目標、ウェスト その一
十時間後、日が高く昇った頃。
密航船はすでに港を遠く離れ、地中海域に入っていた。
秉核は部屋を出てデッキに上がった。デッキで船を操る水夫たちは秉核の姿を見ると、こぞって道を避けたが、その視線は一斉に、甲板に現れたこの軽やかな子供に注がれていた。
そして数分後、十時間前に秉核の乗船を許可した船頭が、デッキに上がってきた。
この船頭は背が低かったが、船内の大柄な男たちを押さえつけられるのは、間違いなく職業者だったからだ。
職業タイプは水夫(下位職業)で、船体の上から水流を判断し、一本の針金を使い、音波系魔法で水中の状況を把握できる。(ソナーに似た機能である。)
もちろん職業レベルの差があるため、今この船頭がどんな魔法を使おうとしているのか、秉核には鋭く感知できた。
この船長が近づいてくるのを見て、秉核は無害そうな微笑みを浮かべた。しかし、目に跳ねるマトリックスカーソルと手首に点滅する蛍光の線は、秉核がいつでも発動できる状態にあることを示していた。
……
船員は秉核を見て一瞬呆然とした。先ほどの暗闇の中では秉核の容貌もよく見えず、ただ身長百五十センチの小柄な存在で、年齢は若いかもしれないと思ってはいたが、まさかこんな幼い子供だとは思わなかった。
この十時間、船員は秉核の正体をずっと推測していた。当時の秉核が与えた印象は、大事件を起こして急いで逃げ出そうとする超一流の大泥棒のようだった。
そのためこの十時間、船頭はひどく悩んでいた。
闇社会で生計を立てる彼としては、他の複雑な事柄に巻き込まれるのを忌み嫌っていた。
そして今、秉核を目の当たりにした船頭はさらに困惑した。
その困惑が収まると、心の内は大きく冷めていった。
……
「決して江洋大盗などではない、どこの貴族の坊ちゃんなのだろうか」
船頭は苦々しく悔やんだ。
こうした闇の世界で生きる者にとって、貴族は絶対に関わるべきではない存在だった。
今すぐ船を引き返したい衝動に駆られた。
しかし船の上で、秉核は革靴を軽やかに鳴らしながら、楽しげな足取りでデッキを進んできた。
秉核のその言葉に、船頭の額に冷汗が浮かんだ。
「私たちはどちらに向かっているのですか?」
――この浮き立つような話し方は、どう聞いても、長く家に閉じ込められていた者が突然束縛から解放された喜びに浸っているようにしか思えなかった。
これほど陽気で浮かれる人物が、密航船に乗っているはずがない。
船頭は考えを整理し、苦笑いしながら言った。
「お坊ちゃん、あなたの才能には驚きました。ですが外の世界は、そんなに面白いものではありませんよ」
……
秉核は船頭の小さな思惑を見透かしたように、相変わらず笑いながら言った。
「分かってるよ、外には黒も白もある。人を害する心は持つな、人から害されぬ心は忘れるな。ここ数日は食事を運ばなくていい、自分で干し糧を持ってきたから。そうだ、後で船倉に行ってラム酒を一樽選ぶつもりだ(アルコール度数の低いサトウキビ酒で、長期保存ができる淡水に相当する)。それ以外は構わなくていい」
船員は黙り込んだ。目の前のこのお人好しの貴族の若様は、船上の利害を見抜いたうえで、非常に現実的な口調で言い切ったのだ。
――この船頭としては、関係を築いて近づくこともできず、袖を振って立ち去ることもできない。
「貴族か。(この世界で)関わりたくないが、関わらざるを得ない連中だ」
船頭は心の中で呟いた。
……
秉核は笑顔を浮かべていたが、その視線は常にこの船頭を捉えており、音波ビームも甲板上の人々をロックしていた。そして秉核の腰には銃が下げられていた。
現在の平和的な会話の中では、秉核は一見ウサギのように無害に見えるが、実際はそうではない。
船に乗り込んだ当初から、秉核は船内で音波術を使い、二時間にわたって船倉を盗聴していた。
そして今、力を蓄えて甲板に現れたのは、最終的な決着をつけるためだ。
交渉が完全に決裂し、協力は難しいと判断すれば、次善の策を採らざるを得ない。
次善の策は、武力で船長とその側近を始末し、同時に密航者たちと利益の同盟を結び、船上で力の均衡を図ったうえで、乗組員を組織して航海を続行させることだ。
……
船舶の組織に不慣れなまま軽率に権力の奪取を試みれば、船は大海を漂流し、混乱と無秩序が生じて、全員が自信を失うことになる。そうなれば、船上で秉核が掌握している武力も、その後の混乱には対処しきれず、たとえ一割の人間を殺したとしても、疲弊したところを襲われる脅威に直面するだろう。
組織を掌握し、船上の全員が目標に到達できると信じ、到達した先に希望があると感じさせられてこそ、武力は最大限の統制と威嚇を成し遂げられる。
秉核が望んでいたのは、この船頭と船上の組織が妥協し、団結して自分に対して何かを企てないことだった。
……
会話の最中、この船員は秉核の笑顔の背後にある意図を感じ取ったようだった。彼は頭を下げ、秉核の質問に従順に答え、今回の航海の内容について語り始めた。
十五分後。
船長の船室で、秉核は船長の寝台に寄りかかっていた。
この船長の寝室はなかなかきれいだった。
秉核は、さまざまな航路が描かれた地中海の地図を何度も眺めていた。
秉核は安堵のため息をついた。
この船長が折れてくれたことに、幾分ほっとしたのだ。
西大陸はすでに蒸気時代に入っていたが、多くの民間船はまだ帆船が主流だった。大型帆船は燃料を必要とせず、十分な食料を積めば非常に長い航海が可能だった。
しかし、これは船長と船員に高い能力を要求した。
彼らは海流や日々の風向きの変化を読み取る必要があった。
動力がすべて風に依存する状況では、彼らだけが帆船を操縦できたのだ。
……
秉核は地中海の多くの国々と、海図に最終的な目的地として記された場所を見た。
秉核は驚いて尋ねた。
「ウェストへ? ローランじゃないのか?」
―――――




