置き去られた混迷と、これから生まれる混迷 その一
四千キロ離れた聖ソーク帝国の波輪港。海辺のビルの中で。
波輪侯爵は激怒していた。
怒りの矛先は、一族の中で波輪港の治安を担う役人たちだった。
警察官や税務官といった面々である。
警察官や税務官は、すべて侯爵の弟や兄の弟子にあたる。比較的近い傍系の者たちだ。
しかし、中位職業者に昇格した者は一人もいない。
どの一族にもこうした者たちがいて、一族は彼らの能力に応じて領地内の要所に配置する。
この連中は皆やり手だった。波輪城内へ毎晩欠かさず納税してくる大規模な私設港も、彼らの手によるものだ。波輪港で生き残っているギャング団には、いずれも庇護者がいる。
今の封建的な管理体制を利用し、下から可能な限り多くの金を搾り取っていた。
下界で好き放題に振る舞ってきた貴族の子弟たちは、今、冷や汗を流しながら侯爵の痛罵にじっと耐えている。
少しも動こうとしない。
侯爵は罵りながら、次々と物を投げつけた。
水の入ったコップが税務官に当たり、熱い液体で彼の顔の皮膚が一面に赤く焼けた。
ガラスの水槽は警官の頭に直撃し、床で粉々に砕け散った。
血が額を伝って流れ落ちた。
もちろん、この二人は少しも身をかわそうとしなかった。
波輪侯爵はまだ怒りの収まらない様子で、二人を指さして罵った。
「お前らは普段、港の状況はすべて把握していると胸を張っていたくせに、今になってあの子がどの船で出たのかさえ分からないとは。こんな役立たずに生きている価値があるのか?自分で言ってみろ、一族がお前らのような役立たずを養う必要があるのか」
「秉核様は港で一晩過ごしただけで、たまたま選んだ船だったのかもしれません」
侯爵の激怒に、一人が必死に弁解した。
「黙れ」
侯爵は歩み寄り、その男を激しく蹴り飛ばした。
侯爵がこれほど取り乱しているのは、怒りが一分、残る九分は周囲への見せかけであった。その場には銃焰藍寸も侯爵の側にいた。
藍寸は機械制御者で、今年銃焰家から波輪家へ派遣された支援者である。
今年、帝国情報部は秘密裏に詳細な調査を行った。波輪家が秉核の逃亡に何ら陰謀を企てていなかったことが判明したのだ。
そこで皇室は調査情報の一部を暗号化したうえで、銃焰家と波輪家に公開した。
……
(注)これは皇室の一種の政治的駆け引きである。もし波輪家が関与している兆候が調査で見つかれば、その弱みを直接握って波輪家を脅迫するだろう。
しかし調査の結果、本当に波輪家とは無関係だと判明しても、進んで波輪家の嫌疑を晴らすことはしない。
疑わしい調査結果の一部を公開し、両貴族の間に亀裂を生じさせ、皇室が仲介に入れるようにする。
イラクが本当に大量破壊兵器を持っていたかどうかを、自由の灯台国の世界一の情報機関が知らないはずがないではないか?
はっきりした証拠が得られなかったからこそ、曖昧な疑いの口実しか作り出せないのだ。
……
根も葉もない嫌疑を一身に浴びた波輪侯爵も呆れ返っていた。
聡明な彼には、帝国皇室に属する中央情報組がなぜこの部分の証拠だけを公開したのか、よく分かっていた。
帝国皇室が自らの嫌疑を晴らした後、視線をそらすための小手段である。
ゆえに今の激怒の演技がある。もちろん、この大広間にいる二人は確かに殴られて当然だった。秉核は彼らの指の隙間から逃げ出したのに、彼らはまったく気づかなかった。
それを帝国情報部が後から調べて発見したのだ。
銃焰藍寸は眼下の混乱を見て、波輪家が本当に関与していないことを確信した。——(注)もし波輪家上層が関与していたなら、これほどの部下が罰せられるのを目の当たりにした今頃、波輪侯爵は必ず馬脚を現していたはずだ。
すべての支配的権威は、比較的公平な賞罰の上に築かれる。
銃焰藍寸は、波輪侯爵の怒りを静めるよう諫め始めた。
……
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