置き去られた混迷と、これから生まれる混迷 その二
蒸気暦1026年11月
ドゥーント港。
秉核はまだ知らなかった。何千里も離れた母国で、自分の家出が大騒ぎを引き起こしていることを。
秉核は塔視家の屋敷にある展望灯台の最上階で、のんびりと本を読んでいた。
これは塔視家の特徴で、どの屋敷にも高さ六十メートルの灯台が建てられている。灯台の頂上は図書館になっていた。三百年前、オーカ帝国がまだ東方領土を失っていなかった頃、塔視家は三度にわたって東方の花港の総督を務めた。
そこから大量の書籍や資料が運び込まれたのだ。
秉核はゆっくりと本を閉じ、軽くため息をついた。
「大陸の覇者だった国には、やはりそれなりの蓄積がある。この蓄積は、本土が戦争の影響を受けなかったおかげで保たれたのだ」
たとえ衰退しても、本土が戦火に巻き込まれず、最盛期に世界中から集めた文化典籍を大量に保有していれば、その文化にはかつて世界を支配した面影が依然として残る。
だから今、秉核が感嘆しているのは、塔視家の底力というより、数百年前のオーカ帝国が世界帝国だった時代、この世界がいかに繁栄していたかということだった。
……
侯爵家に伝わる機械師の法脈の文献資料は、銃焰家が想像もつかないほど豊富である。
物質分離という新魔法に対応する法脈は、侯爵家の文献の中に数百の変種が記録されている。
枝分かれした成立の時系列が、長い歴史を物語っていた。
空気分離術は上古魔法であり、爆炎火球術の補助部分にあたる。
新魔法が台頭した後、この魔法は分離され、その後も絶えず発展と拡大を続けた。
神賜時代の終わりから現在まで、実に二万年。新魔法は絶えず発展を続け、今に残る新魔法はかつて存在したもののごく一部に過ぎない。多くは時間の流れの中でそのまま消滅し、秉核にとって聞いたこともない魔法もあった。
たとえば、神賜時代の最も早い時期のこと。
高魔生命現象探索魔法。
これは十キロメートル圏内で旧魔法師の出現を正確にとらえる新魔法である。
当時の旧魔術師の攻撃魔法は、せいぜい数百メートル程度に過ぎなかった。
神賜時代には電子飛行傀儡にこのシステムを搭載し、旧魔術師たちを逃げ場なく追い詰めた。
そのため旧魔術師たちも銃を使い始め、最終的に最初の射手の原型が生まれた。
この新しい魔法は消えていった。
この興味深い話は、海人類から入手した水晶方石から解読されたメッセージである。
――そしてこの文献資料は、オーカー人が奪い取ったものだった。
……
もちろん、面白い話ばかりではない。秉核は実質的な内容にも目を通した。たとえば「要塞」という職業、要塞と領域魔導師について。聖ソーク帝国では調べられなかったものが、ここで見つかったのだ。
上古の領域魔導師は、大規模な範囲を改変できる魔導師だった。
火系領域魔術師は、千メートル余りの範囲で酸素濃度を上昇させる。
すべての可燃物に火を点けることができる。
氷系領域魔術師は、高度四千メートルから一万メートルの熱交換を直接引き起こす。
ドラゴンと魔法力を競うと称される職業である。
現在の要塞は、上古においては失敗した領域魔術師に属する。領域の強度が不十分だったのだ。
現代の要塞はすべて、精密性に特化している。
上古の領域魔導師は全身が元素化していた。
もちろん神賜時代にあっては、いかなる魔法も発動せずとも超巨大な電球のようなものだ。
数百キロ離れた超大型ロケットが対応する探知システムを搭載していれば、正確に爆撃できてしまう。逃れることすらできない。
上古においては威張り散らしていた職業が、神賜時代には国家の暴力装置に直接屈服したのである。
現代の要塞は、八千年前の青銅砲火薬時代の必要性に基づいて形成された類似の職業である。
元素の総量は大幅に縮小され、元素化した躯体もない。
領域を維持するエネルギー源は、上古の領域魔導師に比べて非常に小さく、わずかに高い魔力のプールに過ぎない。
この魔力のプールを中心に、他の法脈の分布は高度にバランスが取れている。
こうした均衡の取れた領域が多ければ多いほど、同じ周波数の振動作用を通じて、高度に敏感で精密な領域を形成できる。
……
この種の領域は、せいぜい太陽光を一点に集中させ、範囲内に塵の障害物を作り出して、兵士に遮蔽を提供することができる。
しかし砦職は、数百メートル範囲の光学情報を頼りに、数十キロ先の目標情報を一瞬で正確に測量できる。
砲弾がまだ飛んでいる間に、弾道と着弾点を計算できるのだ。
これは上古の領域魔導師には不可能な技である。
総じて言えば、銃砲がなければ領域魔導師は砦職を弟分のように扱える。
だが銃砲があれば、砦職は数キロ離れたところから領域魔導師を粉々に砕くことができる。
……




