オーカへの調査 その二
オーカ帝国は先進的である。
貴族たちは工場の需要に応じて、多くの安価な学校を設けた。
意図的であれ無意識であれ、都市で四年間の基礎教育を普及させたからだ。
この教育は無料ではないが非常に庶民的で、都市の五十%の家庭が読み書きを学べるほどの手頃な価格だった。
当然のことながら、教育の基盤が整い、労働者の数が増えたからこそ、オーカ帝国の貴族たちはこれほど残忍に労働者を搾取できる。
工場でストライキが起きても、軍警部隊を出動させて銃剣で弾圧することさえできる。
人手不足を心配する必要はない。
それに比べ、銃焰家ではストライキがほとんど起きない。銃焰家の生産コストではストライキによる損害を支えきれず、労働者の生活にある程度の譲歩を与えているからだ。
……
(1)オーカ帝国の労働者たちが残酷に扱われているといっても、比べるべきは聖ソークの労働者ではなく、聖ソークの農奴である。
(2)聖ソーク帝国の九十%は農奴であり、聖ソークの大多数を占めるのは農奴である。
最低限の生活水準の下で労働力を安売りし、叫ぶ力さえ持たない。
自分の境遇を文字で表す能力もない。文盲だからだ。
(3)聖ソークが大量の農奴に教育を施して労働者に転換させた暁には、聖ソークでも同じ問題が起きるだろう。
4、オーカーが立憲君主制を脱し、完全にトラスト寡頭資本主義共和国になった時、基礎教育はより良くなる。
工業人口は十%からさらに大幅に上昇し、四十%に達するだろう。
しかしそれは単に、工業人口を拡大させるために多くの社会資源を譲り渡すだけのこと。
決して、すべての労働者の生活の質を向上させるに足る資源を譲るものではない。
『ある種の事件』を経なければ、上層部の統治者が基礎工業人口の待遇を意識的に向上させることはない。
相変わらず銃剣と鎖で、基礎階層の安定を維持することを選ぶ。
5、たとえ現在のブルジョア階級の上層部が『あのような事件』で深刻な社会的圧力を感じたとしても、
最終的には『自国の工業人口を減らす』ことで、鎮圧の難易度を下げる(人数が減れば当然、管理しやすくなる)。
『残りの工業人口の生活の質を向上』させて矛盾を減らす。
(この階級でパンを分ける人間が減れば、一人当たりの取り分が増え、抑圧されている感覚もなくなる)
注、聖ソーク皇室の現在のやり方は、自分たちがそれほどの工業人口を管理できないと悟り、大規模な工業経済の発生そのものを阻止している。
新貴族の権利拡大を抑え、大部分の人口をきわめて鎮圧しやすい農奴状態に留めている。
聖ソーク皇室がこのように操作するのは、皇帝の意思だけではなく、巨大な旧貴族たちの意思でもあった。銃焰・秉核はこれらの結論を集計し終えると、聖ソークの状況に対して悲観的な態度を取るようになっていた。
改革を行えば、皇室をはじめとする多くの貴族の権力が弱まり、必死の内乱が起こって国家は崩壊するだろう。
改革を行わなければ、聖ソークは緩やかな過程の中で滅びていくしかない。銃焰家は活路を考えざるを得ない。
要するに、秉核は「聖ソークは終わった」と考えていた。
……
頓特港に滞在する最後の日。
蒸気が立ち込める紡績生産ラインの傍らで、銃焰秉核は女工たちの手に幾重にも重なった火傷の跡を見つめた。
彼女たち一人ひとりに耐熱のアスベスト手袋を渡すと、四十ページにわたるノートを閉じ、工場の門をくぐってこの実地調査を終えた。
銃焰秉核は四輪馬車に乗り込み、馬車の銀の鈴の音と、蹄鉄の鋼が地面を刻むカタカタという音を聞きながら、頓特港にある塔視家の豪華な屋敷へと戻った。
寝室に戻ると、
秉核は書き物机に座り、鯨油ランプに火を灯した。
油量を最小に絞り、管を差し込んで空気分離魔法と気流導引術を発動させ、ランプに高濃度の酸素を送り込んだ。
すると光は数倍も明るくなった。
少し明るくなった光の中。
秉核は荷物を整理し始めた。
二羽の機械鳥、さまざまな部品、そして機械工業用の機甲が、大きな箱いっぱいに詰め込まれていた。
衣服やお菓子、日用品などはメイドたちが用意してくれたものだ。しかも秉核はオルカ帝都に行っても不遇に扱われることはないので、天然ボケなもので、これらのことには気が回っていなかった。
……
その夜。
寝間着を着た秉核は窓辺に歩み寄り、窓を開けた。
冬の冷たい風が部屋に吹き込んでくる。
風の強いこの夜、頓特港の空には珍しく星が輝いていた。
三日月が浮かび、異常に明るい神国の星が北極の夜空に高く輝いていた。
空全体でもっとも魅力的な天体だった。
太古の時代、聖人は神国の星へと足を踏み入れ、永遠を享受できたという伝説がある。
……
星空を仰ぎ見ながら、秉核はふと物思いに耽った。長く故郷を離れていたせいか、銃焰秉核は少しホームシックになっていた。
だから空を見上げた時、秉核は思わず呟いた。
「家?」
そう言いかけた途端、秉核は激しく首を振った。
整っていた髪が揺れてふわふわになったが、振り終えるとすぐに元に戻った。
ぼんやりしていた瞳も、素早く平常に戻った。
その後、秉核は軽く笑った。
「私には関係ないよ。世界は自分で発展していくんだ。そして、私は」
秉核は口元を歪め、天を仰いだ。
いたずらっぽく手を上げ、指で星空に向かって空中に文字を書きながら、一文字ずつ区切って言った。
「到・此・一・游」




