目標、ウェスト その二
秉核が盗み聞きしたとき、船倉で密航の準備をしていた密航者たちは、ローランで農作業をするつもりだと話していた。
しかし、今のブローカーたちの実際の動きは明らかに違う。
彼らはウェストへ行きたいらしい。
この違いは大きい。
ローラン公国は地中海北東岸に位置し、聖ソークの同盟国で、基本的には平穏な地域だ。一方、ウェスト公国はローラン公国の西にあり、その西側にはオーカ帝国がある。戦略的に見れば、ここはオーカ帝国と聖ソーク帝国の勢力圏の間の緩衝地帯だ。
実はそれだけではない。
ウェストの北には、ますます強大になりつつあるプルハイスがある。
二千年前、西大陸で一時的に強大を誇ったヒーマン帝国が名存実亡となった後、複数の公国に分裂し、ウェストとプロイスはその一部であった。
ウェストは大国の狭間に位置し、拡大することができなかった。
一方、プロイスはここ三百年近くオーカ人と同盟を結び、オーカ人の技術支援と自らの軍国主義的な戦争制度のもとで、大陸中部における恐るべき軍事勢力へと成長しつつある。
オーカがプロイスを支援する一方で、聖ソークはローラン公国を支援している。軍事同盟による対抗の構図は、きわめて明確である。
(注)秉核が逃亡した時、ローランが御苑家に軍馬を発注していたのは、ここ数十年にわたりローラン王国がプロイスの拡大を阻んできたためである。
各種の軍需物資が逼迫していた。
そのため、大陸の情勢が今日まで進展した今、ウェストを手中に収めたいと思うのはもはやオーカ人だけではない。
北のプファイスもウェストを併呑しようとしている。
もしウェストが鋼嶺家の支配下になく、ウェスト公国に数多くの稜堡もなく、この公国の伝統が要塞でなかったなら、ウェストはとっくに滅ぼされていただろう。
そうだな、なぜウェストにはあんなに多くの稜堡があるのか?
かつてオーカ人が東方で崩壊した時、西大陸の反オーカ連合がオーカ人を抑え込むために、当時の連合がウェストを助けて建造したものなのだ。
……
こうした逼迫した政治・軍事情勢が、ウェスト国内の状況をひどく悪化させている。
戦力も不足しているため、地中海の交通の要衝という地理的条件に恵まれていながら、商人たちはこの戦争リスクの高い地域に投資しようとしない。
ここへ投資しても、戦争が起これば物資を一時的に徴収されてしまう可能性が高いからだ。
西大陸の他の国々によるウェストへの支援も、形だけのものだった。
同じ状況と比べても、北のプルファスは三百年前、オーカ人が最も弱っていた時期にオーカ側についた。
オーカ人はプルファスに大規模な技術支援を提供し、蒸気暦以来最も貴重な人的資源である機械技師を次々とプルファスの工場へ派遣し、さらに貴重な機械制御者も二十人以上を送り込んだ。
一方、ウェスト側はこの三百年、多くのスローガンめいた支援こそ得てきたが、実際の騎士も機械技師も支援も、まったくない。聖ソークの上層部にも自覚があり、この戦略的要所はいつ崩壊してもおかしくない状態で、支援など出せるはずもないのだ。
軍事的な逼迫のため、もともと脆弱な農業経済はさらに圧迫されずにはいられなかった。
国内の農業従事者である農民たちは、ほとんど消耗品も同然だった。
……
密航ブローカーたちがこの船をウェストへ向かわせた目的も単純で、聖ソークで生計を立てる農民たちを農奴として売り飛ばすためだった。
ウェストの農奴と月墜山脈の鉱山奴隷は、悲惨さにおいてどちらも遜色がなかった。
しかし、ウェストのひどさは世界中に知れ渡っており、聖ソークで密航しようとする者などいない。聖ソークではプランテーション経済と機械工業経済のせいで、毎年多くの農民が破産している。
彼らは生きる道を求めて国外へ出る。家畜になるためにではない。
だから蛇頭は、その点について嘘をつくのだ。
(注)これらの破産農民は最後の金をかき集めて船賃を払う。
蛇頭たちは密航者から金を巻き上げたうえ、船を降りて人を売り、さらにもう一儲けする。
――心が黒い。
……
(注)地球でも同じで、密航船の蛇頭はあなたをアメリカへ送ると約束するが、着いた先はスラムでの皿洗い、不法滞在者としての過酷な肉体労働、あるいは歓楽街で売春宿の主人のために金を稼がされる暮らしだ。
……
状況を把握した後
秉核はひどく怪訝な目で船頭を見つめた。
その視線は「お前はまだ人間か?」と言わんばかりだった。
どうやら秉核の嫌悪のまなざしには耐えられなくなったようだ。
船員は苦笑しながら言った。「坊ちゃん、実は私たちが稼いだ金の大半は波輪家の治安官に納めているんです。できればこんなことはしたくありませんよ」
秉核は少し考えて納得し、その説明を認めるように頷いた(これ以上嫌悪を示せば、船上での安全が危うくなるかもしれない)。
このような密航港で生き残るのは容易ではなく、上にも下にも気を配らねばならない。
そしてそのための巨額の資金不足は、良心を捨てて他人の血肉で埋めるしかないのだ。




