な電球を消した。
その時、控えの間で記録を取っていた燦鴻が、彫刻の施された木の扉を開けて机の前に進み出て、父帝の言葉を待った。
|聖ソーク皇帝《聖ソークコウテイ》は机の上の資料を指さし、燦鴻に自分で見るよう促した。
そして、泣くに泣けず笑うに笑えない調子で訓戒した。
「見てみろ、これが愚か者というものだ。これこそ、純粋な愚か者だ!」




